第30話 お爺ちゃん、Xと戦う


「死ねぇっ」

「甘いっ!」


 副所長はブレードを霞の型と言う持ち方に変えて突きを放つ。

 源三郎は八相の型から副所長のブレードを叩き落とし、叩いた反動を利用して副所長の顎を切る。


「くっ!」

「イェアアァァッ!!」


 副所長は上体を反らして致命傷を避けるが、源三郎は追いかけるように猿叫びを上げて上段から刀を振り下ろす。


「嘗めるなっ!」

「ぬうっ!?」


 副所長はブレードを打ち上げて、源三郎の上段斬りを弾く。

 源三郎は刀を弾かれてバランスを崩して、胴体ががら空きになる。


「隙あり!」

「お前がな」


 副所長は源三郎の胴体を狙って突きを放つが、それは源三郎がわざと見せた誘いだった。


「グアッ!?」


 源三郎は半歩斜め前にずれで副所長の突きを回避すると、刀の柄で副所長の伸びきった肘関節を叩く。


「ふむ、今ので折れんのか………ゲームではダメージは与えても骨折とかはないのか?」


 源三郎が行った一連の動作は古武術の技で、相手の骨を砕くか関節を外す技。


「小細工をっ!」

「なんのっ!」


 副所長は横一文字にブレードを振るうが、源三郎は半歩後ろに下がって紙一重で回避し、一歩強く踏み込んで副所長の喉を刀で突く。


「グハッ!?」


 源三郎の攻撃が命中した瞬間、クリティカルの文字が表示され、副所長のヒットポイントバーのゲージがごっそり減る。


「お爺ちゃん、加勢するよ!」


 副所長の取り巻きを片付けた彼方達が源三郎に合流し、アーマーブレイク効果のあるポンプ式のショットガンで攻撃して副所長の体勢を崩させる。


「グッ! 嘗めるなあ!!」

「させんっ!」


 副所長は攻撃ターゲットを彼方に変えて走り出すが、源三郎が間に入って刀をぶつけて鍔迫り合いに持っていく。


「ほっ!」

「グッ!?」


 鍔迫り合いになった瞬間、源三郎は片手を離して副所長の手首を掴み、動脈を親指で押し潰す。

 そのまま相手の力の勢いと梃子の原理を利用して副所長を投げ飛ばす。


「今のなに?」

「彼方のお爺さんと敵がぶつかった瞬間投げ飛ばされたようですけど」

「お爺ちゃんの流派にある鍔迫り合いから相手を投げ飛ばす技だよ」


 ノエルは一瞬で投げ飛ばされた副所長をみて驚き、鈴鹿は彼方に源三郎が何をやったか問い合わせ、彼方はふふんと自慢するように胸を張って答える。



「ふんっ!」

「グアアアーッ!?」


 源三郎は転倒した副所長の喉を足で踏んで起き上がれないようにすると、その胸に刀を突き刺す。


「わっ、私一人では死なんっ! お前らも道連れだっ!!」

「げっ! 自爆する気っ!?」


 副所長は何処に隠し持っていたのか、爆弾の起爆スイッチを取り出して、叫ぶとスイッチを押す。


「なっ、なぜっ!?」


 だが起爆スイッチは反応せず、副所長は信じられないと言う顔で何度も起爆スイッチを押す。


「なっ! かっ、体がっ!?」


 何度も起爆スイッチを押していた副所長の体がズブズブと床に沈んでいく。


「まっ、まさかっ! Xの奴、この研究所ごど融合したのかっ!? う、ウギャアアアーッ!!」


 副所長はそのまま床に飲み込まれて断末魔をあげると同時に源三郎達の足元もグネグネとうごめき始め、周囲の風景が機械と有機生命体が融合した内蔵のような風景に変化していく。


 そしてクエストは【船に乗って研究所から脱出する】と言う内容に更新され、タイムリミットが表示される。


「ドッキングポートまで逃げるぞ!」

「うへー! タイムリミットありとか勘弁してよ、マジで!」

「皆逃げますよ」

「気持ち悪いー!」


 源三郎達は船を停めてるドッキングポートへと走り出す。

 その間も研究所内は生物の体内に変化していき、源三郎達を妨害するように、天井や壁、床から無数の触手が生えて、取り込もうとしてくる。


「ええいっ! 邪魔じゃ!!」


 源三郎が刀で襲ってくる触手を切り払う。


「このこのこのこのー!」

「SFホラーはもう結構だよっ!」

「皆さん早く!!」


 ノエルがサブマシンガンを四方八方に乱射して触手を追い払い、彼方が乱射を掻い潜って近づいてきた触手を吹き飛ばす。

 鈴鹿は生き残りの子供達を庇いながら必死に走る。


「早く船にのれっ!」

「隔壁どうしよう?」

「攻撃して壊しちゃいましょう!」

「おけ!」


 触手を追い払い、ドッキングポートに到着した源三郎達は船に搭乗すると、宇宙空間に出るための出口を封鎖している隔壁に攻撃をし始める。


「おっきな触手がきたっ!!」


 隔壁に攻撃している間も研究所はどんどん生物に変化していき、巨大な触手が源三郎達が操縦する宇宙船に迫る。


「わしに任せろっ!!」


 源三郎は悟堂のグラップラーアームに握られた剣で襲い来る触手を切り裂く。

 時折触手が叩きつけるように攻撃してくるが、何とか盾とバリアで凌ぐ。


「みんなどいで! ミサイル撃つよ!!」


 ターゲットロックが完了したノエルのケレンから無数のミサイルが発射されて、ついに隔壁に穴があき、宇宙空間に研究所内の資材や空気などが吸いだされていく。


「脱出じゃ!」


 タイムリミットギリギリで宇宙空間に飛び出す源三郎達の宇宙船。


 タイムリミットが0になると研究所の内部は完全に生物の内蔵に変化し、隔壁があった部分も肉壁に埋もれる。 


「何あれ………」


 間一髪、Xに取り込まれた研究所から脱出できた源三郎達。


 研究所の姿を見れば宇宙ステーションサイズの巨大な金属とチューブでできたナメクジに変異していた。


「ねえ、あれ近づいてない?」

「嘘でしょ! あれを倒すの!?」


 ノエルが言うように、研究所を取り込んだ巨大ナメクジ型Xが源三郎達の宇宙船にゆっくりと近づいてくると同時に【異星生命体Xを倒せ】とクエストタスクが更新される。


「っ! 攻撃が来るぞ! 回避っ!!」


 源三郎が叫ぶと同時に、巨大ナメクジの口が裂けるように開き、光の粒子が集まったかと思うと、発射される。


「うわあああーッ!」

「きゃああああっ!」

「今ので船のバリアごっそり削れた!?」



 源三郎は何とか回避できたが、彼方達3人は回避しきれずダメージを受ける。


「あいつ仲間を産み出してる!」


 更に巨大ナメクジの胴体からは次々と機械で出来た小さなナメクジが産み出されて、源三郎のレーダーに敵機として表示される。


「取り巻きは私とノエルさんが何とかします! お二人は本体をお願いします!」

「複数相手なら私のミサイルの出番だもんね!」

「承知!」

「任せて!」


 鈴鹿はホーネットの下腹部からドローンを展開していく。

 ゴブリン達と戦った時のジャミングドローンとは違う、エイのような形をしたドローンが次々と吐き出され、こちらに向かう金属のナメクジに向かっていく。


 エイ型のドローンはレーザーを照射して金属のナメクジを撃ち落としていく。

 金属のナメクジは遠距離攻撃は持っていないが、エイ型ドローンに体当たりしてダメージを与える。


「こんだけいたら狙い放題だね! ミサイル発射!!」


 ターゲットロックが完了したノエルのケレンからミサイルのシャワーが打ち出され、次々と金属のナメクジに命中して爆発して宇宙を照らす。


「わしらも行くぞ!」

「うん、お爺ちゃん!!」


 彼方と源三郎はアフターバーナーを起動して、金属のナメクジを掻い潜り、Xに近づく。


「発射!」


 彼方が操縦するシューティングスターからレーザーが照射されて、Xにダメージを与える。


「チェェエエストォォォッ!!」


 アフターバーナーのスピードをのせた源三郎が操縦する悟堂の剣でXを切り裂いていく。


「オオオオンン!!」


 Xは金属のナメクジを産み出すのを止めると、巨大な触手を産み出して源三郎と彼方を叩き潰そうとする。


「あたらないよーだっ!」


 彼方のシューティングスターは触手の攻撃を掻い潜り、レーザーを照射して反撃する。


「なんのっ!」


 源三郎が操縦する悟堂は剣で触手を打ち払い、オートタレットが触手に攻撃を加える。


「オオオオンン!!」

「どうやら奴は1つの攻撃しかできないようじゃな」


 Xは触手を体内に戻すと、また口が避けてビーム砲を撃とうとする。


「散開!」


 ビーム砲は予備動作が長く、攻撃速度が遅いおかげで二回目は全員回避に成功する。


「また金属のナメクジじゃ!」

「ビーム、ナメクジ、触手を繰り返すのかな?」


 Xはまた身体中から金属のナメクジを生み出し射出していく。


「むうっ!!」


 Xは今回、源三郎をターゲットに狙っていたのか、金属のナメクジ達が源三郎の悟堂を目指して突撃してくる。


 源三郎は剣を振り回し、盾で受け止めたり、オートタレットで迎撃するが、徐々にバリアが削られていく。


「ドローン、彼方のお爺さんを守って!」


 ノエルが操るエイ型ドローンが救援に入り、金属のナメクジを撃墜していく。


「ノエルはX本体を」

「任せて! ミサイル発射!!」


 彼方はレーザーでXを攻撃しながら、ノエルに指示を出す。

 ノエルはX本体をミサイルロックすると、次々とミサイルを撃ち込んでいく。


「グオオオオ!!」

「触手来るよ!」

「ひえええっ! 射程距離おかしくない!?」


 Xはまた触手を生やして攻撃してくる。

 触手の攻撃はノエルがいる場所まで届き、バリアで防いだノエルがその射程距離に目を白黒させる。


「これでもくらえっ!」


 鈴鹿のドローンに金属のナメクジを撃ち落としてもらった源三郎はXの背後に回り込み、エンジン部分に剣を突き刺し、傷口を広げていく。


「グオオオオ!!」

「いい加減墜ちろっ!!」


 彼方のシューティングスターがXの顔部分を攻撃し、後ろから追いかけてくる触手を回避する。


「もう一発おみまいだよ!」


 ロックオンを終えたノエルが再度ミサイルを撃ち込んでいくと、Xは徐々に押し戻されていき、ブラックホールに近づいていく。


「オオオオンン!」

「一か八か!」

「お爺ちゃん!?」


 またXの攻撃パターンが代わり、口が裂けてビーム砲を発射しようとする。

 本来なら距離をとって散開するところ、源三郎は何を考えたのか、アフターバーナーを起動してXに突撃する。


「せりゃああああっ!!」

「ギャアアアアア!!」


 源三郎はXの推進ロケット部分を切り裂いて移動能力を奪う。


 Xはそれまで推進ロケットでブラックホールの圏内から逃れていたが、源三郎に推進ロケットを破壊されたことで重力の檻に引き寄せられ落下していく。


「オオオオ!!」


 Xは触手を生やして近くにある小惑星などにしがみつこうとするが、ブラックホールの重力によってズタズタに引き裂かれ、渦に飲まれていく。


 最後に強烈な閃光を放ち、暗闇の底に墜ちていった。


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