第29話 お爺ちゃん 子供達を救う


 居住区の通気孔に隠れていたのは男女4人の子供達。


「君達だけ? 大人の人は?」

「………」


 彼方が子供達に大人ははいないのか問いかけると、子供達は俯いたまま首を横に振る。


「何があったか、誰かわかるかのう?」

「………」



 源三郎が研究所で何が起きたのか問うと、また子供達は俯いて無言だったが、年長者と思われる少女がデータストレージをポケットから取り出して源三郎達に差し出す。


「データストレージ?」

「お爺ちゃんが………証拠は全部ここにあるって………外から大人の人が来たら渡しなさいって」


 怪訝な顔でデータストレージを受けとるノエル。

 データストレージを受けとると、少女はか細い声で呟く。


「中身を拝見しても?」

「………」

 鈴鹿は子供達に視線をあわせるようにしゃがみ、優しく話しかける。データストレージを渡した少女は同意するように頷く。


『私の名前はネイハル。ここブラックホール観測研究所の所長です』


 データストレージを再生させると、白衣を着た年老いた白人男性の姿が映る。

 どうやら何処かに立てこもっているのか、ネイハル所長の背後には武装した研究員達が机や椅子で作られたバリケードに隠れて、扉を警戒している。


『我々はブラックホールのシュバルツシルト領域でエイリアン船の残骸を発見し、その残骸から冷凍カプセルを回収した』


 ネイハル所長は独白を続け、画面の半分では発見した冷凍カプセルの画像が表示される。


『冷凍カプセルの中には生命体が冷凍保存されていた。解凍に成功した我々はその生命体をXと名付け組織など研究した』


 ネイハル所長の独白は続き、アメーバ状態の生物の画像と遺伝子などの生物データが並列して表示されていく。


『Xは生物や金属機械と融合して自己修復、自己増殖、自己進化する。危険を感じた私は即座にXを再度冷凍してブラックホールに放棄を決定したが………副所長が裏切った。彼と保安部はどこかの企業から送られた産業スパイで、ここの研究を盗んでいた。副所長はXを解放してこの研究所はXに乗っ取られた』


 ネイハル所長は悔しそうに拳を握りしめ副所長の裏切りを訴える。


『私は生き残った職員とその家族とここに立て籠っている。子供達にこのデータを渡して脱出を試みる。どうか心ある人よ、このメッセージを受け取ったなら子供達をお願いします。私は所長として、いち研究者として、責任を果たします。パティ………愛している。どうか幸せに』

「ネイハルお爺ちゃん………」

 

 メッセージデータはそこで終わった。

 一緒にメッセージを見ていた少女がパティなのか、涙を流してネイハル所長の名前を呟く。


「そんな出来事が………」

「あ、クエストが更新された」

「このオプションクエストやめてよ………」


 メッセージを見終えると、クエスト内容が【脱出するためにメインフレームへ向かい、セキュリティオーバロードする】に更新され、オプションクエスト【子供達を守る5/5】と表示されノエルがうんざりしたように呟く。


「取りあえずここから脱出する。ついてきてくれるかの?」

「………」


 源三郎が優しく声をかけると、子供達は相変わらず無口だったが頷いて後ろをついてくる。


「取りあえずまずはメインフレームへ急ぎましょう」

「パティ! 無事だったんだね!」


 子供達を連れてメインフレームへ向かう為に共用区画に戻った源三郎達。

 すると、共用区画にはネイハル所長がいて、子供達の姿を見ると名前を呼んで大きくてを広げて満面の笑みを浮かべる。


「ネイハルお爺ちゃん!!」


 ネイハル所長の姿を確認したパティ達が一斉に駆け出す。


<ネタバレ失礼! そいつはネイハル所長に擬態したXです! 子供達が殺されますっ!!>


 ポコンと言うアラームと共にスパチャコメントが配信コメント欄に書き込まれる。


「チェエエエストォォォッ!!」


 ネタバレ配信コメントにいち早く反応した源三郎は電光石火の如く駆け出し、投げ抜きと呼ばれる独特の抜刀術で刀を抜くと、子供達を追い越してネイハル所長を袈裟斬りする。


「いキなリ、こウげキすルななな………なんテ、ヒヒヒひどドいなアアア」


 源三郎に斬られたネイハル所長は壊れたスピーカーのような音割れした声で酷いと抗議する。

 斬られた箇所からは血は流れず、逆に血管のような触手が無数に伸びて斬られた箇所が再生していく。


「問答無用!」


 源三郎は返す刀で逆袈裟斬りで再生箇所を再度切り裂き、流れるように横一文字でネイハル所長の首を撥ね飛ばす。


「おオおおマえたちチチちはにげ、ニゲゲられなイ。つぎこそソ、ヒヒヒひとつななロロぉおぉお」


 ネイハル所長に擬態したXは音割れした声でそういうと、ブクブクと泡立ち溶けて床に染み込むように消える。


「わしがおるかぎり、そうはさせん」


 源三郎は血糊を払うように刀を振って納刀する。


<ネタバレ本当に申し訳ありません。私もこのクエストプレイしたのですが、子供がXに取り込まれるシーンがトラウマになるほど鬱グロくて………>


 またスパチャが投稿されたアラームが鳴って謝罪のコメントが書き込まれる。


「今回は仕方ないよ。私もそんなのみたくないし。あと、無理にスパチャで話さなくていいから」

「そうだね、さすがにグロいのはちょっと………」

「私もそういうシーン見るぐらいならネタバレされた方がいいです」


 子供達が襲われるとネタバレコメントした視聴者がスパチャ経由で謝罪コメントを書き込んでいく。


 彼方達は今回のネタバレは問題なしとフォローし、他の視聴者達もほとんどがネタバレコメントにたいしてフォローしている。


 ごく一部曇らせ属性な人達が文句を言うがすぐに別のコメントで埋もれていった。


「さて、改めてメインフレームへ向かいましょう」


 Xに取り込まれたネイハル所長を撃退した源三郎達は改めてメインフレームへ向かう。


「おや、まだエサにされてない人がいましたか」


 メインフレームには先客がいた。

 ドクロのマークがついた赤いコンバットスーツに統一された集団で、ミラーシェードタイプのヘルメットで表情は読めない。


「裏切った産業スパイの副所長さん?」

「ふむ、どうやらネイハル所長の手の者ですか。それに子供達も………ここにいた人は皆Xのエサにしたつもりなんですがね。あれも好き嫌いでもあったのですかね? ハハハ」


 どこか芝居じみた仕草の副所長が笑うと、部下と思われる取り巻き達も笑う。

 副所長が笑うのをやめて手をあげると、取り巻き達もピタッと笑うのを止める。


「必要なデータとサンプルは手に入れましたし、そろそろお暇させてもらいますよ」


 副所長は取り巻きの一人が持っていたデータストレージと冷凍カプセルを指さす。


「わしらが素直に通すとでも?」

「いいえ、思いませんよ。それに、目撃者は始末しませんとね。殺せ」


 源三郎が抜刀して、切っ先を副所長に向ける。

 副所長も手で合図すると取り巻き達が銃口を向け、レーザーの光が煌めく。


「キイィエェェェッ!!」

「むっ!」


 猿叫びと共にレーザーの弾雨に飛び込み、副所長へと突撃して刀を振り下ろす源三郎。

 副所長もブレードを抜いて上段の構えで受け止め、互いに鍔競り合いに持ち込む。


「なあ、彼方………お前のお爺ちゃん、レーザー避けてなかった?」

「うん、避けてたよね」

「別VRFPSのプロゲーマー記事ですけど、RTP値が高いと銃弾が遅く見えて避けたとコメントしていた記事がありました」


 源三郎が取り巻き達が放ったレーザーを全部見て避けていたのを目撃したノエルが彼方に話しかける。


 遮蔽物に身を隠しながら応戦する彼方も源三郎の行動に絶句しており、鈴鹿が過去に見たVRFPSのプロゲーマーの記事を口にする。


「お前達、私を助けなさい!」


 副所長が叫ぶと、取り巻きの何人かがファイヤーアックスを抜いて源三郎に襲いかかる。


「させませんっ!」


 それを見た鈴鹿が機械で出来た蜂の巣みたいなものを取り巻き達の元に投げ込む。


 投げ込まれた機械の蜂の巣から蜂の形をしたドローンが大量に出没して取り巻きたちに纏わりつくと真っ赤に発熱して自爆していく。


「少々高かったですけど、効果は抜群です!」


 彼方が投げたのはウルフ星系のステーションマーケットで見つけたハイヴグレネードと呼ばれる使い捨ての爆発物。


 大量の蜂型ドローンを纏わりつかせて自爆することで爆発ダメージを与える。


 たった1つで一般的な手榴弾の10倍もする値段だか、鈴鹿のドローンアビオニクススキルでダメージが強化されており、かなりの数の取り巻き達にダメージを与えた。


「サブマシンガンの弾薬たっぷり買い込んだからね!!」


 ノエルはラピッドファイアが付与されたサブマシンガンを乱射して弾幕をはる。


「リロード! 彼方お願い!」

「うん!」


 サブマシンガンの弾が切れてリロードに入るノエルと交代するように彼方もハイヴグレネードを投げる。


「お爺ちゃん! 雑魚は私達に任せてそいつやっつけて!」


 彼方が手を振って源三郎を応援する。


「任せろっ!」

「ええい、役立たずがっ!!」


 鍔迫り合いから一旦離れた源三郎と副所長。

 源三郎は彼方達の応援にサムズアップで応え、副所長は取り巻き達が次々と倒されていってることに苛立ちを覚える。


「さて、第二ラウンドといこうかの」

「ふんっ! その余裕すぐに潰してやる!!」


 戦いは源三郎と副所長の一騎討ちに流れていった。





 



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