第28話 お爺ちゃん、研究所の様子を見に行く


「あれがブラックホール………」


 レオン星系のステーションでクエストを受けて、目的地へとワープアウトした源三郎達。

 コクピットから見えるブラックホールの景色に圧巻され見とれていた。


「あれがクエスト目的地の研究所ですね」

「特に襲撃を受けたとかじゃなさそう?」


 ブラックホールを周回する小惑星の1つが基地に改造されてる。

 彼方はズームアップして基地を視認するが、特に襲撃を受けたような気配は見受けられない。


「とりあえず通信してみるね。こちらフリーパイロットノエル。ブラックホール観測研究所応答お願いします」

『…………』

「あ、あれ? もしもーし? クライアントさんから定期報告ないから様子みてきてっていわれたんですけどー?」

『………』


 ノエルは研究所に通信を送るが返事はない。

 何度こちらから呼び掛けても、研究所からの応答はなかった。


「あ、クエストが変わった。とりあえずみんな、ドッキングポートに停泊しよう」


 ノエルが何度か研究所に呼び掛けると、クエストが更新され、ドッキングポートに停泊して直接研究所内を探索することになった。


「全然反応しないね」

「お留守なんでしょうか?」


 研究所に近づくが、全く向こう側からのアクションがない。


「ドッキングポートに船があるね」

「この研究所の船でしょうか?」


 研究所のドッキングポートには何隻か鯨のような形をした宇宙船がドッキングして停泊している。


「輸送用の宇宙船のホエールですね。移動や輸送などに広く使われている宇宙船です」


 サポートロボットのロボが停泊している宇宙船について解説してくれる。


「誰もいませんね………」


 源三郎達は船をドッキングさせて研究所内へと足を踏み入れる。

 ドッキングポートエリアには誰も人はおらず、ポートエリアにある資材も放置されたままだった。


「すいませーん、誰かいませんかー?」

「非常用の明かりのみ? 何かあったようじゃの」 


 ドッキングポートエリアは非常用の明かりだけで、彼方が叫んでも誰も人が来る気配はない。


「とりあえず、研究所内を探索し───」

『当研究所は封鎖されました。隔壁が破壊された場合、この研究所は速やかにブラックホールに自沈します』


 源三郎が先に進もうとした瞬間、けたたましい警報が流れ響き、ドッキングポートから宇宙に出るための出入口に分厚い隔壁が降りる。


「またこのパターンですか! このゲームの研究所は毎回トラブル起こって封鎖されるのがデフォルトなんですか? 運営さーん!!」


 鈴鹿が運営に文句を叫ぶ。


「まあまあ落ち着いて」

「とにかく、脱出する方法さがそ、ね?」


 ノエルと彼方が鈴鹿を宥める間、源三郎はドッキングポート内を探索する。


「おーい、こっちにまだ生きてる端末があったぞ。ただロックかかっててワシじゃ何もできん」

「はーい、今行きまーす!」

「鈴鹿も行こう、何かわかるかも」


 源三郎が生きている端末を見つけて応援を求めると、ノエルが手を上げて返事をして向かう。

 彼方が鈴鹿の背中を押しながらノエルの後ろをついていく。


「はい、ロック解除っと」


 ノエルはなれた様子でデジタルピックで端末のロックを解除して端末情報にアクセスする。


「うーん? 大分前からネットワークが寸断されてる? 内部からの破壊工作っぽい」


 ノエルがアクセスログを調べていると、この研究所は少し前からネットワークが寸断されており、外部と連絡がとれない状態だった。


 ノエルのセキュリティスキルが高いおかげか、更に深い情報として、ネットワーク寸断が内部から行われた悪意のある破壊工作活動であることがわかった。


「うーん、どう言うこと?」

「考えられるのはこの研究所のデータを狙った産業スパイによる破壊工作かのう………」


 彼方がノエルの報告を聞いて首を傾げると、源三郎が状況から推理した可能性を述べる。


「あ、居住区で複数の生命反応があったよ!」

「よし、そっちへ向かおう」

「そうですね」


 ノエルが更に端末を弄ると、新たな情報として、居住区の生命反応を報告する。

 彼方達は銃を構えて生命反応があった場所へと向かう。


「って、何これ………」


 ドッキングポートを抜けた先は共用区画と思われる場所。

 巨大な手で叩き潰されたような机やベンチ、壁にはレーザーの焦げ跡と巨大な爪で引っ掻いたような傷。

 あちらこちらに赤黒い血痕が巻き散っているが、肝心の死体が1つも見当たらない。


「敵じゃっ!」

「うえっ! きっ、気持ち悪い………」

「ちょっとグロ描写加減してよ………」

「これ運営にクレームいれなきゃ」


 先頭を歩いていた源三郎が叫ぶ。

 共用区画の中心部には異形の化け物が蠢いていた。

 その姿は人と機械とアメーバーが冒涜的に混じりあい、この研究所の職員だったと思われる死体を貪っている。


 それを見た彼方達は不快感を示し、彼方に至ってはその場で運営にグロいとクレームメール送っていた。


「ああああ………かゆっ、うま………」


 化け物は源三郎達に気がつくと、人の悲鳴みたいな鳴き声を上げ、被膜を広げて飛びかかってくる。


「ふんっ!」

「アアーッ!!」


 源三郎はバリア無視の日本刀で襲いかかってくる化け物を斬って迎撃する。

 化け物はそのまま二つに斬られて、叫び声を上げながら、ベシャリと鈍い水音を立てて地面に落ちる。


「む?」


 斬った時の感触の無さに違和感を感じて思わず疑問の声を漏らす源三郎。


「いやっ!?」

「きもちわるいっ!?」

「こっちに来ないでください!」


 二つに斬られた化け物はそれぞれがトカゲの尻尾のようにびくびくと跳ねて暴れまわり、片割れが彼方達に近づくと、彼方達は悲鳴を上げながら化け物に向かって銃を乱射する。


 銃撃を浴びた方の化け物はブクブクと泡立ち溶けていったかとおもうと、床に吸収されたように消えていく。

 もう片方の化け物は体全身を使って滑るように逃げ回り、排気ダクトの中へと消えていった。


「なんなんじゃ、今のは?」


 源三郎は鞘に納刀しながら、化け物が逃げ込んだ排気ダクトを見つめながら呟く。


「彼方さん、次からは連絡が途絶えた研究所系はやめましょう」

「うん、そうしよう」

「もしくはネタバレ覚悟で攻略サイト覗こうよ」


 鈴鹿は涙目を浮かべながら彼方に提案し、彼方もノエルも鈴鹿の手を握って同意する。


「ふむ、クエスト放棄するか?」

「うーん………どうしよう?」


 源三郎は三人の様子を見てクエストの放棄を提案すると、彼方は配信の視聴者の反応が気になるのか悩む。


「ちょっと気持ち悪いですけど、このまま放棄するのもちょっともやもやします」

「皆の意見はどう?」


 鈴鹿は悩み、ノエルは配信視聴者に判断を委ねると視聴者達は今回だけは続行を希望するコメントが多かった。


「そうだね………せっかくここまで来たんだし、やろっか!」

「そうですね、ここで放棄しても、どんな物語だったのか気になりますし」

「皆も応援してくれるし、頑張ろうよ!」


 配信視聴者の応援やスパチャでクエスト続行を求めるコメントが寄せられ彼方達は今回のクエストを続けることにした。


「とりあえず居住区はあっちだね」

「生存者がいるといいんですが………」


 源三郎達は共用区画を通り抜けて居住区エリアへと向かう。


「ここも酷い………」


 居住区エリアも惨劇が起きたのか、家具は散乱して壊され、血痕があちらこちらに飛び散っている。


「あの化け物はいないみたい?」

「生命反応の主は何処にいるのでしょうか?」

「スキャニングで探してみない?」


 彼方達三人は源三郎の背中に隠れるように身を寄せながら周囲を見回す。


「む? あそこから生命反応がするぞ」


 源三郎達はスキャナースキルを起動して居住区を探索する。


 クレジットや弾薬にクラフトアイテムなど細々とした物を見つけては回収していき、探索を続けていると源三郎が居住区の片隅にある通気孔から生命反応があることを発見する。


「ひっ!?」

「声を出しちゃダメ! 見つかっちゃう!!」

「ひぐっ………う、うえーーん!!」


 源三郎が生命反応のあった通気孔に近づくと、子供達の泣き声や息づかいが聞こえてくる。


「生存者か? わしらはこの研究所が連絡が途絶えたと聞いて様子を身に来た者じゃ」


 源三郎はなるべく優しい口調で通気孔の向こうにいる子供達に声をかける。


「………」

「化け物めっ! だまされないぞっ!」

「えーん、えーん」


 子供達は息を潜めて身を隠そうとしたり、虚勢を張って仲間を守ろうとしたり、泣いていたりしていた。


「えーっと、私達は化け物じゃないよ。逆に倒しに来たんだから」

「そうそう、さっきだって彼方のお爺ちゃんが刀でズバッて切り裂いてやっつけたんだから」

「ほら、彼方さんのお爺さんはメタルヒーローみたいで強くて格好いいですよ」


 彼方達も必死に優しい声で話しかける。


「………本当に化け物やっつけに来たの?」


 彼方達の呼び掛けが功をなしたのか、通気孔の蓋がずらされて中から子供達が出てきた。

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