第21話 お爺ちゃん、失踪した船を探す


「凄い派手な場所ね」


 バベルステーションは夜の繁華街と言う言葉が似合いそうな場所だった。

 ステーション内にある様々な施設が派手なネオンで装飾されステーション全体を照らしている。


 ステーション中央には巨大なエレベーターがあり、各階層に人々を運ぶ。

 ネオンの明かりから離れた場所は逆に薄暗く、ギャングと思われる人相の悪い連中かたむろして、獲物を狙うように繁華街に目を光らせている。


「ステーション内を探索してみたいけど、今はミッションを優先するね」

「ミッションが終わったらバベルステーションを探検しようよ」


 彼方が視聴者に向けて話し、ノエルがミッション後の探索を提案する。


 ワープ燃料の補給を終えると、彼方達はバベルステーションを出立してヘルクニア星系へワープする。


「ヘルクニア星系は全部で12の惑星があります。その12の惑星のうち居住に適した惑星は3つで、戦争ではこの居住惑星の支配圏を巡って激しい戦いが行われました」


 ヘルクニア星系に到着すると、サポートロボット達がヘルクニア星系について解説する。


「まずは行方不明船の痕跡を見つけるために各惑星でスキャンしてください」


 サポートロボットが行方不明船の探し方を教えてくれる。


「んー、皆でバラバラに探す?」

「モブパイレーツとか出てくる可能性もあるし固まったほうがよいと思います」


 彼方がバラバラに調べることを提案すると、鈴鹿が固まって動くことを勧める。


「そうじゃの、鈴鹿のホーネットは単機で戦闘はやりにくそうじゃし、この宙域のモブの強さもわからない。安全のためにも固まったほうがよかろうて」

「んじゃ、それで。まずはあそこのな惑星から調べようか」


 固まって動くことになると源三郎達は手近な惑星から調べる。


「ここは反応ないね」

「反応あっても困るよ」


 最初の惑星はガス惑星で、もしも探している船がこの惑星に墜落していたら今の源三郎の船では捜索不能だ。


「うーん、痕跡が全然ないねえ………」


 源三郎達は次々と惑星をスキャンしていくが、手に入るのは惑星の生態系や大まかな資源埋蔵量などで、肝心のミッション目標である船が見つからず、配信もだれてきた。


「あっ! 救難信号キャッチしたよ!!」


 8個目の惑星でついに救難信号をキャッチする源三郎達。


「でも、信号が弱くて大まかな範囲までしかわかりません………」

「とりあえず惑星に降りてみようよ」


 そういうミッションだからか、それとも源三郎達のスキルとレーダーが弱いのか、大まかな範囲までしかわからず、何処にいるかまでは直接惑星に降りないといけない。


「この星は大気もあって、気候も安定してるみたいだね」

「信号はサバンナ地域のようです」


 大気圏を通過して惑星上空にやってきた源三郎達。


 宇宙船のカメラ越しに地表を確認すればサバンナのような生態系が広がっている。


「あっ! あれじゃない?」

「うわっ、墜落して地面抉れてる………」

「船も折れて操縦不能っぽいですね」


 しばらく空を旋回して救難信号の発信源を探していると、墜落した宇宙船を見つける。


「あ、生存者です!!」


 墜落した宇宙船に近づくと、フレアを射出して自分の居場所を知らせる生存者。

 同時にクエストマーカーが着陸する場所を表示し、そこには手作りの旗と残骸で作ったSOSのオブジェ。


「救助にきてくれたのか?」

「ええっと、船が行方不明になったと聞いて捜索に来ました」


 宇宙船を着陸させてクエストNPCである遭難者に近づくと話しかけてくる。


「君たちの船はパーソナルシップか………我々は乗れないな」


 遭難者の1人が源三郎達の船を見てため息をつく。


「すまないが我々全員を乗せれる居住スペースのある船を持ってくるか、現地動物に奪われた信号ブースターを見つけてくれないか。こいつがあれば星系を超えて救助を要請できる」


 遭難者の発言と同時にクエストタスクが更新され、ミッションのクリア方法が2つ表示される。


 1つは船を改造するか、客船タイプを宇宙船を手に入れて遭難者を救助する。

 もう1つは遭難者が言っていた信号ブースターと呼ばれるアイテムを持ってこいと言うものだった。


「うーん………クエストの為だけに客船タイプの船買ったり、改造するのもなあ……」

「現地の動物に奪われたアイテムを取り戻す方でミッションすすめるしかないんじゃない?」


 彼方が悩みながらどうするか悩んでいると、ノエルは奪われたアイテムを取り戻すルートを提案する。


「それがよろしいかと」

「じゃな」

「その奪われたアイテムを取り戻します。どんな動物でした?」

「一言で言うと、白い毛玉だ。写真があるし、信号ブースターには発振器がついてるからすぐに見つかるだろう」


 鈴鹿と源三郎が同意してアイテムを取り戻すルートを選ぶ。

 彼方がアイテムを奪った動物の特徴を聞くと、遭難者はブレスレットを操作してホログラムで犯人の姿を表示する。


「確かに毛玉じゃな」

「毛玉ですねえ………」

「かっ、かわっ……かわいいっ!!」

「もふもふしたらたまらなさそう」


 バランスボールサイズの白い毛玉がピョンピョンと跳び跳ねる映像を見て、彼方とノエルが目を輝かして毛玉を見つめていた。


 同じように配信を見ていた視聴者達ももふもふしたいなどコメントしていた。


「もし、信号ブースターを取り戻すなら可能な限り現地動物には危害をくわえないでくれ。まだ生態系とか判明していないんだ」

「むう………肉食や敵対的でなければよいんだがのう」


 遭難者が攻撃をくわえないでくれと言うと、クエストオプションとしてダメージを与えずに信号ブースターを取り戻すと言うタスクが発生する。


「まずは空から探してみようよ」


 源三郎達は自分の船に戻ると、スキャンをかけながら低空飛行で空を飛ぶ。


「あ、クエストが更新されたよ」

「あの生物のコロニーが幾つかあるらしいな」


 スキャンをかけながら飛んでいるとクエストが更新され、複数の地点にクエストマーカーが表示される。


「あっ、逃げちゃった………」

「どうやら臆病な性格のようですね。船だと警戒するみたいです」


 宇宙船で近くのコロニーに近づくと毛玉達は蜘蛛の子を散らすように逃げてスキャンの範囲外へ消えていく。


 別のコロニーでも同じように逃げることから鈴鹿は件の毛玉が臆病な性格と推測する。


「うーん、ある程度飛んだら地上から近づかないとダメみたい」

「近づく時も慎重にいかないと逃げるかもしれんの」


 3つ目のコロニーに向かいある程度の距離まで近づくと、源三郎達は着陸して徒歩でコロニーに向かう。


「やった! 逃げないよ!」

「ぽよんぽよん跳ねて可愛いですねえ」


 徒歩で近づくと、毛玉達は逃げる気配もなく、跳ねとびながら移動しては草を食べてる。


「さて、肝心の信号ブースターを持っているのは何処でしょうか?」

「あそこだよ!!」

「あ、こりゃっ!」


 鈴鹿が毛玉達の群れを見ながら信号ブースターを持っていった毛玉を探す。

 彼方が毛に信号ブースターが絡み付いてる毛玉を見つけると走って近づこうとし、源三郎が止めようとするが間に合わない。


「ギシャーッ!」

「なんでっ! 何もしてないのに!?」


 彼方が毛玉の群れに近づくと、毛玉の群れは逃げるどころか毛を逆立て、体毛に隠れていた口を大きく開いて威嚇する。


「ばかもん! その毛玉達の足元を見るのじゃ! そやつらは子育て中じゃ!!」


 源三郎が怒鳴りながら指をさした先には親の毛玉に隠れるように大小様々な毛玉が震えていた。


「どっ、どうしよう、お爺ちゃん!」

「現実の動物と同じかわからんが、目をそらさず、背中を向けず、ゆっくり後ろ歩きでこっちにこい」

「う、うん」


 彼方が源三郎に助けを求めると、源三郎は現実の野生動物と同じ対処法を彼方に教える。


「はぁ………はぁ……」


 彼方は荒い息をしながら一歩一歩後退りする。


 毛玉達は威嚇するだけで追いかける様子はなく、彼方はゆっくりと毛玉達から距離をとり源三郎達の元へたどり着いた。


「びっ、びっくりしたぁ~」

「彼方ちゃん大丈夫?」

「怪我は?」


 彼方は助かったと理解するとその場に腰を抜かしたように座り込み、ノエルと鈴鹿が駆け寄る。


「うーむ、すっかり警戒しておるのう」


 源三郎がある程度近づくと、毛玉達は威嚇するように牙を見せつけてくる。


「臆病な性格だったんじゃないの~?」

「宇宙船のような大きなサイズは逃げるか、子育て中は別かってとこかの」

「ミッションどうしましょう………」

「できたら攻撃したくないなぁ………」


 すっかり警戒させて、信号ブースターが絡まった毛玉に近づけない源三郎達は途方にくれていた。


「久方ぶりじゃが、ゲームの体ならいけるじゃろ」

「ん、お爺ちゃん何するの?」


 源三郎は唐突に柔軟体操を始め、彼方が首をかしげる。


「こうするんじゃよ!」

「ちょっ!?」


 源三郎は毛玉に向かって走りだし、彼方達は驚いた表情になる。


「ギシャーッ!」

「ほっ!」


 毛玉の1匹が源三郎に噛みつこうと飛びかかるが、源三郎はスライディングで毛玉の下を通り抜け、走り抜ける。


「ガアアーッ!」

「グオオオッ!」

「よいしょっ! こらしょっ!!」


 2匹目は180度開脚ジャンプで飛び越え、3匹目は近くのサバンナアカシアに良く似た木の枝を利用して逆上がりの要領で回避し、枝のしなりを利用してジャンプする。


「取った! 逃げるぞ!!」

「お爺ちゃん凄い!」

「オプションクエストクリアだって!」

「早く戻りましょう!」


4匹目、5匹目を身体を回転させて方向転換や、飛び前転で避けてついには信号ブースターだけを回収して宇宙船が待機している場所まで一目散に逃げる。


 毛玉達はある程度の距離までは追いかけるが、途中で諦めてコロニーに戻っていく。


「これがあれば我々も故郷に帰れる! 本当にありがとう。あの現地動物にも傷1つついてなくてよかった。これはお礼だ」


 遭難者のキャンプに戻って信号ブースターを渡すと、遭難者達は喜びミッション終了になる。


 クエストオプションクリアで報酬のクレジットだけでなく、源三郎達は宇宙船関連のスキルチップを貰う。


「それじゃ、タスケン星系のバベルステーションに一旦戻ろうか」

「ついでにステーションを探索しない?」

「いいですね」

「それはまた明日じゃな。もういい時間じゃぞ」


彼方達はバベルステーションの探検を計画するが、源三郎がリアル時間を知らせてログアウトを勧める。


「あ、本当だ」

「残念ですけど、今日はここまでですね」

「最後にスパチャの皆さんへ」


 3人は最後にスパチャコメントに返事を返して配信を終えた。

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