第11話 お爺ちゃん、孫娘達とシャットダウンされた研究所を探索する。


「ここは研究所の資材搬入口か?」


 猛吹雪から逃げるように研究所に飛び込んだ源三郎は周囲を見回す。


「うわあ………なんか出てきそうな雰囲気……」


 資材搬エリアは非常灯しか明かりがなく薄暗い上に資材コンテナがあちこちに積み上げられ迷路のようになっている。

 彼方はさりげなく源三郎の後ろに隠れながら呟く。


「クローニングサービスのターミナルがあると言うことは戦闘がありそうじゃな」


 飛び込んだエアロック式の扉の側にクローニングのターミナルがあり、源三郎達は復活地点を登録する。


 クエストジャーナルは搬入エリアを抜けて研究所内部へ向かうに更新され、クエストマーカーも先に進むように表示される。


「よし、進むか」

「あ、待ってお爺ちゃん!」


 源三郎は単分子カトラスを抜刀して構え、彼方達を守るように先頭を歩こうとすると彼方に呼び止められる。


「ん、なんじゃ?」

「せっかくだからガチャで当てたスキンになってよ。はい、カメラの前でポーズとって!」

「ここでやるのか?」


 彼方は配信撮影用のカメラの指差して、源三郎がガチャで当てたメタルヒーロースーツ姿に変身してほしいとねだってくる。


「あ、それ映えそう!」

「是非お願いします」


 ノエルも鈴鹿も彼方の提案に乗り気で期待した目で源三郎を見つめる。

 コメント欄でもお爺ちゃんの変身がみたいと囃し立てるコメントが書き込まれていく。


「どうしてもやらないとダメか?」

「着・装! 着・装! 着・装!」


 源三郎は気恥ずかしさに顔を赤くしてごねてみるが彼方達三人が手拍子しながら着装と連呼し、コメント欄でも同じような合いの手が書き込まれていく。


「………わかった」


 彼方達と視聴者に押しきられて源三郎は諦めてカメラの前に立ち、ブレスレットを操作してアバタースキンを有効化していく。


「行くぞっ! 着装!!」


 源三郎が変身ポーズを取って着装と叫ぶと、一瞬でメタルヒーロー姿に変わる。


「源三郎がメタルヒーロースーツを装着する時間は僅か0.5秒に過ぎない」

「彼方、変なナレーションをいれないでくれ」


 メタルヒーローアバタースキンで顔が隠れているが、源三郎は恥ずかしさで顔が真っ赤であり、彼方の唐突なナレーションに突っ込みを入れる。


「でもコメント欄ではめっちゃ盛り上がってるよ。お爺ちゃん、レーザーブレードも見せてあげてよ」


 彼方に言われて源三郎は武器スキンで見た目がレーザーブレードに変更された単分子カトラスを構えて素振りをする。

 源三郎がレーザーブレードを振る度に独特の効果音が発生した。


「改めて出発じゃ」


 源三郎達は搬入エリアを進んでいく。


「警告! 全施設内が大幅に損壊。有害物質が施設全域に存在しています。現在施設全域をシャットダウンしています」


 搬入エリアをある程度進んでいくと、電子音声の警告と警報音が放送される。


「SFホラー映画な演出じゃの」

「今あそこになにかいませんでしたか?」

「ちょっ、ちょっと鈴鹿やめてよ!」

「………」


 源三郎は放送と警報を聞いて独り言をのべると、鈴鹿が天井の排気ダクトを指差して何かがいたと主張する。

 ノエルが震えた声で鈴鹿に抗議して、彼方は無言で源三郎にくっつく。


「ぬおっ!?」


 搬入エリアを通り抜けて施設内に続く通路に足を踏み入れると、2機のタレットが鎮座しており、思わず源三郎が声をあげる。


「銃口の向きが反対だよね」

「外からではなく内からの脅威に対応しているってことでしょうか?」


 彼方がタレットの銃口の向きが自分達に向いてないことに疑問を述べると、鈴鹿が推測を口にする。


「て言うか、停止してるよ、これ」


 ノエルがタレットに近づいてさわって見るが何も反応しない。


「取り敢えず進むぞ」


 警告と警報は今だ繰り返し放送されるが、研究施設内に存在する脅威の正体がわからないままだった。


 タレットが設置している通路を抜けると、氷山にある施設に向かうモノレールのホームに辿りつく。


 ホームに源三郎達が足を踏み入れると、金属を圧壊する音と生物の鳴き声がホームに響き渡る。


「ひいっ! いっ、今の何っ!?」

「金属が軋む音に混じって鳴き声みたいなのが聞こえましたよね?」

「おっ、お爺ちゃん! 頼りにしてるからね!!」


 お互いに背中合わせになり、銃を構えて周囲を見回す。


「キシャーッ!!」


 天井の排気ダクトが破裂したかと思うと、背中から二本の触手を生やした芋虫みたいなクリーチャーが叫び声を上げて襲いかかってくる。

 襲いかかってきたクリーチャーの頭上にはアンノウン(レベル不明)と言うネームが表示さていた。


「チェアアアアーッ!!」


 源三郎は猿叫びをあげながら逆袈裟にレーザーブレードを斬り上げてクリーチャーを斬り伏せる。


「ギイィィイエエエ!!」


 源三郎に切り裂かれたクリーチャーは思わず耳を塞ぎたくなるような断末魔をあげながら絶命する。


 だがその断末魔が呼び水となったのか、四方八方からクリーチャー達が現れ源三郎達に襲いかかってくる。


「いっ、嫌ああ! 虫はやめてよぉぉぉ!!」


 ノエルは昆虫系が苦手なのか泣き叫びながら銃を乱射する。


「ノエルさん、落ち着いて」

「あまりリアルに作って欲しくないクリーチャーだなぁ」


 鈴鹿と彼方はノエルが取り乱したのを見て逆に落ち着いたのか、冷静に銃を構えて襲ってくるクリーチャーに対処する。


「ぬおっ!? こ奴ら酸を吐き出すぞ!!」


 1人近接武器でクリーチャーと戦っていた源三郎は対峙していたクリーチャーの1体が口から噴射された液体を咄嗟に回避すると、床に付着した液体から煙が出て床が溶け始める。


「いやはや、ロックダウンした研究所で虫のエイリアンとか、本当にSFホラーな展開じゃな」

「あ、でも死体から生産用の素材がドロップするよ」

「うう………あんまり触りたくないなあ」


 襲いかかってきた昆虫系のクリーチャーは弱く、銃撃斬撃一発で死亡する。


 全てのクリーチャーを倒した源三郎達は一息つきながら死体からドロップ品をルートしていく。


「そういえばこ奴ら全員アンノウンでレベル不明と表示されてるの」

「ユーザー、このような正体不明の生物は、宇宙生物学のスキルがないと正体や特色、レベルを見ることが出来ません」


 死体に表示されてる名前がアンノウンのままであることを源三郎が指摘すると、サポートロボットのロボが宇宙生物学と言うスキルチップが必要だと説明する。


「スキルレベルが高いとドロップ品が増えたり、レア素材を手に入れることができます」

「ふーむ、とりあえずとっておいて損はなさそうじゃな」

「クエストタスクが更新されましたね」


 源三郎がロボから宇宙生物学について説明を聞いていると、鈴鹿が言うようにクエストタスクが更新され、モノレールに乗って氷山側の研究所に向かうと言う内容になっていた。


「電気が通ってなくて動かないみたいだよ」


 ホームに停車していたモノレールの操縦席に乗り込み、彼方が適当にボタンを押すが、電源が落ちているのかモノレールは何も反応しない。


「またクエストタスクが更新されたの」


 モノレールの運転席を弄っているとメインフレームルームで電源を再起動すると言う内容にクエストが変化して、クエストマーカーのルートが変わる。


「あ、ここにアクセスできる貨物コンテナがありますよ」


 メインフレームルームへ向かう途中の小部屋にあった貨物コンテナを鈴鹿が指差す。


「でも鍵かかってるね」

「あ、私デジタルピック持ってるし、セキュリティのスキルもあるよ」


 彼方がコンテナを開けようとするが、鍵がかかっており開けれない。

 すると、ノエルが挙手して懐中電灯サイズの望遠鏡みたいなのを取り出して鍵開けに挑戦する。


「セキュリティスキルは鍵開けだけじゃなくて、宇宙船へのハッキングと言うデバフを防ぐのにも役立つよ。鍵開けの様子はノエル視点で配信するから覗いてみてね」


 彼方がセキュリティスキルについて解説して、ブレスレットを弄ると配信画面がノエル視点になる。


「鍵開けの仕方は鍵がかかった対象をこのデジタルピックで覗き込むと開始されるからな」


 ノエルが解説しながら鍵開けを始める。

 配信動画ではパイプラインゲームのような画面で、制限時間までにゴールまで配線を繋げて電気を流せばロックが解除されるミニゲームになっている。


「はい、成功」

「おつかれー」

「お疲れ様です」


 比較的簡単な難易度だったのか、ノエルは数秒で配線を繋いで解錠する。


「チームを組むと組んでると仲間が開けた貨物コンテナにチーム全員がアクセスできるし、プレイヤー毎に中身が違うから取り合いにもならないよ」


 彼方は貨物コンテナの仕組みを説明し、メンバー全員が貨物コンテナにアクセスした時のドロップ品の違いを配信動画で紹介する。


 源三郎がコンテナにアクセスした時は少量のクレジットと弾薬だった。

 



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