第8話 お爺ちゃん、ガチャ配信に参加する


「少し早かったかの?」


 ギャラクシースターオンラインにログインした源三郎はアルファケンタウリにある宇宙ステーションの総合ロビーで孫娘の彼方を待っていた。


「うわっ! お爺ちゃんせっかくのゲームなのにそのままの外見にしたのっ!?」

「ん? 誰じゃな?」


 彼方を待っていると見知らぬ女性が源三郎に話しかけてくる。


「あ、お爺ちゃんにはキャラ外見伝えてなかったね、彼方だよ。ほら頭上のキャラネームもカナタでしょ」


 声をかけてきた女性はそう言うと、自分の頭上を指差す。

 女性が指差した頭上にはカナタと言う名前が表示されていた。


「彼方よ、さすがに胸は盛り過ぎじゃとお爺ちゃん思うんじゃが」

「うっさい! これは私の将来図なのっ!」


 現実の彼方が元気系のスポーツ少女な外見にたいして、ゲームての彼方はモデル系の美人な外見だった。


「それよりも、チームの皆に紹介するから来てよ」

「はいはい」


 彼方は駆け出しながら早く早くと源三郎に向かって手招きする。

 昔と変わらぬ元気な後ろ姿に源三郎は目尻が垂れる。


「皆~、お爺ちゃん連れてきたよー!」

「本当にお爺ちゃんだ!?」


 総合ロビーの中央噴水広場の一角にいた女性二人組に彼方が声をかける。


「どうも、孫がお世話になってます」

「え? まじでリアルお爺ちゃん? ロールとかじゃなくて?」


 彼方が声をかけた集団の1人、褐色肌に金髪ギャル風な外見の女性キャラが驚いた顔で源三郎を指差し、彼方に聞き返している。


「初めまして、彼方ちゃんのクラスメイトの鈴鹿と申します」

「こりゃご丁寧にどうも、源三郎と申します。今日はお世話になります」


 市松人形のような黒髪に色白肌の大人しそうな女性が深々とお辞儀をして挨拶する。


「あ、あたしも彼方のクラスメイトでノエルって言います」

「祖父の源三郎です。彼方のチームはクラスメイトで構成しとるのかの?」

「今はこの三人だけだからね。話を聞き付けた男子達が入りたがってるけど、男子禁制のチームだからねー」


 三人手を繋いで声をあわせて『ねー』と言い合い、仲の良さが伝わってくる。


「いやわしも男じゃが………」

「お爺ちゃんは保護者だからセーフ」

「ですね」

「彼方のお爺ちゃんは別枠かな?」


 源三郎は自分を指差して性別を述べると、彼方達はセーフとジェスチャーする。


「ところでわしも配信に出るらしいが、本当にいいのかの?」

「はい、今日はガチャの御披露目配信ですから、ガチャに挑戦する人が1人でも多い方が盛り上がるかと」

「人多い方が配信時間も持たせれるし」

「お爺ちゃん! 今さらぐちぐちいわない! それじゃ配信できる場所探すよ」


 彼方は源三郎の背中を押しながら移動し始め、鈴鹿とノエルもそれについていく。


「ここなら人通りも少ないし邪魔にならないかな」



源三郎達がやってきたのはキャラクターを作成して最初に通過したガラス張りの通路。


「じゃあ、撮影前の打合せするね。まずは私たち3人で挨拶から始めて、お爺ちゃんは紹介されたらカメラに入ってきて」


 彼方達と配信の打合せを行い段取りを決める。


「それじゃあハーキュリー、外部ツールの撮影カメラを起動して」

「カメラ、起動します」


 ハーキュリーと呼ばれた彼方の鳥型サポートロボットの目が光り、彼方達3人を撮影するようにその場でホバリング始める。


「皆さんこんばんわ! 彼方です!!」

「鈴鹿と申します」

「やっほー、ノエルだよ! 皆元気?」


 撮影が始まると三人は笑顔でカメラに向かって手を振ったりピースしたりして挨拶する。


「今日から正式サービスが始まったギャラクシースターオンライン、皆キャラクター作った?」

「皆様も楽しまれているようですね」

「お、もけもけさんこんばんわ! スパチャありがとう~!!」


 彼方がカメラに向かって質問し、鈴鹿は何もない空間を凝視してうんうん頷きながら誰かに対しての返信をし、ノエルは誰かの名前を呼んで、カメラに向かって両手を振ってアピールする。


「今日は正式サービスから始まった10連ガチャを皆と楽しむよ! その前に、急遽私達のチャンネルに参加が決まったサプライズゲストを紹介するね! お爺ちゃん来て!!」


 彼方に手招きされて源三郎はカメラに映る位置まで移動する。


「どうも初めまして、彼方の祖父の陽田源三郎です。孫がお世話になっています」


 源三郎がカメラに向かって挨拶する。


「お爺ちゃん、皆が色々質問しているから返事してあげて」

「返事と言われても、質問が見えないんじゃが」


 彼方はカメラを指差して質問に答えてというが、肝心の質問内容が見えていない源三郎は戸惑う。


「源三郎さんは動画サイト起動していないのでは?」

「あ、ごめん! 説明するの忘れてた!!」

「彼方はそそっかしいんだから」


 鈴鹿が助け船を出すと、彼方はミスに気づいててへぺろと舌を出す。

 ノエルはそれを見て呆れた様子を見せる。


「視聴者の皆はちょっと待ってね、お爺ちゃんに説明するから。え、本当に私のお爺ちゃんだよ」


 彼方が視聴者に向かって話しかけ、誰かの質問に答える。


「お爺ちゃん、ブレスレットの外部ツールでネット接続選んで」

「選んだぞ」

「【ヨーチューブ】【カナタチャンネル】で検索して」

「見つけた、この後どうするんじゃ?」

「今流してるライブ配信を視聴して、チャンネル登録、メンバーシップに加入を………」

「こらこら、さりげなく有料会員登録に誘導しない」


 彼方の説明を聞きながら源三郎は動画サイトで彼方達のチャンネルを見つける。

 彼方に言われるままメンバーシップに加入しようとすると、ノエルが彼方にチョップしてツッコミを入れて止める。


「チェッ、スパチャで合法的にお小遣いせびれると思ったのに………まあチャンネル登録者1人増えたしいいかな」

「腹黒いな、お前」


 ノエルにツッコミを入れられた彼方は舌打ちをして口を尖らせてすねる。

 彼方のチャンネルコメント欄では『カナタちゃんあざとい』とか『チャンネルの良心のえるちゃん!』など彼方とノエルのやり取りに対するコメントが次々と書き込まれていた。


「10連ガチャに挑戦する前に、お爺ちゃんに質問ある人いる?」


 彼方が視聴者に向かって話しかけると次々と質問がコメント欄に書き込まれていく。


「お爺ちゃん答えてあげて」

「えーっと、ゲームを始めたきっかけ? 検診で認知症の兆候が見受けられた時にの、たまたまテレビでフルダイブ式のVRゲームが認知症予防にいいときいて始めました」


 彼方に促されて源三郎は視聴者の質問に答える。

 特に多かったのはゲームを始めた理由だった。


「わしとカナタは本当に祖父と孫じゃよ。そう言うロールでもないし、老人キャラ演じてるわけでもないぞ」


 次に多い質問は本当に血縁なのか、老人プレイじゃないのかと言う質問だった。


「このゲームを選んだ理由は孫がいたからではなく、フルダイブ式のVR機器買った時に店員に勧められてプレイしたら、孫がたまたまいた感じじゃて」

「質問タイムはここまで~! おまちかねのガチャ配信だよっ! 最初はノエルからどうぞ!」

「おけ、早速いくよ!」


 源三郎が視聴者の質問に答えていくと、彼方が割って入り質問を締め切る。


 ノエルがブレスレットを操作してガチャチケットを使用すると、空間にルーレットが現れて回転し始める。


「全体的に外れが多いな」


ノエルの10連ガチャの結果は回復パックとリペアパックの詰め合わせが7個、キャラや船のアバタースキンが3個だった。


「続いて鈴鹿!」

「はい、頑張ります!」


 彼方の指名を受けて鈴鹿がガッツポーズをとりながらガチャチケットを使用してルーレットを回す。


「あら?」


 ノエルと同じように回復アイテムなど外れが9回続いたかと思うと、急にルーレットが光出す演出が入り、今回のガチャの目玉でもあるコラボアニメキャラのアバター衣装の着物が当たる。


「鈴鹿凄い!」

「おめでとう」


 彼方とノエルが鈴鹿と抱き合って喜びあう。

 配信のコメント欄も賛辞の言葉とてぇてぇとか、百合の花が咲き乱れるなど書き込まれていく。


「お爺さんどうですか、似合いますか?」

「綺麗な黒髪と相まってとても似合ってますよ」


 早速着物衣装を装備した鈴鹿が源三郎に感想を求めてくる。

 源三郎が拍手しながら誉めると、鈴鹿は頬を赤くして袖で口許を隠す。


「次は私っ! この流れで大当たり連発するからね! 視聴者の皆期待していてよ!!」


 彼方がカメラの前に出てポーズを決める。

 気のせいか、源三郎の目には彼方の頭上にフラグらしきものがたったように見えた。


「運営! ガチャバグってるよ!!」


 彼方の10連ガチャは一言でいうと惨敗

 10回全部外れ枠の回復アイテムのみだった。


「お爺ちゃん! ガチャで当たりが出るまでお小遣いちょうだい!!」

「絶対に断る!」

「うわぁ、彼方将来ギャンブル中毒になりそう」


 彼方はすがるように源三郎にお小遣いをせびるが源三郎は即答で断る。

 そのやり取りを見ていたノエルが苦笑しながら呟いていた。


「最後はお爺ちゃんだよ。私と一緒に地獄に落ちろ~!」


 彼方は源三郎に何か念を送るような仕草をしながらガチャに挑戦するように指示してくる。


「さて、どれど…………」


 源三郎がガチャチケットを使用すると1回目から大当たり演出が入る。


 源三郎がチラリと横目で彼方の様子を伺うと、能面のような表情とハイライトのない目で源三郎を見つめていた。


「凄い! 今回のガチャの目玉でもあるメタルヒーロースーツスキンじゃん!」


 ガチャ1発目は宇宙の刑事が装着していそうなシルバーのメタルヒーロースーツスキン。

 特徴として特定のポーズをとって装着と叫ぶと、瞬時にアバタースキンに切り替わるとスキンの説明テキストに書かれている。


「これで運も尽きたじゃろ。2回目は………ひぃっ!?」


 ガチャ2回目も大当たり演出が発生する。

 その瞬間、源三郎は背後からなんとも言えない殺意を感じ、ゆっくりと振り返ると彼方が笑顔で近づいていた。


「お爺ちゃん、これは私への嫌がらせかな?」

「断じて違うっ! と言うか文句は運営に言ってくれ!!」


 彼方が一歩前に進むと、源三郎は一歩後ろに下がる。


「当たったのはウェポンスキンのレーザーブレードですね」


 彼方と源三郎のおいかけっこが始まった中、鈴鹿が源三郎が何を当てたか視聴者に向かって解説する。


 近接武器の見た目をレーザーブレードに変更するもので、武器を振るとブォンと独特の音が発生する。


 その後は普通に外れ枠の回復アイテムで何とか彼方の機嫌も治り、ほっとする源三郎。


「色々あったけど、今日の配信はここまで。これからもギャラクシースターオンラインの配信するからよろしくね!」

「皆様、チャンネル登録と高評価宜しくお願いいたします」

「これからも応援してくれよな」


 最後は彼方、ノエル、鈴鹿の3人で締めの挨拶をして撮影が終了する。


「それでは夜も遅いですし、私はこれでログアウトさせていただきます」

「じゃあ、私も落ちるかな」

「お疲れー」


 鈴鹿がログアウトする旨を伝えるとノエルと彼方も続くようにログアウト準備に入る。


「わしもおちるかの」

「あ、その前にお爺ちゃん、私とフレンド登録してよ」

「私もお願いしてよろしいですか?」

「あ、私も私も」


 彼方が思い出したように源三郎にフレンド登録を申請すると、鈴鹿とノエルも申請してくる。


「わしで良ければこれから宜しくの」


 彼方達とフレンド登録を終えると、源三郎もログアウトして就寝する。

 こうして源三郎のギャラクシースターオンライン初日が終わった。

 

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