第7話 お爺ちゃん、孫と話す


「体が重い………」


 ログアウトしてVRカプセルから起き上がった源三郎は唐突に感じる体の重さとダルさに気分が落ちる。


「VR空間と違って物もよく見えんのう………」


 時間を確認しようと時計に視線を向けるが、老眼ゆえにはっきりと見えず、近くにおいてあった老眼鏡をかける。


「ずいぶんとやりこんでいたんじゃな」


 老眼鏡をかけて改めて時計を確認すれば時刻は18時、昼食後ほとんど休憩せずにログインして遊んでいたことに源三郎は驚く。


「婆さんに水やらないとな」


 連れ合いの妻は数年前に先立たれ、それから源三郎はずっと独り暮らし。

 息子夫婦が同居を勧めるが、まだまだ元気だからと断っている。


「婆さんや、久々にゲーム再開したがなかなか面白かったぞ」


 仏壇の水を変えて遺影に手を合わせてゲームプレイや1日の報告をし、遺影の前で食事を取る。

 伴侶がなくなってからずっと続けている源三郎の日課だった。


「さて、そろそろかの」


 食事を終えて洗い物を片付けると、源三郎はパソコンをつけてカメラ位置を調整する。


「やっほー、お爺ちゃん元気?」

「おお、元気じゃとも」


 モニターの向こうで活発そうな女子高生が手を振って挨拶する。


 独り暮らしの源三郎の安否確認も兼ねて週に1回この時間帯に息子夫婦の誰かとビデオチャットで顔を見せることになっている。


 今回は孫娘の彼方がビデオチャットの担当のようだ。


「あれ? お爺ちゃんフルダイブ式のVRカプセル買ったの?」

「ああ、こないだテレビでフルダイブ式のVRゲームが認知症予防によいと言われての」


 孫娘の彼方は源三郎の背後にあるVRカプセルにきづき驚く。


「しかもプロゲーマー仕様の最新式じゃん! いいなぁ~、私でさえゴーグルなのに。私にもプレゼントしてよ」


 彼方は源三郎が購入したカプセル式のVR機器が最新の物だとわかると上目使いでねだってくる


「いや、下手に高価なものプレゼントすると加代子さんが怒る。場所もかなり取るぞ」

「ちえー」


 一瞬孫が喜ぶならと源三郎は思いかけるが、彼方の母親である加代子さんの般若顔が頭にふとよぎり思いとどまる。


「ところでお爺ちゃんは今何のゲームやってるの?」

「今日から正式サービス開始したギャラクシースターオンラインと言うゲームじゃ」

「え、マジ? それ私もやってる! サーバーどこ?」


 源三郎は彼方にプレイしているゲームを伝えると、彼方は驚いた顔で席を立ってカメラに顔を近づけてプレイしているサーバーを聞いてくる。


「取り敢えずノーマルサーバーの空いてるとこじゃったな」

「よかった~、それなら一緒に出来るね」

「ん? 彼方も遊んでるのか?」

「うん! 私オープンベータ組だよ」


 源三郎が自分のキャラクターがいるサーバーを答えると、彼方は一緒に遊べると喜ぶ。


「あ、お爺ちゃんはメンバーシップに加入している?」

「はいっとるが?」

「じゃあ、もう特典の10連ガチャチケ使った?」

「なんじゃそりゃ?」


 彼方からガチャの話を振られるが、源三郎は意味がわからないといった顔で聞き返す。


「え? 初回メンバーシップ加入特典で貰える奴だよ」


 彼方はそう言ってマウスとキーボードを操作して画面にギャラクシースターオンラインの公式サイトを張り付け、メンバーシップ特典のガチャの項目を拡大させる。


「そんなのあったのか? 欲しいのか?」

「お爺ちゃん、特典のガチャチケは譲渡不可だよ」


 彼方はマウスポインターで公式サイトに書かれている譲渡不可の一文を強調する。


「私配信チャンネルもっててね、プレイ配信してるの。今晩学校の皆でガチャの御披露目配信する予定だったから、お爺ちゃんもどう?」

「他のメンバーの許可やわしがくる告知とかはしておるのか? ちゃんと確認しないといかんぞ?」


 彼方は源三郎に配信出演をオファーするが、源三郎は釘を刺す。

 年の離れた老人が当日参加、しかも彼方の実の祖父とかメンバーや視聴者の皆さんが戸惑うかもしれないし、源三郎もそんな微妙な空気はいたたまれない。


「あそっか、ちょっと確認してくるから通話切らないでね!」

「そそっかしいのう」


 源三郎が注意すると彼方は思い立ったらすぐ行動するタイプのなのかドタバタと音を立てて確認を取りに行った。


「皆オッケーだって! 告知にもサプライズゲスト登場と言うことにしたから、21時までにアルファケンタウリのステーションロビーに来てよ」

「あいわかった」


 5分ぐらいで彼方は戻ってきてメンバーの許可をとってきたと報告する。

 それなら問題ないと思い、源三郎も配信に参加するのを承諾する。


「あ、そういえばお爺ちゃんはクエストとか何処まで進んだ?」

「先ほどチュートリアルクエストを終えての、報酬で探索と輸送と戦闘の船どれか1つ選ぶところで飯の時間じゃったから止めとる」


 出演の約束をすると、彼方は源三郎のプレイ状況を確認してくる。


「まだ選んでないの?」

「どれが良いのかいまいちピンと来なくての、彼方のお勧めとかあるか?」

「うーん、お爺ちゃんのプレイスタイルにもよるけど、最初は戦闘船がいいよ」


 源三郎はチュートリアルクエスト報酬の船をどれにするか悩んでおり、彼方に質問する。

 彼方は顎に手を当てて斜め上向きながら考える仕草をして、戦闘船を勧めてくる。


「ほう、理由は?」

「探索はね、クエストによっては必要なスキルがたくさんあるし、星から星の移動が多いからとにかく船速度とワープ距離の凄い船じゃないと移動時間だけて1日終わっちゃう場合もあるの。クエスト報酬の船だと焼石に水以下だよ。実際オープンベータでは移動距離が理由で探索クエストやめた人いっぱいいたよ」


 彼方に戦闘船を勧める理由を聞くと、彼方はまず探索について説明する。


「輸送や交易は?」

「ここは人によるけど、クエスト報酬の船だと足が遅いし、本格的な輸送船と比べたら積載量も雀の涙程度。ワープ距離も短いから近場の星系往復するだけだから、作業プレイが苦痛な人にはお勧めできないなあ。交易もワープ距離の関係で皆近場で売買するから全体的に相場が落ちやすいの」


 彼方はジュースを飲みながら輸送のデメリットを説明する。


「戦闘は宇宙と地上とあって、ミッションもバリエーション豊富だし、序盤は討伐対象も近場に出現するから回転率もいいし、ミッション報酬だけじゃなくて、ドロップ品の売却もあるからお金貯めやすいよ」

「なるほどの、なら報酬は戦闘船にするかの」


 源三郎は彼方のお勧めを聞いて報酬の対象を戦闘船に決める。


「他にゲームでわからないことある?」

「スキルチップじゃが、あれはどうやってレベルあげるんじゃ?」


彼方が先輩風を吹かして質問に答えると言うので、源三郎はゲームで聞き忘れていたスキルチップのレベルの上げ方について質問する。


「ああ、それはね、生産施設で同じスキルチップの1レベル同士を合体させるの。1レベル同士で2レベルに、2レベル同士で3レベルになるよ」

「後半になるとスキルレベル上げるのに時間がかかりそうじゃのう………」

「ベータテスト時代は3レベルまでって制限あったけど、あの頃はメンバーシップも短縮アイテムもなかったから2レベルから3レベルにするのに製作時間結構かかったから大変だったよ」


 彼方はベータテスト時代を思い出したのかうんざりしていた。


「スキルチップの入手方法は? マーケットで売ってないのか」

「マーケットで売ってるけどめちゃくちゃ高いし、ステーション毎に売ってるチップも種類が変わるから。序盤はクエストやドロップ品でスキルチップが出たらラッキーと思った方がいいよ」

「なるほどの」


 源三郎がある程度質問を終えると、そこからはお互いの近況報告し、配信時間が近づくと二人はビデオチャットを終了してギャラクシースターオンラインにログインしに行く。


 

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