第6話 お爺ちゃん、地上戦をやる


「ユーザー、次は宇宙船ではなく、肉体を使って戦闘をしてみましょう」

「報酬のスキルチップから予測はできたの」


 製造のチュートリアルクエストが終了すると、次は地上戦闘のクエストが始まる。


「端末のミッションから民間拠点解放を受注してください」

「何々、惑星タウ4に建設中の民間機拠点が海賊に占拠されました。海賊を殲滅して拠点を解放してくださいとな」


 源三郎が端末を操作してミッションを開くと海賊に占拠された民間拠点解放と言うミッションのみ表示される。


「ミッションを受注したら、まずは目的地まで船で移動します」

「あいわかった」


 源三郎はミッションを受注するとピストルと近接戦闘のスキルチップをセットしてタウ4惑星に向かう。


「スターマップで惑星をスキャンすることも出来ます。スキャンスキルが高ければ惑星に埋もれている資源もわかります」

「うーむ、スキルが低いからか、大気の有無や重力ぐらいしかわからんのう」


 タウ4に到着した源三郎は惑星をスキャンするが、スキルが低い為か基本的な情報しかわからない。


「それでは拠点近くのポートに着陸してください」


 源三郎が操作するホワイトフリッパーは民間拠点近くのポートに着陸し、源三郎本人も地上に降り立つと、クエストタスクが更新されて、【民間拠点を占拠するパイレーツを倒す(0/5)】と表記される。


「ユーザー、戦闘の前にあそこにあるターミナルにアクセスしてください」

「うん? クローニングサービス?」


 源三郎がクエストマーカーが表示されたターミナルにアクセスすると、画面にクローニンクサービスと言うロゴが表示される。


「宇宙船とは違い、ユーザーキャラクターが殺害された場合、クローンとして最後に登録したターミナルで復活します」

「ほー、デスペナルティはなんじゃ?」

「宇宙船と同じく死亡した場所にアイテムが落ちるので制限時間内に回収してください。このターミナルから有料ですが遠隔回収も出来ますし、メンバーシップ加入者は割り引きされます」

「なるほどの、登録しておくか」


 源三郎はターミナルを操作して復活地点を登録する。


「ユーザー、拠点の解放方法は占拠する海賊の殲滅です。正面突破しますか? それとも裏口から侵入しますか?」

「裏口じゃな」

「マーカーをセットしました。拠点屋上に換気ダクトがあります。そこから侵入出来ます」


 源三郎がクローン設定を終えると、クエストタスクが更新されてロボが侵入ルートを聞いてくる。


 源三郎が裏口ルートを選択すると、マーカーは民間拠点の屋上を指しているが、歩いていけるような場所はない。


「登って行けばいいのかの?」

「はい、気づかれずに頑張ってください」

「この年でアスレチックはいささか骨が………なんでもなかったな」


 源三郎はやれやれとため息をつきながら、近くに積み上げられた廃材や窓の縁を足場に登って行く。


 体の衰えから何処かで体力が尽きると思っていたが、ゲームの体に老いや体力不足は関係なく普通に排気ダクトまで登っていけたことに源三郎は拍子抜けしてしまう。


「ユーザー、敵はまだ此方に気づいていません。見つかれば警報を鳴らされるかもしれませんし、敵味方関係なく発砲音は警戒させます」

「細かく設定されとるの」


 ステルス系のゲームのようなシステムに感想を呟く源三郎は単分子カトラスを抜いて排気ダクトの中を通っていく。


 ダクトを進んでいくとダクトしたから足音が聞こえる。


「くそ、なんで俺が見回りなんて」


 源三郎が耳をすませば、足音の主の愚痴が聞こえる。


「ユーザー、もう少し進んだ場所に下に降りる穴があります。敵が通りすぎる瞬間に攻撃したらスニークアタックになって大ダメージを与えられます」

「なら狙うかの」


 源三郎は足音を忍ばせて排気ダクトを進み、ロボが言っていた穴の側で待機する。


 足音の主は此方に気づいた様子はなく、カツンカツンと足音を響かて愚痴を続ける。


 姿を表したのはアサルトライフルを持ち、あちこち補修跡のある宇宙服姿の男性だった。

 男性の頭上には【パイレーツ】と表示されている。


「よっこらしょ!」

「ぐわっ!?」


 パイレーツが源三郎が潜む排気ダクトの下を通った瞬間、源三郎はダクトから飛び降り、パイレーツの頭頂部に単分子カトラスを突き刺す。


 源三郎の視界の端に【ステルスアタック:ダメージ1・5倍、クリティカル:ダメージ2倍】とテキストが表記され、一撃で死んだのかパイレーツは死体になり、クエストタスクが(1/5)に更新される。


「ユーザー、死体からアイテムをルート出来ます。死体を凝視してください」

「何が手に入るかの?」


 ロボに言われるままに源三郎がパイレーツを凝視するとパイレーツのストレージが表示されて武器や防具などアイテム名がズラリと並ぶ。その中には隠密のスキルチップがあった。


「のうロボ、この宇宙服着たら海賊に変装できるかの?」

「残念ながらそのようなシステムはございません」

「そこまで都合よく行かないか、残念」


 源三郎はアイデアを思いつきロボに質問するが、システムとしてないと断言されてがっかりする。


「ユーザー、敵が死体を発見すると警戒します。あちらにゴミ箱があるのでそこに隠しましょう」


 源三郎がアイテムを回収すると、ロボが死体の処理方法を伝えてくる。

 タスクが更新されてクエストマーカーが示す方向には業務用のコンテナタイプのゴミ箱があった。


「うーむ、変装はダメでも死体警戒はあるのか」


 源三郎は死体を持ち上げてゴミ箱に投げ込むと蓋を閉める。


「ユーザー、まだ敵は此方の侵入に気づいていません。手に入れた隠密のスキルチップをセットしてこのまま排除を続けましょう」

「うむ」


 源三郎が隠密のスキルチップをセットすると、視界に注目度と言うメーターが表示される。


「ユーザー、この注目度は相手がどれだけ貴方に注意を向けているかを表します。白が無警戒、黄色が警戒、赤が発見されている状態を表します。隠密のスキルレベルが高いほど発見されなくなります」


 ロボが隠密の注目度について説明する。

 現在は無警戒の白だった。


 源三郎は民間拠点を探索していく。

 施設内は海賊の襲撃を受けたことを表現するように物が壊れていたり、荒らされている。


「む?」


 源三郎が民間拠点内を進んでいくと進行方向から足音が聞こえるが、注目度のメーターはまだ無警戒の白のままだった。


「ユーザー、敵に見つかりたくない時は近くの物陰やロッカー等に隠れるといいです」


 クエストタスクが更新されて、今度は複数の隠れる場所にクエストマーカーが表示される。


 源三郎はロッカーの1つに隠れると、ロッカーの通気孔から外の様子を伺う。


「見張りの奴どこでサボってやがる」


 やってきたのは先ほどの海賊と同じ格好の【パイレーツ】で、アサルトライフルの代わりにハンドガンを持っていた。


 注目度メーターは白のまま変化せず、パイレーツは源三郎が隠れているロッカーを素通りしていく。


 源三郎は音を立てないようにゆっくりとロッカーのドアを開けると、単分子カトラスを腰だめに構えてパイレーツの背後から肝臓を狙って突き刺し、グリグリと手首を捻る。


 源三郎の視界の端にステルスアタック、クリティカルと言う文字が表示されて、パイレーツは悲鳴すらあげずに絶命し、クエストタスクが(2/5)になる。


「お、こやつグレネードを持っておったわ」

「グレネードは消費型の投擲アイテムです。範囲内の敵味方関係なくダメージを与えるので使用には気をつけてください」


 パイレーツからアイテムを手に入れた源三郎は死体をロッカーに隠して先に進む。


「ユーザー、敵が部屋に密集しています」


 民間拠点の最深部に到達すると、コントロールルームのような部屋にパイレーツ達が3人いた。


「敵に見つからずに近づくには音を立てずに身を低くして視界に入らないようにしてください」


 普通に近づけば発見されるような間取りで、源三郎は匍匐前進でパイレーツ達の視界から隠れて近づく。


「ん? 何の音だ?」


源三郎がコントロールルームに繋がるドアを開けると、音を立ててしまったのか、注目度メーターが警戒の黄色になり、コントロールルーム内にいたパイレーツ達が警戒するように銃を構えて周囲を見回す。


「気のせいか?」


 源三郎はしばらく動かず息を殺して潜んでいると、パイレーツ達の警戒が解けてメーターは白になる。


「ほいっと!」

「っ! グレネードっ!!」


 源三郎は音を立てずにゆっくりと部屋に侵入してパイレーツ達に近づくと、死体から手に入れたグレネードを投擲する。


 グレネードは綺麗に放物線を描き、パイレーツ達の側に落ちる。

 パイレーツの一人がグレネードに気づいて逃げようとするが、それよりもグレネードの破裂のほうが早かった。


 爆発音と衝撃、散乱するコントロールルームにあったフォルダなどが爆風で舞い上がる。


「うう………」

「ああっ! あ、足がぁぁぁぁぁっ!!」

「くそ、襲撃───」


 グレネード一発では倒せなかったのかパイレーツ達は生きており、起き上がろうとする。

 その瞬間、源三郎はパイレーツから奪ったアサルトライフルで銃弾をばらまき、生き残ったパイレーツ達に止めを刺していく。


「ユーザー、クエストクリアおめでとうございます」

「む? これで終わりか」


 最後のパイレーツに止めを刺すと源三郎の視界にクエスト完了のテキストが表記され、ロボが賛辞を送る。


「以上でチュートリアルクエストは終了です。チュートリアルクエスト報酬として新しい宇宙船が送られます。3つのタイプから1つ選んでください」


 チュートリアルクエストが終了すると、ロボがクエスト報酬内容を説明する。


 報酬ウィンドには3つの異なるタイプの宇宙船が画像付きで表示されている。


「船の性能とかよくわからんの」

「ご説明します。1つ目はヘイロンと言う探索メインの宇宙船です。速度が速く、センサーの探索範囲が他の船と比べて広いです」


 ヘイロンは十字架のような形の宇宙船で探索に特化した宇宙船だとロボが説明する。


「2つ目はホエール、速度と戦闘能力は低いですが、格納庫の積載量が多く、輸送や交易にお勧めです」


 ホエールはその名前のごとく鯨の形をした船で戦闘能力は初期のホワイトフリッパーとほぼ変わらす、速度も遅いが格納庫の積載容量はホワイトフリッパーの20倍近くあった。


「3つめはアメン、速度も装甲もあり、武器マウントも複数ある戦闘特化型です。デメリットは格納庫の積載量が少ないです」


 アメンはイカのような形の宇宙船で、ロボが言うように格納庫の積載量はホワイトフリッパーよりはましだが、他の船と比べると最低だった。


「ユーザー、ここで注意してほしいのですが、この船から破壊されるとその場に残骸となり回収と修理が必要になります」

「そういえばそんなデスペナルティがあったの」

「どの船を選びますか、ユーザー?」

「うーむ、そろそろログアウトしないといけない時間じゃ、保留出来ぬか?」


 源三郎は報酬を選ぶ前に現実時間を確認してログアウトする事と報酬の保留をロボにする。


「可能です。ログアウトする場合は宇宙ステーションなど安全な場所でログアウトしてください。安全な場所以外でログアウトするには時間がかかり、無防備になります。この間に殺される場合があります」

「了解じゃ」


 ロボの注意を受けた源三郎は宇宙ステーションに帰還してからログアウトした。

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