第2話 お爺ちゃん、チュートリアルクエスト始める


「ギャラクシースターオンラインへようこそ、ユーザー。体に違和感はないですか?」


 宇宙ステーションのエリアで呆然としていると、キャラメイク時に設定したサポートロボットのロボが声をかけてくる。


「うん? 気のせいかメガネかけなくても物がはっきり見えるし、体も軽く感じるの」

「それはここがVR世界で、脳に直接映像信号など送ってるので低下した視力や身体能力などは関係ありません」

「なるほどの」


 源三郎は頷きながら体を動かす。老化による衰えや節々の痛みがないく、思うように動く体に喜びを感じていた。


「ユーザー、チュートリアルクエストを開始します。まずは腕に装着しているブレスレットに触れてください」

「こうか?」


 ロボの指示に従い、源三郎が左腕に装着されたブレスレットに触れると、ホログラムのメニュー画面が表示される。


「メニュー画面のクエスト項目にタッチしてください」

「うむ」


 源三郎がメニュー画面のクエストに触れると、現在受注しているクエスト一覧が表示され、【チュートリルクエスト、パイロット登録をする】と言うタスクがあった。


「チュートリアルクエストをタッチしてください。それで現在ユーザーが優先しているクエストが決定し、目的地のマーカーとナビルートが表示されます、ご確認ください」


 サポートロボットのロボがそう言うと、源三郎の足元に半透明の矢印が表示され、源三郎の視界に【チュートリアルクエスト、端末でパイロット登録をする】と言うタスクウィンドが表示される。


「なるほどの、これに沿っていけばいいのか」

「はい、一部のクエスト以外はクエストマーカーが表示されます」


 クエストマーカーに沿って移動する最中、ガラス張りの通路に出る。


「おお、こりゃ絶景じゃ!!」


 ガラス張りの外は宇宙空間が広がっており、大小様々な宇宙船が飛び立っていく。

 さらに遠くには恒星がオレンジ色に輝き時おりフレアが確認できる。


「おっと! パイロット登録をするんじゃったな、いかんいかん」


 ゲームとは思えない絶景に源三郎は我を忘れて見とれていたが、チュートリアルクエストのことを思い出して先に進む。


 ガラス張りの通路には源三郎と同じようにガラスに張り付いて外の風景に魅入られているプレイヤー達がちらほらと目撃された。


 クエストマーカーに沿って源三郎が移動すると進行方向に、自動ドアとホログラムの案内板があった。


 案内板にはこの先が総合ロビーと書いており、自動ドアが開くとドーム球場ぐらいの広さはありそうな円形の広場に出る。


 広場の壁際にはATMのような端末がズラリと並んでおり、キャラクターと思われるたくさんの人物が並んでいたり、端末を弄っている。


 広間の中央には噴水があり、その噴水の上には巨大なホログラムモニターが浮かんでいた。


 ホログラムモニターには公式からのお知らせやコラボイベントの告知やギャラクシースターオンラインのPVなどが一定時間ごとに繰り返し流れている。


 広場をうろうろしているプレイヤー達のそばには様々な形をしたサポートロボット達が浮かんでおり、チュートリアル解説などサポートしている。


「えーっと、こいつに触ればいいのか?」


 源三郎は空いている端末に向かうとパイロット登録を行う。

 端末に近づくとホログラムが表示され、パイロット登録をしますかと言う選択肢が表示された。


「ユーザー、パイロット登録が完了しました。これで貴方はギャラクシースターオンラインのフリーパイロットとして活動できます」


 源三郎がホログラムに触れてパイロット登録を終えると、チュートリアルクエストが完了し、クレジットと言う通貨が報酬として振り込まれる。


「ユーザー、買い物やクエストの受注などはこの端末から行えるので覚えておいてください。それでは次のクエストです。ミュージアムエリアを通過してハンガーで支給された宇宙船を受け取ってください」


 パイロット登録と言うチュートリアルクエストを完了させると次のチュートリアルクエストが発生し、クエストタスクウィンドに表示される。


「うん? このオプション項目の【ミュージアムで歴史を学習する】とはなんじゃ?」


 源三郎がクエストタスクを確認すると、見慣れないオプション項目に気付き、サポートロボットのロボに質問する。


「ユーザーの疑問にお答えします。オプション項目は達成してもしなくてもいいクエストタスクです」

「達成の有無でなにか違いがあるのかの?」


 サポートロボットのロボがクエストタスクのオプション項目について回答すると、源三郎はさらに質問を続ける。


「はい、クエストによっては報酬の増減、裏に隠された真実、連続クエストと言う続きがあるクエストの結末が変わります」

「結構重要に聞こえるんじゃが………まあ、どんな内容か試してみるかの」


 源三郎はナビルートに沿ってミュージアムエリアへと向かう。


「本当に博物館になってるんじゃの」


 源三郎がミュージアムエリアへと足を踏み入れると、そこは至るところに展示物がある博物館そのものだった。


 源三郎以外のプレイヤーはミュージアムエリアを無視して突っ切りハンガーへと向かう者や、展示物の映像ガイダンスを聞いていたりする。


「さて、せっかくだしわしもガイダンス聞いていこうかのう」


 源三郎はミュージアムスタート地点である歴史コーナーへと向かうと、ガイダンスボタンを押す。


「西暦2150年、人類は火星にて異星人の墜落した宇宙船を発見しました」


 音声ガイドと同時にその為だけに撮影されたと思われる実写で火星の風景と墜落した異星人の宇宙船映像が流れる。


「2170年、人類は異星人の宇宙船から得られた技術でワープ機能を開発し、太陽系の外へと旅立ち、宇宙の大航海時代、もしくは大開拓時代が幕を上げました」


 映像では大小様々なデザインの宇宙船が地球から飛び立ち、ワープホールに飛び込んで行

き、たどり着いた惑星で拠点開拓を始める。


「2200年代初頭、ソロモン星系を開拓していた人々が地球に対して独立を宣言。ソロモン自由同盟を設立します。ソロモンの独立を機に地球も各国が協力し会う地球連邦が設立されました」


 パネルでは両国の国旗と、お互いに笑顔で握手をし合う双方の代表の映像が流れる。


「双方は互いを尊重しあい、平和維持を心がけていましたが………2220年、双方の勢力境界線に存在する惑星にて、開拓者同士の惑星所有に関する衝突を切っ掛けに、両国で燻っていた大小様々な問題に火が付き、人類が宇宙に旅立って初めての銀河戦争が勃発しました」


 映像では一つの惑星に双方の国旗が表示された宇宙船が同時に降り立ち、開拓者同士がいがみ合う映像が流れる。


「銀河戦争は100年近く続き、最終的には双方の無視できない被害と疲弊、戦争勃発の原因となった惑星が人が住めないほど荒廃をもたらしたことから、勝者のいない停戦協定が結ばれました」


 映像ではお互いの国旗が顔になってる人物が共倒れして白旗を振っている。


「2350年、現在両国は紛争地の復興と新規開拓のために貴方達フリーパイロットの育成に力を入れています。これから貴方達は新たな星の発見や疲弊した星を癒す旅に出ることになるでしょう」


 歴史コーナーの最後はその一言で締め括られ、メッセージを聞き終えるとクエストタスクのオプション項目が完了となった。


「ふむ、なるほどのう」


 とりあえずギャラクシースターオンラインの世界は二つの勢力があること、過去に世界大戦を起こしていることがわかった。


 ゲーム世界の歴史を学んだ源三郎はハンガーへと向かう。


 宇宙ステーションのハンガーは無数の細長い通路が枝分かれしており、ドッキングベイに繋がっている。


 その通路の一つが源三郎に支給された宇宙船がドッキングされている。


「む? のうロボよ、ステーションハンガーと量子ハンガーのどちらに向かうかと表示されたが、どういう意味じゃ?」


 ナビルートに沿ってドッキングハッチに近づくと、源三郎の視界にハンガーウィンドが表示されて、ステーションハンガーと量子ハンガーの二つのルートが表示され、ロボに質問する。


「ユーザーの質問にお答えします。ステーションハンガーはこのステーションに係留している宇宙船のみに搭乗できます。量子ハンガーは何処のステーションからでも量子ハンガー内に係留している宇宙船に自由に搭乗できます。ユーザーはメンバーシップクラスなので両ガレージの最大係留数が8から12に増えています。別途課金することで係留上限を緩和できます」


 ロボはステーションハンガーと量子ハンガーの違いと課金要素を説明する。


「別ける理由があるのかの?」

「はい、この後のクエストでご説明します」


 ロボの説明を聞いた源三郎が独り言を呟くと、呟きを拾ったロボが回答する。


「まずはクエストを優先するかの。ステーションハンガーにある宇宙船を受け取るとするか」


 ウィンドウ画面の受領ボタンをタッチすると、パーソナルシップ【ホワイトフリッパー】を受け取ったとメッセージが表示される。


「それでは受領した宇宙船のデータを確認しましょう。ハンガーに入ってください」


 ロボの指示に従ってハンガーに入ると、イルカをモチーフにしたデザインの宇宙船が係留されていた。


「パーソナルシップ【ホワイトフリッパー】連邦、自由同盟両方に普及している一般的な宇宙船です。船内へ入ってください」


 ナビルートに沿って源三郎はホワイトフリッパーの船内に乗り込んだ。

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