第12話

 芽衣とは話せぬまま週末に入り、オレは心の内に滞留するネガティブな感情に悶々としながら、家で一人過ごすこととなった。今までは週末になれば芽衣が来て、何かしらやることがあったが、急に一人となると何することも思いつかず、頭の中はグルグルと「これでいいのか」と悩むだけで、次のキーパーソンである肝心の米津さんに繋がる手立ても考えられず、ただベッドでゴロゴロと時々姿勢を変えながら過ごしていた。


 窓際から「ミャーオ」と猫の鳴き声がした。ベッドから体を起こして窓を見ると、『Alice』のシャム猫、メリーがいた。オレはボサボサの頭を掻いてから、窓を開けて彼女を中に招き入れた。メリーは軽い足取りで部屋に入ると、オレの勉強机の椅子に座って、毛繕いをした。


「どうしたんだ?」

「ふーっ、辿り着けるか不安だったけど、なんとかなったニャリ!あの、"鍵"の件の被害者がいたニャリよ」

「ああ、葵か?たしか今日か昨日退院だって言ってたかな?」

「違うニャリよ!おばあちゃんだったニャリ!」

「…どういうことだ?」

「私たちは門番だから定期的に鏡の世界を巡回しているニャリよ。そしたら、見つけたニャリ、いびつに変えられた魂を。」

「それが老婆だった…?」

「うん。鏡からすぐに出てみたらそうだったニャリ」

「ウチの学校の生徒じゃない…?無差別に犯行を始めたってことか…?いや、でも…」


 オレは空間を見るともなく見て、独り言を呟く。

「それでグランマたちにも緊急で見てもらったら、何人か既にいたニャリ、被害者が。なるべく歪なところは直したニャリがそれでももう…その人が完全に元に戻ることはないニャリ…」

「そう、なのか」


 オレはショックを受けて、そのまま少し黙った。ふと、芽衣の顔が浮かんだ。アイツが変えられてしまったら、オレはどうなるだろう。その結論は言語化出来ないものの、心の中に強い焦燥感が生まれた。時間はない。やれる事をやらなくちゃ、間に合わなくなる。


「一緒に『Alice』に行こう。みんなが見た被害者の特徴を聞きたい」

「うん、分かったニャリ!外で待ってるニャ!」


 そう言ってメリーは窓の外に出て行った。オレは着替えをかき集めて、支度をしに一階に向かった。


「央介、ご飯は?どっか出かけるの!?何時に戻るの!?」


 と立て続けに質問する母に、「夕方!」とだけ叫んで、玄関を出た。後ろから怒声が聞こえた気がしたが、それは最早耳に入らず、出迎えてくれた猫と一緒に、一途に『Alice』に向かった。

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