第11話

「米津さん?ああ、美術部のでしょ?」


 放課後、オレは芽衣と雑談しながら下校していた。


「ああ、美術部に米津さんが二人いないならその子だ。その子が神谷の前に『Alice』を知っていたみたいだ。だから、その子からどうにか情報を引き出したい」

「…。それでまた私ってわけ?」

「…そのとおり」

「ねえ、央介?」

「ん?」


 芽衣がこちらに向き直り、真剣な眼差しをオレに注ぐ。芽衣にとって大事な話なのだろうとオレも立ち止まり、芽衣に向き合った。


「なんか変だよ、央介。央介、ただの人助けなんてそんなしないし、そこにやる気満々で取り掛かるなんてことなかった。ずっと央介サッカーで凄いところにいたから、他人を見捨てられる冷たさがあったもの。辞めてから少しずつ人間味を取り戻していたけれど。でも、なんか今回のは央介らしくない。ねえ?何かあるの?私に隠してない?」


 オレはその問いを受け止めきれずに、空を仰いだ。言うべきなのだろうか?だがしかし、信じてもらえるか?そもそも、グランマ達に誰に話していいのかも聞いていない。それにオレは自分でも何故これほど熱心に取り組んでいるのか、言葉を持っていなかった。散々迷った挙句、オレは俯きながら、芽衣と目を合わせる事なく、後ろめたさを感じながら呟いた。


「…訳は今度話す」

「そっか…」


 芽衣は悲痛な顔をして俯いた。そして、オレにくるっと背を向ける。小さな背中からいつもより弱った声で、芽衣はオレに話しかけた。


「葵、来週から学校来るって。何度か意識戻って、また意識無くしてっての繰り返していたけど昨日から安定していて、明日退院になったんだって。学校来て大丈夫なのか心配したんだけど、近々絵画のコンクールがあるとかでどうしても学校来たいんだって」

「…そうか」

「じゃ、私先帰るね」


 芽衣は悲しそうな顔でそう告げると、目を合わせることもなく、振り返ることもなく、ただ駆け足で去って行った。その日、いつもならウザいほど来る芽衣からメッセージが来ることはなかった。オレは暗い部屋の中に灯るスマホ画面を見つめながら、いつまでも来ない通知を待って、「これで良かったのか?」と自問し続けた。

 次の日も芽衣が朝起こしに来ることはなくて、オレは母親に「アンタ、芽衣ちゃんになんかしたの!?」と怒鳴られながら起こされた挙句、走って登校するも学校に遅刻するという体たらくをかました。学校に着いてからも、芽衣は目を合わせてくれることはなくて、ただ頬杖をついてこちらを見ないようにしていたようだった。

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