第10話
「おーい、神谷!オレの親友がお前に聞きたいことがあるんだとよ」
「バカっ、声がでけえよ!」
市之丞が教室の出入り口から神谷大地に大声で話しかけて、オレは市之丞の頭をひっぱたいた。神谷は窓の外に向けていた視線を、取っ組み合いになっているオレ達に向けて、取り込み中と分かるや、こちらに歩いてきた。
「どうしたの、イチ。そちらの方は?」
神谷は眠たそうな顔で首を傾げて市之丞に尋ねた。市之丞は勝手にオレに肩を組み、反対の手の親指でオレを指した。
「神谷、コイツはオレの相棒の黒名だ!」
「相棒じゃねえ。…って、どうも黒名です」
「どうも、神谷です」
オレと神谷は恭しく礼をした。そんなオレと神谷の背を市之丞がバシバシと叩きながら笑う。
「二人とも固いなあ!オレの親友同士なんだ、気楽に行こうぜ!」
「うるせえな、バカ。こっちは人見知りなんだよ」
「同感」
「おいおい、なんだとー!?裏切り者どもめ!」
「はあ?何の裏切りだよ」
「…元々仲間のつもりもないけど」
「ひどい奴らだ!」
「おい、バカ之丞。とりあえず、話戻せ」
オレはいつまでも本題に入れないことに焦れて、市之丞をこづいた。
「ん?ああ、そうだった!神谷、黒名が聞きたいことがあるらしいぞ、お前に」
「…何?」
神谷は無表情のまま、首をゆっくり傾げる。これまでもそうだが、神谷は表情に乏しく、何を考えているか読み取れそうになかった。
「『Alice』の場所を教えて欲しいんだ」
瞬間、少しだけ神谷が硬直したように見えた。オレは神谷を観察しながら続ける。
「葵が『神谷くんから教えてもらった』と言ってたらしいんだが、当の葵が今いないから君に聞きにきた。オレの彼女が葵に教えられて、この前一緒に行ってきたんだけど、買いそびれた物があって、もう一度行きたいんだけど方向音痴だからどこにあったか分かんなくなっちまってさ」
オレは嘘をついた、さっきでっちあげた。
「…なるほど。なら、今地図描いてあげるよ」
「おっ、ありがとう!ところで、あそこお洒落でいい店だよな。どうやって見つけたんだ?」
「教えてもらったんだ。米津さんに」
そう言って神谷は、クラスの前方にいる女子生徒に視線を向けた。視線の先にいたのは、所謂根暗っぽく人付き合いが苦手そうな眼鏡女子だった。
「米津…さん?ごめん、知らないや」
「…ああ、同じ美術部なんだ」
「へえ」
それ以上踏み込むのは不自然に思えて、オレはその話を切り上げた。そして、神谷から綺麗な線で描かれた地図を受け取り、神谷たちの教室を後にした。オレは教室を出るなり、安堵のため息を吐いた。なんとか怪しまれずに済んだ。背中には冷や汗をかいていて、手は武者震いをしていた。ハラハラしたが、なんとか次の調査対象が分かった。成果の副産物である地図をオレは強く握りしめた。
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