第8話
オレは月明かり差し込む薄暗い部屋の中で、ベッドに横たわりひとりごちた。
「犯人は葵に関係する者か…?何故第一の被害者に彼女が選ばれたんだ?」
答えは当然出る訳なかった。情報が足りなすぎる。それでも一人の部屋でブツブツと呟きながら状況を改めて整理してみる。
「犯人は、何らかの手段であんな変な場所にある『Alice』を知り、葵が訪れるよりも数日前に来店し、”鍵”を盗んだ。その時点で犯人は”鏡の世界”のことは知っていたのだろうか?少なくとも犯行が行われた以上、その時点では”鏡の世界”を知っていることになる。どうやって知った?鍵が盗まれてから犯行までが二十日だとしたら、最初から知っていたら犯行までが長くないか?どうだろう。そして、犯人は最初の標的として葵を選んだ。無作為?正直そうは思えないが、どうなんだ?分からないことばっかりだ…」
時刻は午前一時を回っていた。それでもこの異常事態を理解しきれず、混乱の中で未だ落ち着かない身体の熱が引かず、醒めた目と早い鼓動がオレの心を不思議と満たしていた。遠くに犬の遠吠えと、猫の発情した鳴き声が聞こえ、月は怪しく赤みを帯びた月光を部屋に注いでいた。
–−−−
「はあ!?何で私が?嫌よ!」
オレは昨夜の頭の中の整理から、とりあえず初心に還り、神谷大地から「どうやって『Alice』を知ったのか」を聞き出す方向に決めた。しかし、オレは神谷と接点が全くなく、神谷のことがなんとなく生理的に無理なので、オレが神谷と接触するのは難しく、また神谷が犯人だった場合、下手に勘付かれて、強行に出られるのも危険と判断して、マイハニーを頼ることとした。それで、一昨日と同じく登校中にお願いしてみたのだった。勿論、心優しいマイハニーは今の回答の通り快諾してくれたわけであり、オレは目頭を押さえて感謝の意を述べた。
「ありがとう。やはり頼るべきは彼女だな。こんなに快く、快〜く、快諾してくれるなんて思わなかったよ」
バチン!背中を思いっきり平手打ちされた。
「イテッ!」
「どこが快諾よ!今はっきり嫌って言ったでしょ!確かに私は彼と話したことあるけれど、私なんか生理的に無理なのよね、ああいうタイプ」
「そこは同意するが、オレみたいな野暮な奴が神谷みたいな奴に話しかけてみろ。警戒心マックスだろ。『なんだコイツ』って。それは、神谷の周りにもし犯人がいたとしても同じだ。それにオレは会話が上手くない。もし、神谷やその近くの奴が窃盗犯ならほぼ間違いなく、オレを『Alice』の関係者と見做して、オレの前でボロを出さなくなる」
「私だって警戒されるの変わらないでしょ。そんな親しくないし、葵の時と同じく『Alice』ってワード出すんだから」
「いや、オレよりはまだましだろう」
「それでも嫌よ。彼、結構人気があって、あのクラスにも彼の事好きな子何人かいるんだから。下手に話しかけて、嫉妬を買いたくない」
「そんなにモテるのか?」
「うん。だから、私は無理。浮気者とか、裏切者とか尾ひれが着いた罵詈雑言を浴びたくないもの。女子の世界って怖いんだから。だから、私より自分の友達頼りなさいよ。ほら、槙村市之丞くんとか同じクラスだし、神谷くんと仲良いじゃん」
「…市之丞は友達じゃない。却下だ」
「何言ってんの、いっつも休み時間の度に話しているじゃない。私を差し置いて」
「はあ…、あれは付き纏われてるんだよ」
「でも、じゃあ、他に当てがあるわけ?」
「…」
こうしてオレは、オレのストーカーこと槙村市之丞と久しぶりに"会話"する事になった。今まで市之丞の話はにべつもなく「はいはい」とただ流してきた手前、アイツと会話するというのは非常に気が重く、オレは何度も何度もため息を吐きながら、昼休みにいつもやってくるアイツを待つ事になった。
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