第6話

 次の日、オレはいつもの様に芽衣に起こされて登校していた。


「ふわああ〜あ。なあ、芽衣。頼みがあるんだがいいか?」

「何よ、珍しい?変なことだったら許さないからね」

「ああ、ちょっとしたことさ。オレと一緒に下校するときに葵に"『Alice』をどうやって知ったのか"を聞いて欲しいんだ」

「なんでよ。葵相手にまさか浮気する気じゃないでしょうね?」


 そう言って芽衣は拳を握りしめながら、眉間に皺を寄せて疑り深い顔でオレに寄ってきた。完全に射程圏内に収められたオレは拳を見つめながら説明する。


「実はあのネコ…、じゃなくて老婆達の目を盗んで、少し前に『Alice』で窃盗があったらしいんだ。それがどうもウチの生徒だったみたいでな。盗まれた物、あの老婆たちには大切な物だったみたいでさ。窃盗品探しに少し協力してやりたいんだ」

「へえ…、央介が人助けなんて珍しいじゃん。分かった。それなら協力してあげる」

「サンキュー」


 "猫"と言い掛けたのは聞き取れなかったらしく、安心した。当初オレは葵が犯人ではないかと推察したが、葵らしき特徴の女子が来たことをグランマ達は認識しており、犯行はそれより前に行われたということだった。つまり、葵より前に『Alice』に行った人間を辿れば、犯人に辿り着けるのではないか。オレはそれを基軸に捜査を始めることにした。しかし、鏡の世界の話は芽衣にも内緒にすることにした。まず簡単に信じてもらえないだろうし、魂が変えられるなんて余計な心配や不安を与えたくなかった。犯行が行われる前に、どうにか犯人を捕まえて"鍵"を取り戻そう。オレはそう考えていた。しかし、それは甘かったと後で知る事になる。人の悪意とはそんな悠長に待っててくれるものではなかったのだ。そして、放課後。


「ねえ、葵。私も『Alice』行ってきたよ!良いところだった!私、猫のガラス細工買っちゃった〜」

「ね〜、芽衣良かったでしょ?私もまた行きたいなあと思っているんだけど、今お金が無くて。あそこ、海外の輸入品が多いから少しお高いでしょう?」

「そうだよね〜。私もしばらくはショコラケーキ我慢かも」


 嘘つけゴリラ。芽衣の後ろで会話を終えるのを待つフリをしながら、内心にそう呟くと、思いっきり足を踏んづけられた。オレが悶絶する中、芽衣は本題に切り込む。


「でも、なかなか怖いところにあったね。よく葵見つけたよね。一人であんなところ探しに行ったの?それとも誰かの紹介?」

「うん、大地だいちに連れて行ってもらったの。同じ美術部の」


 神谷大地。美術部の優男系のマッシュヘアーのイケメンで、クラシックを嗜んでそうなどこか名家の育ちだろう品のある男だ。それでいてどこかぼーっとしたところがあり、オレ達とは違うクラスだから、たまに大地のクラスの友達に会いに行ったときなど、窓の外を見てほうけているのを見た記憶があった。確かに、彼ならああいうオシャレな小物屋などは好きそうだった。しかし、オレは彼とは全く接点もなくし、正直このためにわざわざ友達になるというのも気乗りしなかった。さて、どうしたものか。迷いながらも、とりあえず今日はこんなところかと諦め、芽衣に声をかける。


「そろそろ帰ろうぜ」


 そうして、オレ達は葵と別れた。次の日の朝、学校の先生から「葵は今日から休み」だと伝えられて、校内には「葵が放課後校舎で倒れていた」という噂が駆け巡った。芽衣と見舞いに行くと、外傷もなく原因不明だが意識が戻らないと葵の母に聞いた。オレは葵が第一の被害者なのではないかと血の気の引く思いがした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る