第2話

「このコンビニを曲がるんだって」

「おいおい、待てよ。『ここを曲がる』って、ここ雑居ビルの隙間だぜ?そんな訳ないだろ」

「いや、葵がそう言ってたもん!ほら、地図だって描いてもらったんだから!」


 そう言って、芽衣はオレの顔面にスマホを押し付ける。スマホに押しつぶされて鼻を塞がれたオレは、変な声のまま芽衣に文句を言う。


「…いや、見えねえだろ、それじゃあ」

「どうせ見る気ないでしょー」

「いいから見せてみろって」


 不貞腐れて頬を膨らませながらそっぽを向く芽衣からスマホを奪い、それを見る。地図では確かにそう示されていた。葵はオレと芽衣の同級生で比較的大人しく、人を騙す様な人間とは思えない。しかし、それでも「この寂れた雑居ビルの隙間に…?」という不信感が拭えず、その室外機やゴミを入れたポリバケツの並んだ小径を、オレは眉間に皺を寄せて再度見た。この先に店があるとして入っていく奴などいるのか…?


「芽衣、お前はここで待ってろ。オレが見てくる」

「なに?どういうこと?」

「もしかしたら、葵も悪い奴らに何かされて弱味握られて脅されているとか、罠というか危ない事が待っているかもしれんだろ。だから、女のお前を行かせられないし、二人で行ってこの狭い道で逃げ道を塞がれたら逃げ場もない。オレがこの地図を頼りに行って安全か見てみるから、オレが戻るまで待ってろ」

「う、うん。分かった」


 何故か少し嬉しげな芽衣を横目に、オレは芽衣のスマホを片手に雑居ビルの隙間を進み始めた。思い出したかの様に「勝手に中見ないでよ」と恥ずかしげに言う芽衣に、片手を上げて応じる。薄暗く、ゴミの異臭が漂うのがより胡散臭さを増す。


「どう考えても罠だよなあ…」


 チラリと後ろを振り返り見ると、逆光の中に芽衣の人影が見えた。その姿はどこか不安そうに思えて、オレは「ビビってんのかあ?」と笑いながら減らず口を叩いた。芽衣の人影が何かを投げる動作をすると、オレの頭に柔らかな何かがぶつかった。「イテッ」と言いながら、ぶつかって落ちたものを見る。芽衣が告げる。


「それ、持っときなさいよー!」

「おいおい、これ、オレが初詣で買ってやった御守りじゃん…。アイツ、御守り投げたのかよ…」


 そう思いながらも、オレを心配したのであろう芽衣の不器用な優しさに思わず笑みが溢れた。


「罰当たりな奴だよ、全く」


 そうして何回か右左折しながら路地を進むと、確かに一軒の店に辿り着いた。多分この辺りの開発の時に、地権交渉に応じなかったのであろう。辺りを雑居ビルに囲まれて、陽も届かぬ西洋チックでレトロな家がそこにあって、軒先には『Alice』と不思議な字体の看板が掲げられていた。オレは深呼吸をしてから生唾を飲み、意を決して扉を開けた。

 

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