無口な鳥

ピエールは自分に似ている鳥を森林で見つけた。九官鳥のように見えるが、目の下から後頭部にかけて流れる黄色い模様が無かった。

柑子色のくちばしに毛艶の良い黒い羽が肉眼で確認出来た。カラスのようだ、とも思った。

ピエールは森林で長い間暮らしていたが、このような鳥を見かけたのは初めての事だった。

顔見知りでない生物と出会うのは久しぶりであった。ピエールはその鳥を脅かさないよう忍び足で近づき話しかけた。

「君、名前はなんて言うんだい」

その鳥は何も言わず、雲がかった目でピエールを見つめている。

「君、ここの生き物じゃないだろう。どこから来たんだい?」

ピエールは懸命に問いかける。しかし鳥は一言も喋らず、ただずっとピエールを見つめているだけだった。

ピエールは困惑した、これまで生きてきたなかで自分と話をしない動物と接した事が無かった。


頭を悩ませていると、リスのシェリーがやってきた。シェリーはピエールの太ももら辺にある皮のズボンに飛び付くと、慣れた動作で肩の上に乗り込んだ。

「なにしてるの?」

シェリーの高い声が耳元で響く。ピエールは少し間を置いて

「あの木の上にいるへんな鳥がなんにも言わないんだ」

と唇をとがらせながら話した。

「きっと病気を患ってるのよ、何もへんじゃないわ」

シェリーは頼りになるリスだ、とピエールは思った。昨晩もヤマモモ探しに難航してた時、肩の上に飛び乗って道を案内してくれた。

「その考えは思いつかなかったよ」

ピエールはそう言うと早速シェリーにお医者さんを呼ぶように頼んだ。

お医者さんを待つ間、再度ピエールは鳥と会話しようと試みた。

「具合が悪いのかい、もうすぐお医者さんが来るからここで待ってなよ」

相変わらず鳥は何も言わない。ピエールは少し苛立ってきた。

「お医者さんを呼んであげたんだ、返事くらいしたらどうだい」

しかし、鳥はまるで森の一部であるかのように不動のままだった。

「もう我慢ならんぞ、嫌でも話をしようじゃないか」

ピエールは大きな足音を立てながら、鳥が座っている木の方へと近付いた。


――揺さぶってやる!


ピエールは鳥が座っている木を勢い良く揺さぶり出した、生い茂る葉が大量に揺れ落ち、辺り一体に散らばって緑の絨毯を作った。木がきしむ音で近くにいた鳥たちは驚き、一斉に羽ばたいた。

ピエールは木を必死に揺らしながらふと上を向いた。無口な鳥の慌てふためく顔を見ようとした。

鳥は顔こそ冷静だったものの、不意に見せる首の動きに焦りを感じた。

「それそれ、やめろと言うまで続けるぞ」

ピエールは滴る汗をしきりに腕で拭いながら不敵な微笑を浮かべている。

鳥の方は今にもやめてくれと言いそうになっていた。座っていた枝を踏み外しそうになり羽をバタバタさせた。

――その瞬間、鳥が座っていた枝がポキリと折れた

それと同時に鳥が口を開いた。

「カァカァ!」

その鳥の甲高い音がきしむ木の音を切り裂き、ピエールの胸を貫いて、森を駆け抜けた。

その鳥は素早く別の枝に座り直し、体勢を整え、羽を広げて森を去っていった。

ピエールが呆れた様子で頭に付いた落ち葉を振り落としていると、向こう側からシェリーがお医者さんを連れてきているのが見えた。

「連れてきたよ」

とシェリーが言った、

「もう遅いよ」

とピエール

「あ、羽根が落ちてるわ」

シェリーが下の方を指差した。

「お医者さま、この羽根を見て鳥がなんの病気だか分かる?」

とシェリーはふと聞いた。

「どれどれ、貸してください……あれ、おかしいな、ここにはピエールと僕以外、生き物なんていないのに」

お医者さんは誰にも聞こえないような小さな声でそう言った。





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