異空間電車
私はあるバーチャルリアリティ空間に十数年かけてとても長い線路を設けた。
そして一つの電車が完成した時、私は現実世界から去ることにした。
この空間の中における一年は、現実世界で言うところの約一分三十秒ほど。
私はこのサーバーをひっそりと全世界に公開した後、ただ一人電車に乗り込み走らせた。
電車の窓から見える風景は偽物ではあるが、とても現実世界と似ていた。
しかし一つこだわりがあった、それは街の風景を映さないこと。現実に疲弊しているはずなのに、その世界の象徴たる部分は表現したくなかったのだ。
一日中海や山、時折砂漠地帯に入りながら電車は動く。
三ヶ月も経った頃だろうか、バグ防止のために一度停車した。そこは海の上だった。
現実世界で言うところのウユニ塩湖の様に綺麗な景色の真ん中に電車が停まっていた。
システムを数日かけて点検していると、来客が来た。
痩せ気味の体型に力の無い目をした男、恐らくまだ青い若者らしかった。
彼は私と目を合わせたが何も言わず、ただ停まってる電車の中へ入っていった。
点検も終わり、また電車は動き出した。私は自分以外の人にこんなにも早く出逢えた事に感動を覚えた。
半年もすると電車の中にいる人数は二桁にもなった。
この空間に電車を走らせて一年にもなると、駅が出来始めた。私は気にしなかった、システム権限も解放したままにしておいた。
駅が出来てからこのサーバーの人数は日ごとに増していき、有志達が新たな線路や電車まで作り始めた。
五年くらい経つとその電車に愛着を覚えるもの達が現れた。現実世界から抜け出す為に作ったものに愛着を覚えるとは不思議なものだと感じた。
また数年が経つと現実と同じように写真を撮ろうとするものや、駅から飛び降りようとするもの、電車で暴れたり、痴漢をしたりするものが現れだした。
しかし、私は気にしなかった。
こうなることは分かっていたのだ、そう思いながら今日もこの電車の中で私は変わりゆく風景を見ている。
追記
先日私も痴漢された、その男はあの綺麗な海の真ん中で、初めて目を合わせた男だった。
私は少し哀しくなった。
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