幼少期の無い僕ら
湿り気のある木にへばりついたセミは、地上に出た喜びを表現しているかのように鳴いている。
夏の日差しにやられたのか一人の男が公園のベンチで休んでいる。
太陽光を反射するような金色の長髪で、片手には缶コーヒーをぶら下げていた。
そんな男の元へ待ち合わせをしていたのかもう一人の青年がやってきた。
「もうそろそろ時間だぞ、この集団で起こす最初のデモ活動だ」
彼は地球温暖化による猛暑を物ともせずに発した。
彼は緊張など一切せずに暗がりな俺を照らす太陽のような存在だった。
「幼少期を勝ち取るんだな、人生で最も価値があって美しい日々を未来の子達へと」
そう言うと僕は彼の手をとって缶コーヒーを投げた。
『この日本に十二歳以下の子供は存在しない』
明確に言うと生まれていないのだ。
世界では数十年前から脱幼少期体外分娩法が主流となり少子化対策や、親の金銭面的不安によるネグレクトなどの問題を解消した。
今では街には幸せな少年達が溢れている、不幸に陥り非行に走る者などもはや存在しない。
ある国ではデザイナーベイビーを認可したというニュースも聞く。
そんな現実世界に彼らは歯向かうつもりだ。
「さあ行くぞ、幼少期の無い僕らにとって幸せとは最早意味が無い」
彼が急かすものだから寄り道もせずに真っ直ぐアジトへ向かった。
僕らのアジトはもう数十年も前に必要性が無くなった廃れた小学校である。
この廃校は取り壊されることもなく、素晴らしき時代を彷彿とさせる雰囲気を仲間達も気に入ったのだ。
僕らは廃校に着いた、集合場所は体育館だ。
中の様子は分からないがもうみんな集まっているような気がした。
中に入ると暑さ増す昼のムンムンとした湿気と共に仲間達の決意の眼差しを感じた。
この計画の首謀者である僕ら二人は、壇上に上がらされ決意表明をする手筈だ。
最初はスーツ姿の彼がマイクを手に取った。
「諸君らよくぞ集まってくれた、私だけの力ではこの様な歴史的な決意をあらわにすることが出来なかったであろう」
その後数分間のスピーチを行い、約百八十名に及ぶ仲間達から大喝采を受けた。
続いては彼から僕へとマイクを託された。
「えー幼少期は人生において最も多く失敗をする時期だと私は思う、だからこそ、その分美しいとも私は思う……」
長々と説教臭い話をした後、壇上から去った。
決意表明をした後、廃校から百八十人は大移動を行う。
目的地に着いた頃にはすっかり夕暮れ時になっていた。
「ついに本番だな」
まるで子供のような顔をして言う
「前代未聞の革命を起こしてみせるよ」
強気な発言で緊張を緩和させようと試みた僕
僕らの準備は整った、セミの声も聞こえない場所で革命を行った。
八月の二十日
東京のど真ん中でとある男達が行進している。
それぞれ個性的な衣装を身にまとい、滑稽な事をしている。
先頭にいる三十代と見られる男はランドセルを背負って石ころを蹴飛ばしながら歩いている。
後ろにいる若い男はシャツ一枚と麦わら帽子を被り、そして手には虫取り網を持って歩いている。
その後ろにいる人は……そのまた後ろにいる人は……そのまたまた後ろにいる人は……。
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