第8話 豚肉はダメだけど豚骨スープはOK!?

 当店は様々な国の留学生が働いているので、食事は実に様々です。

 宗教上の理由、というよりはもはや宗派とか地域による細かいもののようで、外部の人間が正確に合否ごうひを判断するのはたぶん不可能だと思ってしまいます。

 

 以下、実際に当店で働いていた人の食事情。


・菜食主義の人(ネパール人女性)

・隠れて肉を食べているけど、バレたら爺ちゃんになぐられるという人(ネパール人男性)

・牛は禁止だけど水牛はOKという人(ネパール人男性)

・鶏肉は食べられる人(ネパール人男性・インド人男性)

・豚肉だけダメな人(ウズベキスタン人男性)

・本当は豚肉ダメだけど食べちゃう人(ミャンマー人男性)

・豚肉は食べないけど豚骨スープが好きな人(スリランカ人男性)

・何でもアリ(中国人)

・野菜キライ(日本人)


 オイ! ってツッコミ入れたくなる連中もちらほら居ますね。

 母国から離れた日本だからハメをはずしている、という状況のようです。

 厳しくルールを守っている人もちゃんといますけどね。


 下から3番目のスリランカ人なんて私にこう言うんですよ。

 彼は仏教徒です。


仏陀ブッダ様は豚肉を食べたから死んだんです。仏陀さまは食べたら死ぬって分かってた。でもすべてを受け入れる人だったから分かってても食べたんです」


 ほう……。

 その理屈だったらアンタは寿命半分くらいに減っているんじゃないのかね?


 彼の理屈ではとにかく肉だけ食べなければ良いのだと。

 チャーシューとかベーコンを取りのぞいて、豚骨スープのめん類を食べるというのが彼の大好きなスタイル。

 最近のトレンドは「チャーシューなし油そば」らしいです。

 たしかに美味しいですね油そば。

 ただスリランカはとても辛い料理が多いらしく、彼の油そばはラー油で真っ赤っかになります。見ただけで汗が出てきそうです。



 

 そういえば書いていて思いだしたのですが、去年の忘年会でちょっとめずらしい光景に出くわしました。

 お店のメニューに「豚の生姜焼き目玉焼きのせ」というのがありまして。

 豚肉を食べない彼らは店員に「豚肉だけはずしてくれ」と注文したんですわ。


 豚の生姜焼きから豚肉をはずす。

 想像したこともない発想でした。


 さいわいなことに店員さんも東南アジア系の女性で、細かい説明なしでも事情をさっしてくれました。

 数分後、目玉焼きとキャベツの千切りだけの皿がずらりとテーブルに並びます。

 よほど気にいったのかおかわりまで注文しはじめまして、合計6皿くらい目玉焼きがやって来ましたね。

 ギャグなのか何なのか、


「目玉焼きダイスキ!」


 って笑顔で言ってました。

 あれ代金いくらだったのかなあ?

 生姜焼きから生姜焼きを抜いた料理なんててどう計算するんだ?

 私も酔っぱらっていたのでそのあたりを確認し忘れてしまいました。残念。




 まあ国内ではこんな程度で済んでいる豚肉問題。

 ですが過去には日本の大手食品メーカーが、中東のどこかの国で大きなトラブルを起こしたこともありました。

 とある有名な「調味料」に関してです。

 豚肉そのものは入っていなかったのですが、豚に関する「なにか」が入っていたのだと。

 戒律かいりつ違反を犯してしまったと考えた人々が、怒りの抗議デモをする様子が日本のTVでも放送されていました。

 今でも国内で普通に販売されていますが、たしかにラベルの裏をみると、「ポークエキス」って書いてあるんですよね。

 これはあかんやろ……。


 でもちょっと思うところがあります。

 この章の前半部分にも書いてあるとおり、戒律かいりつで禁止されていても大して気にしない人っているんですよ実際問題。

 現地の人が「別にこれぐらい平気じゃない?」って日本人担当者に言っちゃった可能性、そしてそれを鵜呑うのみにして販売しちゃったという可能性、あるんじゃないかなあ……。

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