第7話 「君に届け」が大好きだったガシさん

 日本のアニメやドラマを大好きになって、その影響で日本語を学ぶという人はけっこう多いようです。


 当店の最大派閥であるネパール人はほぼ全員が子供のころ「ムーミン」を視ているそうな。

 隣国インドの放送局がヒンディー語か何かで放送しているのをみんなで視たんですって。

 ネパールは良くも悪くもインドの影響を強く受けざるを得ない国家なので、彼らは複数あるインドの言語をある程度は話せるのだとか。


 スリランカでは橋田はしだ壽賀子すがこさん脚本のTVドラマ「おしん」が大ヒットしたのだそうで。

 スリランカ人男性・シャーナカが「おしん」について熱く語ってくれたのですが、私はぜんぜんついて行けませんでした。

 視たことないんだよ……。検索して調べたら私が赤ちゃんだったころのドラマじゃん……。

 シャーナカから聞かされたあらすじによると、確かに面白そうなお話だと感じました。

 日本の名作ドラマなのにスリランカ人から学ぶ私。どうなんでしょう。


 中国・韓国では少年漫画系のアニメが強いようですね。

 そもそも何十年も昔から中・韓の下請したうけ企業が日本アニメを作り続けているため、親和しんわ性は高いです。

 私が直接聞いた範囲はんいでは「スラムダンク」が一番人気。わざわざ訪日して聖地巡礼とかしていますよね。映画も大人気のようです。

 次に続くのが「ナルト」「ワンピース」「黒子のバスケ」。

 留学生たちはみんなもう成人しているので、話題にのぼるのは一昔ひとむかしまえの作品が多いようですね。

  

 さてタイトルにあげたガシさんも、そんな中国人留学生の一人。

 正しくは「賀詞」さん。20代前半の女性でした。

 茶色に染めたおかっぱ頭で、すっごく色白なはだの人。

 すごい作り声のいわゆる「アニメ声」で話す人で、とんでもねえレベルの「ぶりっ子」でした。


 正直、初めのうちは彼女のことが嫌いでした。

 だってアニメ声のぶりっ子ですよ、キツすぎますって。

 日本語はほぼ完璧に話せる人でしたが、だからこそキツい。


 でも彼女、うちに入ってきてから辞めるまでの2年ほどの間、まっったくキャラがブレなかったんですよ。まんざら演技でもなさそうなんです。

 でもって仕事は超真面目にやる。

 他の人の代わりにシフト入ってくれたりもする。

 お年寄りに親切でよく感謝されていた。

 とっても良い人なんですよね。アニメ声のぶりっ子だけど……。


 さすがに感謝しないのは人としておかしいので、妙な口調は「個性」だと受け入れることにしました。本当になぜあんな口調だったのだろう……。




 さてある日、私が雑誌の検品けんぴん品出しなだしをしていると、とある少女漫画誌が目にとまりました。

 その表紙をかざっていたのが「君に届け 最終回」の文字と絵。

 現在から10年くらい前(?)にアニメ化していた作品です。 


「あーまだやってたんだなあ」


 というのが私の感想。

 アニメが終わってから何年もたっていましたのでね。

 実は「君に届け」の直後に「カイジ」という男向けギャンブルアニメの再放送をやっていたので、個人的なメインはそっちでした。

 当時まだ盛んだったネット上の違法アップロードサイトでは、「ぬまに届け」というタイトルで「カイジ」が上がっていました(苦笑)。

 でもまあ、「君に届け」は男が見ても楽しいアニメだったと記憶しています。

 罠を仕掛けるたびにドツボにはまるくるみちゃんが楽しかった。


 そんな過去の思い出にひたりながらフーンと鼻を鳴らしている私の背中に、ガシさんのキンキン声が突き刺さりました。


「私コレ大好きなんですよ~!!」


 お、おう、ここにも日本アニメに魅せられた中国人が!

 ガシさんはかなり話すのが好きなタイプなのですが、今まで漫画やアニメの話なんて一切してきませんでした。

 でもそれはいい年したおっさんである私が二次元オタクだとは思っていなったからだそうで。

 潜在的なオタク中国人は、かなり多いと感じた一件でした。


 ものづくり大国ニッポンの力は、形を変えてまだまだ健在のようですよ。

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