第3話 生死すら不明な辞めかたをしたシャヒリ(前編)

 非正規ひせいき雇用こようという形態は簡単に切られるなどとよく言われていますが、うちの店の場合クビにすることなんて滅多になくて、自分から去っていく人ばかりなのが現状です。


 今回はそんな人たちの中でも軽くサイコホラー風味な辞めかたをしていったウズベキスタン人シャヒリの話をしましょう。


 シャヒリは金髪高身長で鼻の高い、美形と言ってよい白人男性だった。

 性格は昔のテレビでよく見た「バカで明るい外国人」そのもの。

 現代だとコメディアン時代の「厚切りジェイソン」が一番近いかな?

 TV画面の中の厚切りジェイソンさんは演出によって作られた虚像きょぞうの部分があったわけですけど、うちで働いていたシャヒリはシンプルにアホだった。


 せっかくなので彼のアホエピソードを少々。


・お弁当の温め時間を確認せず、ただのカンで電子レンジのボタンを適当に押す。(彼は合計一年以上日本のコンビニで働いた実績があります!)


・太ったお客さんがヘルシーなサラダチキンをレジに持ってきたところ、笑顔で「ダイエットの食事ですね」と声をかける。


・その他、細かいミスは数えきれません。


・在留許可証(絶対に持ち歩いていなくてはいけないパスポート的なもの、見た目は自動車の運転免許証に似ている)を携帯しておらず、確認のため警察に10時間ほど拘束されてしまって店を無断欠勤。

 これを一週間に二度もやらかす。私たち大迷惑。

 次に出勤してきた時に副店長が確認すると、なんとまた持って来ていない。

 当然のように副店長大激怒。しかし次もまだ持ってこない!

 さらにその次からようやく在留許可証を持ち歩くようになった。


 すごく不思議に思って私は


「警察に居るの嫌だったんでしょ? なんで持ち歩かないんだ?」


 と聞いてみる。

 するとシャヒリは、


「(警察で待機させられるのは)すごくイヤだった。でも(在留許可証を持ち歩くのは)なんかヤダ」

 

 と答えやがった。マジで意味わからん……。





 ウズベキスタンにある彼の実家はお爺さんが眼科医、お父さんも眼科医という、眼科医の一家なのだそうです。

 自然と彼も眼科医になることを望まれたそうだが、シャヒリは嫌だったので留学という形で実家から逃げ出した。

 まあアホだしね……こんな奴が医者になったらダメだよ……。


 で、真面目にコツコツ働くというよりは、楽して大金をかせぎたいという願望をいだいていたシャヒリ。

 選ぶ国を間違えてねーか、行くならアメリカだろというツッコミはさておき。

 学校にもあまり行かず、夢ばかり追ってあっちにフラフラこっちにフラフラしているうちに当店のバイトとして流れてきた、というのが彼の現状でした。


 ちなみにこんな彼ですが、美形でフレンドリーなため女にはやたらモテます。


 ルームシェアという名の寄生で様々な女の部屋を渡り歩き、なかば住所不定みたいになっている様子でした。

 一応、履歴に記載されていた住所にはルームシェア中の友人が住み続けていたようで、そこに家具やら上記の在留許可証を放置していたもよう。

 まあ怪しげではあるが嘘ではないならまあいいか……ということでその辺の問題は店長がスルーしていました。


 前置きが長くなり過ぎましたねゴメンなさい。

 なにぶんネタの塊みたいなやつだったもので。

 次から本番です。

                         (後半につづくッ!)

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