第26話 2024年5月、フーリエ変換
月初プロフィール(5月):フーリエ変換
大学での最初の仕事は測定装置の維持管理でした。
ほとんどの装置は理解しておりましたが最後まで理解できなかったことがあります。
それはフーリエ変換です。
フーリエ変換はNMR(核磁気共鳴)装置で使われておりました。
NMR装置は病院ではMRIとして画像診断に使われており母校では有機化合物の構造決定に使われておりました。(有機の試験問題に1H-NMRスペクトルがよく出ていました)
その研究用NMR装置(JNM-EX270、270Mヘルツ、6.3テスラ)は1億円以上の高額機器で維持費(液体ヘリウムと液体窒素)も高額でしたが私の研究とは縁遠かったので興味は持ちませんでした。
私としては宣伝用にキウイの断層画像を撮っただけでした。
病院のMRIと違って測定部がキウイ程度の広さだったのです。
研究者(医者)はサーフェスコイルで臓器を測っていたり、ウサギの目玉(8個程度)のNMRスペクトルを取ったりしていました。
NMRスペクトルは(その装置では)ラジオ波パルスの減衰曲線をフーリエ変換して得られます。(パルス・フーリエ変換法)
私は減衰曲線が線スペクトルになることがどうしても理解できませんでした。
だれか分かりやすく教えてくれませんか。
同じ磁石を使うのにESR(電子スピン共鳴)はNMRよりもずっと易(やさ)しいと思いました。
それにESRは何年間もほとんど進歩がありません。
機械の形が昔と変わらないのです。
それはESRでは膨大な計算が不要だったからだと思いました。
NMRではトモグラフィーで画像を得るにはX線CTと同様に画素数だけの未知数がある連立多元一次方程式を短時間で解かなければなりません。
例えばMac27インチディスプレイの画素数は5120x2880=14745600です。
連立14745600元一次方程式を解かねばなりません。
式を書くだけで気が遠くなります。(添え字付きの未知数を1秒かけて紙に書くとすれば式一行を書くだけでおよそ170日が必要です。それを14745600行書かねばなりません。687万年かかります。)
実際には分解能はもっと低いのでしょう。
(時代と共に能力が増す)高速コンピューターが必須です。
だからNMR装置は進化するのです。(と思いました)
ESRが出てきたので少し付け加えます。
私は多倍体細胞のミクロな流動性を調べる時にESRを使いました。
フリーラジカルを持つ16-ドキシルステアリン酸を細胞膜に埋め込んでプローブにしました。(Cell Struct. Funct.,2001)
細胞のESR測定は試料の量が勝負です。(シグナル強度に影響します)
ですから測定には細胞をキャピラリー管にギチギチに詰めて測定します。
とてもまともな状態ではありません。
もちろんそんなことは論文には書きません。
細胞をキャピラリー管に入れて測ったとだけ書きます。
分かっている読者はその一文を見て細胞の状態を想像するわけです。
細胞のESRシグナルは特別講演で時々出てきます。
多くは「こんなこともやっているんだぞ」という自慢です。
ESRシグナルは微分曲線で描かれますから格好がいいのです。
そんな時私は測定時の細胞状態を聞こうと(意地悪で)質問をします。
多くの特別講演者は実際に測定してはおりませんでした。
おそらく部下に測定させたのですね。
そんな(意地悪な)性格は高校時代から変わりません。
意地悪な質問をするために隣市のライバル高校の学校祭に相棒と出かけたこともありました。(他流試合)
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