第2話 規格外
―――しばらく後。
「あのさぁ、そんなに落ち込むのも失礼ってもんじゃない?」
「……………」
少年は深々とため息を吐いた。
とりあえずあの後、召喚陣の不具合などがないか、何者かの干渉がなかったかなどの調査が必要という事で、とっとと追っ払われて一室に押し込められた二人(でいいのだろうか)である。
「そも、アタシとしても状況把握できてないんだけど。暇なら説明してくれないかしら」
「…………解った」
思い悩んだところで埒が明かないのは事実である。少年は諦めて話し出した。
『神話の繭』の伝説。召喚の儀について。
「……でもって、俺が知ってる限りじゃ人型の召喚獣は歴史上存在しない。神獣がそうでない以上、その眷属も大まかな形は引き継いでるからな」
「ふぅん……そりゃ大パニックにもなるわけね……」
「……で、お前は一体何者なんだ?属性は?
「属性……は正直
「……そこからか………」
少年はため息をついた。とことん、この少女は今まで学んできた召喚獣からはかけ離れているらしい。
そも、こうやって会話できていること自体が常識外れと言えばそうなのだが。
「……
「ん-………そうなるとどれでもないとしか言いようがないわね………」
少女は困ったように顎に手を当てた。
「いや、だってしょうがないじゃない。神獣だの何だのってのも初耳なのよ、こちとら」
「………じゃあ、やっぱりあの繭に眠る召喚獣じゃないって事か…」
「そうね。…正直、どうしてこんなことになってるのかは、アタシも知りたいんだけど…手がかりも何もあったもんじゃないしね」
少女は肩をすくめた。本当に人間臭い。何者なんだろうか。
とりあえず敵意がないことに安心しておくべきだろうか、と思った矢先、少女がこちらに歩み寄ってくる。
「な、なんだよ」
「なんだよも何も、そういえば名乗りも何もしてなかったからね」
ジリっと身を引いたのを鼻で笑われた。ムカッと来て立ち上がると、少女の顔は思ったより低い位置にあった。
……そういえばまともに立って向き合うのはこれが初めてだ。
「———アタシはスピナ、スピナ・フレア・ポートゥス。しばらく世話になるわ、よろしくね、
「………俺はヴォルガーテ。ヴォルガーテ・フィン・サマンサ。ヴォルでいい」
…なんで召喚獣がミドルネームやファミリーネームまで持ってるんだ。
本来、召喚獣に名前はない。
一応種別としての名はあるが、それは『親となる神獣の名』と『
故に、こうやって名乗る時点で色々規格外だと言える。
今更か、とため息が出る。
そんな時に、部屋の扉が開く。
―――幼いころからライバルだった少女が、こちらを睥睨していた。
「………何だ、呼び出しか?」
「えぇ。召喚士学校としての対応が決まったそうで、校長室まで、でそうですわ」
「……学校?そんなのあるの?」
「あぁ。召喚士は学ぶべきことが多いからな」
自分の召喚獣の知識も不可欠だが、戦闘面においてどう活かすか、どのような連携をするかなどは、流石に『召喚の儀』を終えて自分の召喚獣を得てから体で覚えていくしかない。
「召喚獣の
「なるほどね、それでアタシにまず
向かいながらそんな事を話す。
「………その子、話せますのね」
「どうやらな…」
「あら、召喚獣って話せないのが普通なの?」
スピナが首を傾げると、少女がふふんと胸を張った。
「通常、召喚獣はどれほど高位の―――それこそ
「知性の問題というより、話せないってだけみたいだがな」
「えぇ、ですが何事にも例外はございますわ」
自慢げに少女は二人に向き直る。
「なんと神獣様は、人の言葉を話すことができますの!すごいでしょう!」
「………やたら自慢げなのはそのせいか」
「……なんで召喚獣にその機能与えなかったのやら」
『…………問うてくれるな』
首を横に振りながら、神獣が姿を現す。
人間2人がビシッと直立不動になる中、スピナだけが平然と視線を向けた。
「やむにやまれぬ事情があったってこと?」
『………そういう事だ』
「ふぅん………まぁ、他人様の事情に深く首突っ込むほど野暮じゃないけど」
「………おい、スピナ!不敬だぞ!」
「不敬も何も、アタシコイツと何ら関わりないんだもの。上下も何もないでしょ」
コイツ、と神獣を指さすスピナにヴォルは頭を抱えた。何なんだコイツ、態度がデカすぎる。
「あら、スピナちゃんといいますの?私、セピアと申しますわ。どうぞよしなに」
『……氷の神獣、フェンリルだ』
「……改めて、スピナよ。よろしく」
そうこう自己紹介をしている間に校長室前に着く。
「セピアですわ。ヴォル…ガーテと、その召喚獣殿をお連れしましたわ」
一瞬愛称で呼びかけ、咳ばらいをして繋げる少女。
「親しいの?」
「腐れ縁だ」
「……お入りください」
小声の問答に一瞥をくれて、セピアは扉を開けた。
ヴォルもそれに続き、それを追ってスピナも中に入った。
「………正直な話、『繭』にない召喚獣など前代未聞ですからな」
校長はゆっくりと口を開く。
「神獣様の召喚は幾度かあるが………そこでじゃな」
国王が頷き、指を立てる。
「ひとまず、
「え………」
ヴォルは驚愕で目を見開いた。
「……実力が未知数な以上、その可能性を摘むのは得策ではない、との国王陛下のご判断でございます」
「当然、見込みがないと判断された場合は容赦なく
「……なるほどね。そういう沙汰になったわけか」
「………うむ。よってそなたらは、ひとまずは
「あら、フェンリルもなのね」
『うむ。我ら神獣が召喚されるのは稀なのでな。基本的に
「その
「今は2人が所属してたか。二人も増えれば、この国の未来は明るいな」
国王が呵々大笑するのを、校長は苦笑いで見ていた。
「………ま、とりあえずはいい沙汰でよかったんじゃない?」
「………そうだな」
ヴォルはようやく、ほっと息を吐いたのであった。
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