第1話 繭の外より来る者

時は流れ、現在。

「ではこれより、召喚の儀を始める!」

国王の宣言に、集められた少年少女が湧きたつ。

集められたのは、召喚士の才を持つ者たち。

召喚獣―――神獣の眷属たちを今はそう呼ぶ―――を見ることができる者は、必然召喚士の才を持ち合わせる者である。

そのため、そういう『才ある者』を探すために全国を巡る召喚士もいる。

「………まぁ、私達には関係のない話ですわね」

「全くだ」

そう言ってため息をつく少女に、同意する少年。

ここにいる者の大半は先述の通り見出された『才ある者』たちだが、何事にも例外はいる。

2人は王に代々仕える最高位の召喚士の家系出身であり、才能があるだのないだのという話とは無縁なのであった。

「…あら、私の番みたいですわ。失礼」

「あぁ、いい召喚獣あいぼうに恵まれんことを」

「心にもない世辞をどうも」

召喚の儀の決まり文句を言うと、少女は鼻で笑った。らしいと言えばらしい。

王宮召喚士の二大巨頭の子供同士となれば、当然競い合う仲である。

幼いころからとことん角突き合わせてきたからそれはわかるのだが。

「……本心なんだがな、多少は」

小さく息を吐いていると、どよめきが聞こえる。

何事か、と視線を上げて少年は目を見開いた。

―――神獣が、そこにいた。

召喚士が呼ぶのは大抵が神獣の眷属であり、神獣本体の召喚はそれこそ歴史に片手で数えられるほどしか例がない。

見惚れていると、召喚者である少女が自慢げに笑みを浮かべた。

「……この程度、私にかかれば当たり前ってことですわ」

「…おめでとう。流石だな」

「褒めるなら視線を神獣様から離してくださらないかしら」

言われて慌てて視線を向けると、少女は機嫌良さそうに笑った。

「……さ、次は貴方の番でしてよ」

「………解ってる」

召喚陣の前に立ち、『神話の繭』を見上げる。

小さい頃から憧れてきた場所。緊張しなかったと言えば嘘になる。

深呼吸をし、手を前に伸ばす―――

「……眠りし神獣よ、その一片、その御子を我が身に貸し与えたまえ―――」

召喚の儀の式句は、何度も読んで頭に叩き込んできた。

―――だから。このイレギュラーは俺のせいじゃないと信じたい。

「何だ!?召喚陣が………!?」

「危険だ、離れなさい!!」

突然、召喚陣から赤黒い稲妻が走る。

「なっ…」

稲妻が俺に襲い掛かる。避ける?無理だ、遅すぎ―――

ドンッと突き飛ばされる衝撃。

後ろに2,3回すっ転がされ、痛みに耐えつつ視線を上げると、

赤雷を引き裂くように、一人の少女が召喚陣の上に立っていた。

未だ荒ぶる稲妻を、踏みつけて消した(なんで消えるんだ)少女が、こちらを見る。

―――ふわりと揺れる、二つに縛られた赤い髪。

―――気の強そうにこちらを睨む、銀の双眸。

唖然とする周囲をほったらかしに、少女は口を開いた。

「……問うておくべきかしらね。アンタがアタシの召喚者マスターかしら?」

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