第7話

「まあ、カーバンクル」


 フランドール王姫が窓にぺったりと張り付く。額に赤い宝石の埋め込まれたリスザルのような姿をした生物が、騎士たちのあいだをちょこまかとすり抜けてこっちに走ってくる。愛らしい見た目をしているが、魔物の一種だ。額の宝石で強欲な人間をおびき出し、群れで襲って食い殺すのである。


「まったく、気が緩んでいるようですね。少し喝を食らわしてきます」


 ローズさんが馬車の扉を開ける。中に飛び込んできたカーバンクル――ではなく、なぜかサブレの首根っこを掴み、周囲の騎士に見せつけながら怒鳴り声を上げる。


「魔物の侵入を許すとは何事ですか!」

「隊長! それは魔物ではありません!」

「愛らしい見た目に騙されてはいけません! これも立派な魔物です!」

「隊長! 愛らしい見た目に騙されています! それは軟弱なサブレ・ロドベールです!」

「見なさい! 小さな体で暴れ回る獰猛な姿を!」


 襟を掴まれ宙ぶらりん。首の絞まったサブレがジタバタともがく。


「いかん! 話が通じてない! 誰かサブレを助けろ!」


 サブレを救出するため、騎士たちがわらわらと集まってきた。


「失態を取り戻そうとするその姿勢! 良い心がけです! しっかり仕留めなさい!」


 ローズさんは叫び、サブレを馬車の外に投げ飛ばした。


「良い機会です。ロベルも訓練の一環として参加してきなさ……ロベル? ライナ君、ロベルはどこに?」

「さっき自分で投げ飛ばしてましたよ」

「なぜ止めてくれなかったのですか!」


 イチャイチャを見せつけられていたのがムカついたからです。そしてフランドール王姫はカーバンクルを愛でるのに夢中になっています。魔物の割には意外と人懐っこいんだなあ、とか思って撫でようとしたら、俺にだけ噛みついてきやがった。


 投げ捨てられたロベルが、ライブで客席にダイブした人のように運ばれていく。


「あ、あのっ! 馬車に戻らなきゃ!」

「気にするな。このまま俺たちを手伝うといい」

「え、あの……しかし」

「いいからいいから、それとも隊長と一緒が良いのか?」

「いや、そういうわけでは……命令なので……」

「黙れ、羨ましい、じゃなかった。いいから大人しくこっちにこい」

「本人の意志を無視して任務に連れていくのは規定違反で――ちょ、待っ……ああああああ」


 さらばだロベル。ようやく俺の時代だ。さあローズさん、愛弟子の俺をかわいがっておくれ。


「むっ、ロベルは右翼の警備に行きましたか。まあ、これも良い修行でしょう。事務仕事ばかりでは騎士の名折れです。ライナ君も負けていられませんね。左翼へ行ってきなさい」


 左の扉がガチャリと開く。


 俺はローズさんに首根っこを掴まれ、馬車の外へと投げ捨てられた。

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