第19話 「法と秩序の守護者」

【登場人物、簡易早見表】


屋処紗禄、顧問私立探偵。

和登島雪姫、紗禄の助手。本名は霧島。


アイリン、逃亡犯。伊月号に隠されたダイヤを狙う。

黒沢琴音、刑事。偽名、斎藤一二三。婚約者と旅行中という設定。

久保昌良、刑事。今回搭乗した刑事達の班長を務めるおじさん。蕎麦が好き。

中山大輔、刑事。アイリンを追跡するため(へたくそな)変装している。

牡丹一禾、乗客。サイコクレイジーレズ。略称PCR。

壬生 郎、刑事。偽名、藤原宗次郎。探偵という設定。ダイヤの運び屋役を務める。

龍宮寺レオ、乗客。手当り次第ナンパしていたホスト。

山田二郎、乗客。アイリンを最推しにしてる独身未婚成人男性。

山吹メイ、乗客。紗禄と雪姫をガチ推しているファンのメイドさん。



紗禄視点

三日目午前、真夜中


狙撃はおそらく4階のフォワードサロンの野外テラス席からだと思われた。甲板デッキにはそちらへ上るための階段が設置されているため駆けあがる、警棒から拳銃に持ち替えて。

スタームルガーSP101、375口径マグナムリボルバー。最大装填数5発。先ほど一発打ったため残り4発。


私が私を法と秩序の守護者足りえるための暴力装置だ。


鈍く光る銀色のボディは私に制圧能力を授ける。道具はあくまでも道具。

道具がどのようにして実務を発揮するかは使い手次第となる。


階段を慎重に駆けあがる。上からの狙撃には細心の注意を払いつつ、テラスの手前まできた。

下では雪姫さんとアイリンが闘いの火花を散らす音が響く。


おかしい動きがない…。こちらの拳銃に臆したか?

よく目を凝らしてみると丁度階段からテラスの手前に透明な糸が張ってある。嵐のひどい雨のおかげで雫がしたっていた。このクソみたいな嵐も役に立つじゃないか。


こいつは簡素なブービートラップだ。

糸の先を追うとフラッシュグレネードのピンに結びついていた。

こいつらどこからこんなもん仕入れてくるんだ。


引っ搔けない様に飛び越えてテラスへ躍り出る。

するとまたもや風を切る音がした。私の傍に矢が着弾した。

すかさずテラスに備え付けられたテーブルを蹴っ飛ばして盾にする。


「お前はついに一線を超えて明確な殺意を示したな牡丹一禾!!」

「イヒヒヒヒ、ヒヒ、殺してやる…屋処紗禄!!」


嵐の中、牡丹の放つ不気味な台詞がこだまする。


私とは正反対の向こう側にひっくり返えされたテーブルが見えた。

恐らく、牡丹の獲物はボウガン。弓やボウガンの威力は弦を引く力の強さに依存する。

今、牡丹は必死に弦を引いているものと思われる。

先ほど着弾した矢を見ると地面に転がっていた。船の鉄壁を射貫くような威力こそないが、人体に当たれば部位によっては致命傷になる。もうこうなるとただの嫌がらせ行為では済まない。明確な殺傷行為だ。


こいつはそれを雪姫さんに向けた。


パッァァァァッン!!と火薬が弾けて嵐に負けない力強い音が響く。

牡丹が隠れているであろう机に向けて照準を重ねて発砲した。

ガンッ!と机に着弾したのが見えた。


「ヒっ?!」

牡丹の悲鳴だ。机が鉄製であるため射貫けない。


どうするか。全体重を乗せてそっくり返した机を押し始める。

幸い、嵐で辺り一面が水浸しなので滑ってくれる。

カンッ!と机に軽い衝撃と音がした。


こちらの拳銃で射貫けないのに、さらに威力の弱いボウガンが射貫けるものか。

このまま距離を15mまで近づける。


懐からスタンガンを取り出す。牡丹のものだ。本人に返してやろう。

左手で投げる瞬間、スイッチを入れて電流を投げっぱなしにしておいた。

空を舞うスタンガンは青白い火花を散らしながら牡丹に向かう。


そして、そいつに照準を合わして引き金を引く──────


「ぎゃああああああああああ!!」


たーまやー、もはや花火と言っていい。小規模ながらショートして爆発した。牡丹の真上で。


こうなると電流は抵抗のない方へ流れる。また嵐で全身ずぶ濡れ。ボウガンは鉄製。

どうなるかと言うと雷みたいに牡丹に向かって電流が落ちる。

先ほどの悲鳴は牡丹が感電したのだろう。


意を決して机から躍り出る。向かうは牡丹が隠れる向こうの机の裏。

回り込むと痺れて仰向けにあられない姿で寝転ぶ姿の牡丹がいた。


「う、うう…」


右手には包帯がぐるぐる巻きにしてある。

代わりに左手でボウガンに手を伸ばそうとしていた。


スパァァァン!と銃口から近距離で放たれた弾がボウガンのフレームに命中、フレームをへし折った。

武器自体が壊れた。獲物はもうない。

だが牡丹の瞳には闘士がまだ消えていない。


「お前が!お前さえいなければあああああああ」


照準を顔の真横に合わせて引いた。


「ひ!あ、あぁ、ぁぁぁ…」


牡丹のすぐ真横で弾が地面に跳弾する。顔の真横で跳弾の火花が散るのはさぞ怖かろう。


「投降しろ、次はない」牡丹の顔のど真ん中に照準を合わせる。引き金には既に指をかけてある。


牡丹の瞳からハイライトが消えた。そこには身を投げ出して寝転ぶ人形の様な少女の姿がある。

股の辺り一面の水たまりが黄色い。失禁したらしい。

よく見ると痙攣している。もういいだろう。


小言でぶつぶつと小鳩ちゃん、小鳩ちゃんと繰り返して気持ち悪い。


「うっ!」


殴って気絶させといた。身体を後ろに回して両手に手錠をかけて拘束した。

音を聞きつけてやってきた守衛の姿がフォワードサロンの内室へ入ってきた姿がある。

牡丹のことは任せよう。


心配なのは雪姫さんだ。

テラスの縁から甲板デッキを見下ろす。


そこにはなんと女性2人からぼかすかと叩かれたり蹴られている山田の姿、そして寝技で取っ組み合う雪姫さんとアイリンの姿があった!


雪姫さんがアイリンの首を絞めており、締め上げられたアイリンの顔は赤い。

意識を落とす一歩手前だ!


早く加勢しよう、私は階段を駆け下りた───

 




















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