第18話 「類を以て集まる」
【登場人物、簡易早見表】
屋処紗禄、顧問私立探偵。
和登島雪姫、紗禄の助手。本名は霧島。
アイリン、逃亡犯。伊月号に隠されたダイヤを狙う。
黒沢琴音、刑事。偽名、斎藤一二三。婚約者と旅行中という設定。
久保昌良、刑事。今回搭乗した刑事達の班長を務めるおじさん。蕎麦が好き。
中山大輔、刑事。アイリンを追跡するため(へたくそな)変装している。
牡丹一禾、乗客。サイコクレイジーレズ。略称PCR。
壬生 郎、刑事。偽名、藤原宗次郎。探偵という設定。ダイヤの運び屋役を務める。
龍宮寺レオ、乗客。手当り次第ナンパしていたホスト。
山田二郎、乗客。アイリンを最推しにしてる独身未婚成人男性。
山吹メイ、乗客。紗禄と雪姫をガチ推しているファンのメイドさん。
雪姫視点
2日目午後~3日目午前
ホストをしばいたあと、一二三さんは婚約者の藤原さんとしばらく一緒にいるとのことだった。
邪魔するのも悪いし、一旦部屋に戻って着替えることにした。
「あら~ステキな人♡よかったら一緒にお茶しない?」
「あはは…、せっかくですがまた今度に…」
などと道すがらの女性客に逆ナンされてしまうため、本来の探偵業務に支障をきたすためだ。
自分の部屋に戻ってきて扉に手をかけると鍵が閉まっている。屋処さんは外出したようだ。
開錠してみると中は無人だ。取り敢えず着替えよう。
ベッドに腰をかけるとまだあったかい。さっきまでいたんだ。もたれこみ顔を埋めると屋処さんの匂いがする…。シャンプーの残り香がしていい匂いだ…。
恥ずかしくなって顔をベッドから離す。誰も見てもないとは何してるんだろ、わたし…。早く着替えよう…。
ほどなくしていつもの姿に着替え終えた。
着替え中に携帯でラジオをつけたところ東南アジアで発生した台風が日本へ向かっている最中らしい。窓から外を見ると曇り空で荒れている。大丈夫だろうか。
今は目の前のことに集中しよう。
とはいえ、どうしよう…。屋処さんから今日の指示を仰いでない。携帯で連絡すれば応答してくれるとは思うが、正直話しかけづらい。
…自分で捜査しよう。まず何から行動を起こせばいいだろう。
ダメだわからない。屋処さんはどうしてたかな…。最初に枝を張っていて網にネタが引っ掛かるのを待っていた。だが、私は盗聴器も監視カメラは持ち込んでいない。
船内の至る所には監視カメラがある。あれらの映像を見られたら…。
そういえば初日に特別捜査官の手帳を渡されたことを思い出す。警察官と同等の捜査権があるらしい。
これを使えば見せてくれるかな?
ひとまず守衛室へ向かうことにした。
守衛室がどこにあるのか知らなかったので大分迷ってしまった…。
2階から乗組員区画だった。間違えて車両甲板へ行ってしまい恥ずかしい。
守衛室のドアは中戸の窓が真っ暗だ。中の様子が見えない。
ドキドキしながらゆっくりとドアをノックしてみた。
暫くしてドアが開くと守衛の男性が出てきた。
「なんでしょう?どうしましたか」
「あのわたし屋処さんの助手を和登島雪姫です…」
「あぁ、あの探偵さんの助手さんですか。先ほどまでこちらで監視カメラの映像を確認していましたが、さきほど引き返してしまいましたよ」
「そうなんですか…?!あ、えっと屋処さんも大事ですが、その私もカメラの映像を確認したいんです…」
「映像ですか、探偵の助手さんとはいえ扱いは一般の乗客なのでちょっと」
「あのこれ…」すかさず特別捜査官の手帳を提示してみた。
「あぁ、あなたもそうなんですね。拝見します…。わかりました。どうぞ中へ入ってください」
すんなりと通してくれた。すごい効力だ…!
中は一般のオフィスと大差ない。違うのは複数のモニターが並べて設置された席があることだ。
案内されたのは丁度その席で、守衛さんに画面の味方と基本的な操作方法を教えてもらった。
えーとこれがこうで…。なんとなくわかった。
操作にもたついてるともう一人の守衛さんが慌てた様子で入ってきた。
「あのなりすました男がいないぞ!」
「なんだって!?手錠は?」
「開錠されて物抜けのからだった…!」
何やら大変そうな様子だ。
「あの…どうしました?」
「実はその」
「その人は一体…?」
「本庁から派遣された特別捜査官、探偵女史の方だ」
そんな大仰な存在ではないけど文面上は確かにそうだった。
「はい、屋処さんの助手をしてます…」
「そうだあんた!逃げた男を追ってくれないか?探偵なんだろう?!」
「え?あ、はい…えーとじゃあ頑張ってみます」
どうしようわたし1人で人探しできるかな、すごい心配になってきた。
逃げた男の名前は山田二郎、何故か乗組員の制服を着て二階にいたところを屋処さんに見つかって捕らえられたみたい。
あれ…昨晩大変だったと言ってたのは本当だったんだ…?!
どうしよう、ずっと思い違いをしていたみたい…。
あれ、あれ、じゃあ山吹さんのところにいた屋処さんはアイリン…?!
合点がいった…!
「あの分かりそうですか?」
「え、あ、ちょっと待ってください!」
今は逃げた男性を追わないと。
救護室で寝かされたらしい。隣なので部屋の前の通路箇所をチェックしてみる。
…………何の異常もない。あれ?
?????
頭にはてなだけが連続して浮かぶ。
「ほんとに逃げたんですかその人?カメラに逃げた様子ありませんよ」
「な?!馬鹿なそんなはずある…ほんとだ」
「あの最後に確認した時間は?」
「一時間前のはず…おかしい」
一時間前を重点的に見ても救護室の扉が開いた様子はない。
屋処さんは何と言ってたか…。最後に残された可能性こそ限りなく真実だ。
この場合、守衛さん達が嘘を言う理由がない。
なら嘘を付いてるのはカメラの方なのでは?
観察!これこそ基本と言っていた。
逆にカメラの不審な点をクローズアップすることにしてみた。
「…………!」
今、通路で通行人が歩いているところで尺が飛んだ箇所があった…?!
これは一体?他にも尺を飛んでる場所をあらかた探してみよう。
時系列でみると2階から3階に渡ったと思う。
4,5,6は通常通り…のはず。とすれば…。
「ありがとうございます。目星が付いたので目視で確認してみます」
「それなら我々も同行を」
「大丈夫です、パブリックスペースを見落としてる可能性もあるのでそちらを巡回してみてください」
「しかし女性を1人でいかせるなど」
「アイリンが一度捕まった記事はご存じですか?」
「え?そりゃ勿論」
「あの人をのしてKOしたの、実はわたしなんです」
「そうなんですか…?」
「はい、別に護衛とかなくても大丈夫です。見当外れだとしたらお二人の迷惑になってしまうので」
守衛さんは何か言いたげではあったが、こうなれば時間が勝負だ。
廊下を全速力で疾走する。2階の乗組員区画を抜けて3階へ駆けあがる!
わたしは船外の甲板デッキへ向かった。
外へ出ると雨が降っていた。雨も風も中々に強い。台風が日本に向かっているなら丁度この船は嵐の中に向かって突っ込んでいるんだ。
時間的にも既に深夜前でサーチライト以外で照らされた場所以外が真っ暗闇だ。
そういえばご飯をまた食べそびれた。山吹さんまた取り置きしてくれるといいな。
購入しておいてよかった、けっこう強力に発光する携帯ライトを取り出して辺りを捜索する。
山田という男性はこの嵐の中、船外に出て何をしているんだろう?
甲板デッキにはそれとわかる人影はない。
両舷のどちらかにいる?
まずは右舷の廊下をライトで照らす。人影はない…。
反対に左舷の廊下をライトで照らしてみる。
すると…いた!人影だ。
「あなたそこで何をしているんですか?」
「ぎょ!あのこれはそのえっと~~~」
相手の男性は言い淀んでいる。この人が山田で間違いないだろう。言えないということは言いづらいことなのだろう。
ライトで男性の周囲を照らしてみる。
あれは救命ボート?降ろす準備をしていたみたい。
そこへふと扉が勢いよく開け離れた。
バンッ!と開いた扉から出てきたのは驚くことに──
「アイリン?!!」
まごうことなきイベント会場以来の再開だ。
そして隣にいたのは──
「一二三さん!!」
「雪姫はん!」
何故か一二三さんは両手首を拘束されているが、こんなの考えなくてもわかる。
アイリンが一二三さんを人質に取ったんだ!
「一二三さんを離してあいりさん…!」
「霧島雪姫…!どうしてお前がここにいる?!」
そして遅れて甲板デッキに現れたのはわたしの雇い主──
「屋処さん!」
「和登島さん?!」
そうかさすが屋処さん、アイリンを見つけて追いかけたんだ。
「和登島さん左から回り込んで!私は右からにする!」
「はい!」
男性は後回し、まずはアイリンに対処しなないと!
アイリンは一二三さんの髪を掴んでいる。右手にはナイフの様なものを構えている。
すかさず警棒を勢いよく振りかざして伸ばす。
「一二三さんを離して投降してください、あいりさん…!」
「うるさい近づくな!」
「お前は包囲されている!投降したらタコ殴りですましてやるぞブス!」
「黙れ紗禄!」
にらみ合いが続く。じりじりと間合いを詰めていく。
こうしている間にも嵐は勢いをまして強くなっている。船自体が揺られているのを感じる。
タイミングを見計らい距離を詰めようとしたその時だった。
高波が船を襲いバランスが崩れた。
その瞬間、自分の傍に何か風を切るような音と、固い金属のようなものが地面に落ちる音が響く。
目をやるとそれは矢だった…!
「雪姫さん耳を塞いで!」
言われた通り耳を塞ぐ。
次の瞬間───
パッァァァァァンンッ!!!と何かがとても強く弾ける様な音が大きな火柱と共に突如響き渡る。
火線は上の階に向けて飛んでいき、船の外壁に当たり跳弾して荒れ狂う海の中へ落ちていった。
「拳銃!どうして紗禄、お前がそんなものを?!」
「国家権力万々歳ってことだアイリン!雪姫さん私が上の階にいる弓兵を射止めてくる。ここは任したよ!」
わたしは既に屋処さんに言われる前に身体が動いていた。構えた警棒をアイリンの構えたナイフのようなものに向けて振りかざした。
キン!と金属同士がぶつかり合う甲高い音がした。
「行ってください屋処さん!」
「いつまでもこのままと思うなや!」
一二三さんがアイリンに対して体当たりを試みた。
「クソ!」
アイリンは悪態をついて姿勢を崩し後退した。すかさず一二三さんの前にわたしが躍り出て立ちふさがる。
ナイフで警棒を防御していたのでそちらまで意識が回らなかった様だ。
「一二三さん下がって!今からわたしがアイリンを取り押さえます!」
「雪姫はんでも…!」
「大丈夫、一度アイリンを仕留めたのはわたしなんです。任せてください」
「あの場のリベンジを今ここで果たしてやる、来い霧島雪姫…!」
わたしはアイリンを相手に再度警棒を構え直した。
さぁここが正念場だ───
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