第14話 「眉目秀麗再び──」
【登場人物、簡易早見表】
屋処紗禄、顧問私立探偵。
和登島雪姫、紗禄の助手。本命は霧島。
アイリン、逃亡犯。伊月号に隠されたダイヤを狙う。
斎藤一二三、乗客。婚約者と旅行中。
蕎麦を啜っていたおっさん、刑事。
中山大輔、刑事。アイリンを追跡するため(へたくそな)変装している。
ナンパしていたチャラい男、乗客。
藤原宗次郎、乗客。探偵(自称)らしい。
牡丹一禾、乗客。サイコクレイジーレズ。
山田二郎、乗客。アイリンを最推しにしてる独身未婚成人男性。
山吹メイ、乗客。紗禄と雪姫をガチ推しているファンのメイドさん。
雪姫視点 二日目午前
夜が空けたら屋処さんが山吹さんと逢引きしていた…。
その事実が今も頭から離れない。わたしのことだけ見てくれると思ったのに…。
窓から差し込む朝日は眩しく、わたしに影を映し出す。
レストランに向かう乗客たちの軽やかな足取りとは相対的にわたしの足取りは重い。
向かう途中で初日に聞いたことのある声がした。
「ちょっと堪忍してや、朝っぱらなんやねん!」
「君、綺麗だね。どお俺と一緒に朝食でも」
あれは一二三さん…!口ぶりから口論してるみたいだ。
「うちには婚約者おるっちゅうの!あんましつこいと守衛を呼ぶで!」
「それは勘弁して~おごってあげ、っごぉ!!」
見てて不愉快だったので突き出しの蹴りを脇腹に当てた。
ハイヒールを履いてるので相当痛いはずだ。
細身で長身の男は崩れ込み痛がっている。
「この人、一二三さんの婚約者じゃないですよね」
「せや、ありがと雪姫さん」
「いいですよ、よかったら朝ごはん一緒にどうですか」
「ええで、ほないこか」
不埒なナンパ男を残してレストランへ向かった。
朝ご飯は和食で大根おろしの乗った秋刀魚にご飯と味噌汁。健康的なメニューだ
。
「いただきます…」
「雪姫さん何だか元気ないやんけ、どないしたん」
「いえ、別に…」
「うちでよければ話し聞こか?」
一二三さんは親身になって心配してくれている。やっぱり良い人だな…。
「実は屋処さんが自分のファンに手を出したみたいでご飯も喉を通らなく…。んぐ、このさ秋刀魚美味しひいれすね」
「食欲は旺盛やっちゃな…。でもそれは確かにショックやんか。こんな美人さんおるのに見向きもしないなんて」
「…ありがとうございます。でも元からファンの子とやり取りしてるみたいだからいつかあり得るだろうなと思ってました」
「屋処紗禄っちゅうのは軽薄の浮気ものやのぉ、ほんましょうもないで」
「いえ、そこまでじゃないんですけどね。まぁここのところ忙しかったので息抜きしたかったのかなと」
「甘やかしたらダメやで雪姫さん!もっと厳しくするべきや」
「うーん…恩人でもあるのであまり強く言うのも気が引けるというか」
ご飯の間、気持ちを聞いてもらい多少の気は晴れた。
「そういえば一二三さん、婚約者の方とご一緒ではないんですね」
「あーあいつ?まだ寝とるんよ」
「そうなんですね、朝が苦手なんでしょうか」
「昨日は夜遅くまで何かやってたみたいやで。大方携帯でエロ動画でも見てたんちゃう?」
「…まぁ男性ですからね、しょうがないですね」
人間そんなものなのかな…。
ご飯を食べ終わったあと一二三さんは部屋に戻ってもやることがないので、休憩スペースで雑談することにした。わたしも今はまだ部屋に戻る気になれない。今夜はどうしようかな…。
他愛ないことを話しているだけでも気はまぎれる。
「一二三さんは今のお住まいも地元なんですか」
「せやで」
「西日本にはさほど行ったことないので機会があればぜひ一緒に回ってみたいです」
「それいいな!うちが案内してはるで。雪姫さんの地元はどこやっけ」
「北海道ですよ、会った時に言いませんでしたっけ?」
「ああそうやった、すまん。忘れてもうたわ」
案外忘れっぽいのかもしれない。
共有スペースということもあり他の乗客も話しているため、たまに耳が勝手に話しを拾う。
「ねぇあなた聞いた?女性相手に見境なく口説いてる男がいるんですって」
目線をやると女性客のグループが輪になって話し込んでいる。
「え~やだ~口説かれたらどうしよう」
「あなたは別にその心配はないんじゃない?」
「はっ?」
朝に会ったあの男だろうか。まだ懲りずにいるらしい。
「そういいえば一二三さん、朝ご飯前にいた、あの男性何だったんですか?」
「さぁ?レストランに向かおうとしたら途中で急に話しかけてきおったんやけどな」
耳が続けて話を拾う。
「ワタシも口説かれちゃった」
「え、ワタシも~」
「なんだ皆じゃないのよ」
どうも手あたり次第に唾を付けているらしい。ろくでもない。
「なぁ雪姫さん、カフェまだ空いとらんから自販機で適当な飲み物でも買わへんか?」
「そうですね、談話するならやっぱお茶が欲しいですね、行きましょう」
2人で4階にある自販機へ向かうことにした。
いた、何がというと先ほどのナンパ男だ。自販機の前でまた女性を口説いている。もはや病気だ。
「あの男また性懲りもなくまたナンパしてますね」
「迷惑なやっちゃの~」
どうしてやろうか…。いやまずは観察だ。物陰から様子を伺う。
「お、影から様子を伺って探偵みたい…、元々探偵やったの」
「はい、まずは様子を観察します」
長身でスタイルが良い、焼けた色のサングラスをかけて目元はよく見えない。髪は茶髪で、よくセットしており毛先が立ってる。カジュアルな服装ながら胸元が開けていたり、靴の先は尖がっている。
こういうタイプは前に見たことがある。どこで見たかな…。
「あ、ホスト!」
「ホスト何かあいつ?」
「前に仕事でホストクラブに行ったとき、ああいうのがいっぱいいました」
「雪姫さんホストクラブ行くんかぁ?」
「仕事でしょうがなく、もう行きたくないですが」
ホストの様な男は女性を口説き終えたのか互いの携帯を近づけた動作をしている。連絡先を交換してる。上手くいった様だ。女性とは会釈して別れた。
「雪姫さんどないしたん?」
「…してやりましょう」
「え?」
「あいつを負かしてやりましょう。今からちょっと自室に行って準備してくるので待っててもらって良いですか」
「うちは別に構わへんけど」
「では少し待っててください」
一二三さんを待たせること30分─────
「お待たせしました」
「雪…姫さん…?めちゃくちゃかっこいいやんか…」
あのホストみたいな男のプライドを負かしてやらないと気が済まない。
いつぞやの男装を今ここでまた再現してみせた。一二三さんの反応を見るに出来は良いみたい。
「どうですか一二三さん。いや、ひふみ…?」
「雪姫さんがうち口説いたらダメやん!…すごいステキやけどうち婚約者いるし…」
「いいじゃないですか…女同士なんだから…」
「あぁダメ!雪姫さん!」
廊下でこんなことをしてるものだから通行人からの視線がすごい。
目線の合う人、合う人みんなが男女関係なく赤面している。
さっそくあの男を探そう。
先ほど、女性を口説いたばかりだというのにあの男、次の標的をすぐ見つけたらしい。さっきとは別の女性と話し込んでる。
「雪姫さん頑張れ…!」
一二三さんに応援されて鼓舞される。
「いやぁ美しい、あなたが未亡人とは世の中の損失に他ならない!」
「やだ♡そこまでじゃないわよ」
「そうですよ、損失じゃなくて打撃です。独り身なんて勿体ない」とりあえず深刻さの表現で合ってるかな?
「え、誰だあんた」
「あらかっこいい♡宝塚みたいだわ♡♡」
「ありがとうございますマダム、良かったらわたしとお話をしませんか?」
「はい♡喜んで♡」
「え、は?ちょ、ちょっと」
そのまま未亡人のマダムを連れて男から引き離した。
「やるなぁ雪姫さん!」
「マダムに説明お願いします」
「任しときぃ!」
キャッチしたあとは一二三さんにアフターケアを任すことにした。
「あ、待って♡」
ごめんなさい。まだ次があるので。
ホスト男を探すとまた新たな女性のところにいる。
「ねぇ俺と少し話さない?」
「いえ、わたしと話しましょうレディ?」
「はい♡」
「え、ちょ、またかよ!」
この調子で次から次へと阻止することに成功した。
「大変や雪姫さん!人気に火が付いてちょっとファンサが出来上がっとるで!」
「え?それは困りましたね」
どうしよう、それは考えてなかった。
「おい、あんた俺の邪魔して何のつもりだ?同業なのか?」
邪魔ばかりしていたのでさすがにホストも怒って私の元へやってきた。
「あなたが女性をトロフィーの様にしてるのを見るといけ好かないのでね」
「なんだと?!」
「病気ですよ、そんな見境なく口説き落とそうとして」
「うるせぇ!」
激昂した男が拳を振り上げてきた。
構えからして素人であるのは間違いない。
屈んで拳を躱す、カウンターに腹部へ一発拳を入れてやった。
「ぐあ!が、あ、痛ってぇ…」
「正直、あなた見かけだけですよね」
男のサングラスを取ってみた。
「あなた…龍宮寺レオじゃないですか!」
男は仕事で潜入したホストクラブに在籍していたホストで依頼人のクレカや身分証を盗んだ奴だ。
初犯扱いで起訴見送りの書類送検で停職処分になったとは聞いた。
「また女性から金品を奪おうとしたんですか…?」
「な、なんでそのことを…?!」
そういや龍宮寺レオはわたしのことを知らないのか。なら丁度いい。
「あなたのことは良く知ってますよ。はっきり答えないと警察に言います」
「ま、待って!ちゃんと言う!」
「ならどうしてこの船にあなたが乗船してるんですか?」
「実はある日、携帯にメッセージが届いたんだ」
「メッセージ?どんな」
「仕事としてこの船に乗船して女を口説けって…、チケットもオンラインで送られてきて仕事も今は停職中だから暇だし誘いに乗ったんだ。終わったら口座に金も振り込むって前金が送られてきた、これは別に犯罪じゃないだろう?」
「見るからに怪しいじゃないですか、宛先人は誰なんですか?」
「わからない、re:mとしてか書いてなかった…」
レオの携帯を見せてもらうと確かに言い分通り、メールのやりとりがあった。
「雪姫さん、その人知ってはるんか?」
「ええ、まぁ色々と」
「探偵さんの情報網はさすがやね」
意図がよく見えない。re:mとは一体誰なんだろう…。
その後、プライドを打ち負かされた龍宮寺レオはトボトボと撤退した。自分の部屋で反省しなさい。
「雪姫さん、やりおったな!すごかったで!」
「一二三さんありがとう」
「うちは見てただけや、それにしてもかっこいいわぁ~。そうや、ちょっといいこと思いついわ」
「なんでしょう?」
「その姿でうちの婚約者と会ってくれへん?」
「え、このままで?」
「せや、エロ動画ばっか見ててしょうもないから新しい相手見つけたってからかいたいねん」
「それは大丈夫でしょうか?お二人の間柄に亀裂とか生じませんか」
「平気や、仮にそうなったら雪姫さんと付き合うわ」
「え?!」
「来てくれやす、こっちや」
「あ、ちょっと」
そのまま一二三さんに手を引かれて部屋の前まで来てしまった。大丈夫かな…。
「寝坊助~はよ起きんかいおたんこなす」
一二三さんはシングル区画に泊っているらしい。
ダブルは取れなかったから隣がその彼なのかな?
しばらくして扉が開いた。その中から出てきたのはわたしの予想外の人物だ。
「なんだ一二三…?まだ次の当番まで時間はあるはず…」
「宗次郎さん、夜中にやましい動画ばっかり見とるから、うち次の新しい相手を見つけたわ!」
「こんにちは藤原さん…」
「お前、和登島雪姫か?その恰好は…。いや次の相手ってどういうことだ一二三…?あと夜中にそんな動画は見てない」
驚くことに部屋の中から出てきたのは同業の藤原宗次郎だった。
「あの一二三さん、婚約者って藤原さんなんですか」
「せやで!」
「ああ…」
世の中わからないものだ。まさか一二三さんの婚約者が藤原さんだとは思いもしなかった…!
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