第11話 「search1select」

【登場人物、簡易早見表】


屋処紗禄、顧問私立探偵。

和登島雪姫、紗禄の助手。


アイリン、逃亡犯。伊月号に隠されたダイヤを狙う。

斎藤一二三、乗客。許嫁と旅行中。

山吹メイ、乗客。紗禄と雪姫を推しているガチファンのメイドさん。




紗禄視点 一日目午前~夕方



「ヤニ~ヤニ~」


4階の喫煙所に向かう足取りは軽やかだ。私の脳みそがニコチンと有毒物質で刺激してくれるのをまだかと待ち望んでいる。


喫煙所とドアにでかでかと書かれた扉の前まできた。中の様子が見えるガラス越しには男性の先客が1人いるのが確認できた。…まぁいいだろう。


「んちゃ」

「あぁ?」


挨拶をしたところ怪訝な顔をされたが特段気にしない。今大事なのはニコチンなのだ。


「ニコチン~ニコチン~ニコニコチンチン~♪」

「何て歌を歌ってやがる…」


まずはポケットからパイプを取り出す。専用のポーチから煙草の葉を取り出して軽く揉み解く。3~4回に分けてボウルの中へ詰め込む。

オイルライターを使うと油の匂いが移るのでマッチ派なのだ。

手間暇がかかるが、この手間を惜しんでいる。風情と愛着というやつだ。

着火したらまずは強く吸う。葉の表面を焦がす、燻したら火種が全体に広まったのを見計らいゆっくりと吸い込む。


「あ~ニコチンたまんね~」

「…女でパイプ煙草を吸うやつは初めて見たな」

「そう?まぁ私はなんせ顧問私立探偵だからね、刑事さん」

「なっ?!」

「その風体でわからないとでも思った?」


身長180越え、服の上からでもわかる筋肉の盛り上がる様子、年齢は20代後半から30代前半。明らかに肉体派だ。顔つきは精悍そのもの、凛々しい眉、切れ長の眼、縦へ一直線に通った鼻筋、唇は薄い、顎から首筋回りにもしっかりと筋肉が付いている。

服装はライダースの革ジャンにシャツとジーンズ、靴は動きやすそうなスニーカー。

髪は綺麗に散髪されており几帳面さと清潔さがある、警察の規則として自身の身支度も徹底されるので、正直分かりやすい。


「非番で休暇中の消防士という線もある、どうして刑事だと思った」

「君みたいな筋肉もりもりのマッチョマンがわけもなくこの船に載っているわけあるぅ?」

「俺は探偵だ、あんたのことは勿論知っている。顧問私立探偵の屋処紗禄だろう」

「ふぅん、まぁ仮に同業ということにしておこう、気がかりなのは伸ばした後髪を纏めているね、それはヘアドネーションだろう」

「よくわかったな…」

「医療用ウイッグには最短で31cm必要となる、それは今目測で28~30cmくらいかな。寄付するまでもう少しだ。その様な心掛けがあるのはやはり正義心や良心を持つ人物となる。警察官は人命を第一に最優先する様に教えられているからね、消防士もそうだが、この船の事情からすると刑事の方が妥当だろう」

「……」

「まぁそうだな、仮にこの船に搭乗している警察官がいるとしたらそれは警視庁刑事部から派遣された刑事だ。広域な範囲を捜査をするとなるとやはり本庁になるし。その様な体格の良い男性の配属は殺人、強盗といった重大犯罪を取り扱う捜査一課だろうね。精鋭の中の精鋭、search1select,つまり選び抜かれし捜査一課の刑事…違う?」

「さぁな、どうだろうか。俺がそんな大仰なもんに見えるか?しがない探偵の1人さ。お前同様に理由があって船に搭乗しているだけのな」

「本庁は内心、私のことをただのマスコットキャラクターくらいに建てておき、実際にはやはり自分たちの手駒の方を信用しているんでしょう?君はどうみても実務担当だし」

「煙草切れちまった、吸い終わったから先に失礼する」

「あーじゃあ、名前くらい教えてよー。じゃないと会うたびにマッチョマンって呼ぶよ」

「藤原…宗次郎。藤原でいい」


彼は吸い終えた煙草の灰を綺麗に落としたあと、自分のポーチへ吸い殻を仕舞ってから喫煙所から出て行った。


「そういうーとこだぞーフジワラ~」


誰もいない喫煙所を独り占めにするのは気分がよかった。気持ちよく一服したのち、船内にあとどれくらいの刑事達がいるのか調べてみることにした。


今は4階なのでこの階から順番に見てみる。

通路ですれ違うのは一般の旅行客だ。家族連れ、老夫婦、単身の客も男女へだりたなくいた。年齢層は若干高めだったが。

途中で若い女性客にちょっかいをかけたチャラい男がいたのでケツをしばいておいた。

悪態を付きながらどこかへ去っていった。しょーもない。


妙なのが多い。…枝を張っておくか。人目がないことを確認してから仕掛けをしといた。


5階へ上がってみた。マッサージチェアのあるリクライニングスペースにてサングラスに帽子、紳士服をきた男性がくつろいでいた。…面白いことに今どき口ひげを生やしている。


「えい」べり!といい音がした。

「痛!ちょ、あんたなにすんだ!?」


やはりというか男の口ひげは付け髭だった。

これまた面白いことに、この人物は以前に私と面識がある。


「やほ~中山。お前何してんの~?」

「し~!し~!静かに!てかちょっと口ひげ返してくださいよ」

「やだ、やだやだいやだも~んね~」


面白いのでからかってみることにした。


「この!返せって」

「よ!ほ!ほらこっちだよ~」


5分くらいやったところで飽きたので髭を貼り付けて返してあげた。

「んん!叩くように貼り付けないでくださいよ、髭がこれ曲がってるじゃないですか!」

「ちょっとさー、その変装はセンスないよ?」

「うるさい!これでも頑張ったんだからな」

「他にも刑事が搭乗してると思ったがまさかお前とか思わなんだ。本庁は深刻な人材不足なのでは?」

「警察は年中無休で忙しいの。民間の探偵さんとは違うんです。というか他って…、言っちゃダメですよ…!」

「あ〜、わーってるって」


懐にいれた携帯が着信したので取り出して確認すると、雪姫さんからお昼ご飯の誘いだった。もう正午だし向かうことにした。


「まぁ血税で飯食ってんなら死ぬほど頑張りなよ。私はこれからご飯なので、アデュー!」

「一体なんだったんだ…」


レストランに向かう前に山吹さんにも一報入れる。今回の頼れる協力者として同乗してもらった。費用は本庁に交渉してツケといた。


「しゃ~ろ~く~さ~ま~~~~~~~!!」

さっそく廊下の置くから山吹さんがすっ飛んできた。


「ぐほぉ!」飛びついてきて衝撃がすごいけど…柔らかい上にいい匂いなので気分はいい。

「会いたかったですわ!山吹もお昼ご一緒します!」

「よしよし、私も会いたかったよ。今からレストランへ行こうね」


レストランではお昼のメニューが決まっていたのでお互いに別のランチプレートを頼み、それぞれのおかずを分けて食べた。鯖味噌というのは初めて食したが中々に美味しい。日本食もいけるな。また今度食べてみよう。


「いや~美味しかったね、お昼ご飯」

「お腹いっぱいになりました」

「山吹も満足です!」


お昼を食べ終えて、食後のお茶として私は紅茶を啜る。雪姫さんは緑茶、山吹さんはほうじ茶。

「屋処さんこのあとはどうしましょうか?」

「まだ出航したばかりだし、アイリンも動きは見せないと思う」

「となると暇ですね」

「船が日本の領域を出たらきっと本格的に動き出すだろう」

「それまでの方針として先ほど仰った刑事さん達のリストアップ、アイリンとダイヤの所在を探るといったとこでしょうか」

「さすが助手だね,上手く纏めてくれた。まぁ刑事については3人目を既に見つけたよ」

「あれさっきまで2人だったのでは?」

「ほらあそこ、あそこで渋い顔しながら蕎麦を啜っているおっさん。あの人も刑事」


3人でまじまじと蕎麦を啜るおっさんを見つめる。特段面白いものではない。

イヤホンで何かを聞いている。恐らく無線連絡だろう。


「山吹にはわかりませんわ…」

「恥ずかしながら同じく」

「まぁ特徴的な符号の発見や諸作の観察によるかな,あぁそうだ雪姫さんに渡すものがあるんだ」


雪姫さんと山吹さんが一体なんだろうと不思議な顔をしている。

「ここではなんだから、私たちの個室へ行こうか」


一旦、これからフェリーの中で宿泊することになる部屋へ移動することにした。

「プレミアのダブルをとれたよ。残念ながらトリプルは無理だったので山吹さんには悪いけど個室にしてもらった」

「山吹は大丈夫ですよ紗禄様、綺麗なお部屋ですね」

「そうでしたか良い部屋ですね。屋処さん先ほど仰っていたのは何ですか、渡したいものというのは」

「それなんだけど、はいこれ」

「これはいったい?」

「本庁から授けられた特別捜査官の手帳、これは雪姫さんの分。自分のは既にあるから」

「特別…捜査官?」

「これは私たちが調査する上で機関部といった本来立ち入ることの出来ない場所へ合法的な調査が法的な効力の元、認められるものだよ」

「そんなものが…?!すごいですね…!」

「日本ではまだ馴染みないだろうけど、この手帳のおかげで私たちはこの船の中では警察官と同等の捜査権を有することできるんだ」

「船の中限定とは言え驚きました…。わたしなんかがいいんでしょうか。この前までただのモデルだったのに」

「まぁ活躍ぶりが認められたと思おうか」

「はい…!これでくまなく探すことができますね」

「そうだね、でもまだ嗅ぎまわって相手を刺激する時じゃない」

「…どうしましょうか暇ですね」

「先程も言った様に相手が変装の名人であるため、乗客600人近くを私たちで1人1人を調べるのはほぼ無理だ」

「確かに…」

「なので対処療法となる。夜を待とう」

「はい…」

「紗禄様!雪姫様!カードで遊びましょう、僕ポーカー得意なんです!」

「最近全然やってなかったな、いいよ」

「気晴らしにやりましょうか」

「イヤホンを片方の耳につけるけど気にしないで、仕事だから」

「分かりました屋処さん」


夜になるまでカードで時間を潰すことにした。カードは引きの運もあるため知略が全てではないが私の戦績は3人の中で一番勝ちが多く、成績は1位。以外なことに山吹さんはカードで戦略を作るのが上手く次点で2位、雪姫さんはどべで3位。少年漫画の主人公みたいな考えしてるところあるため駆け引きはなんていうか苦手らしい。


「ほぼ全敗しました…」

「紗禄様つよーい!僕、カードには自信あったのに負けちゃいました~」

「悪いね、ゲームは得意なんだ。お、枝がネタを拾ったな」

「枝…というのはなんですか屋処さん?」

「今ね、乗務員の会話をマイクが拾った。貨物が漁られたらしい」

「え、貨物が?!行きましょう」

「山吹が同行してもいいのでしょうか?」

「車両デッキにいてもつまんないと思うから先にご飯食べていいよ」

「わかりました、お二人の分を確保しておきますね」

「ありがとう山吹さん、では雪姫さんは勿論一緒にきてね」

「はい!」


晩御飯を後回しにして私たちは荒らされた痕跡のある貨物へ向かうことにした。







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