第8話 「眉目秀麗」

雪姫視点


「ウェ~~~~イ!ドンペリ一本入りま~す」

話し方がムカつく。

「ねぇ、君綺麗だね。彼氏いないの?」

何も響かないし、彼氏いる人はこんなとこに来ません。


私は今日、仕事で歌舞伎町のホストクラブに来ていた。チャラついた男たちが多くて正直好きじゃない。早く帰りたいところだが、依頼人と屋処さんのために目的をこなさなければいけない。


遡ること数時間前───


いつもの事務所で屋処さんが今日の依頼人と話しをしている。


「逆美人局だぁ?」

「うん、路上でイケメンな男の人に声を掛けられたのでお茶をしたの!そしたら向こうの口車に乗せられて~、飲みへ行ったの~」



そもそも知らない人に付いて行ってはダメです。


「おだてるのが上手くお酒が進んじゃって、気付くと寄っぱらって寝ちゃったんだよね~。バッグを確認するとお財布が無くて取られちゃった!」


不用心過ぎる…。


いつもの事務所で今日の依頼人が相談にやってきた。

依頼人の女性は派手な金髪をしており化粧も濃い。水商売をしている人かと思われる。

屋処さんは依頼人のバ…、迂闊さにお前が誘いにホイホイ乗ったからだろという顔をしてましたが、本人の手前上まぁそれなりにオブラートに包み、形だけ同情の姿勢を見せていた。


「銀行のカードやクレカ、身分証まで取られちゃったわけ?取り敢えずクレカは使用を止めてもらいなよ」

「うんそうする~」


緊張感がない…。標的にされたのもなんだかわかる。


「相手の特徴について細かく教えてくれる?」

「えーとねー」

「うん」

「うんとねー」

「…」


屋処さんが若干いらだっているのか貧乏ゆすりをはじめた。抑えてくださいね。


「金髪でー頭がツンツンしてねー、背がたかくてー、なんかー飾りがジャラジャラついてー」


依頼人の女性は取り敢えず記憶の中で思い出したことを羅列してるみたいだ。


「なんか特徴がゲームのキャラみたいだな。…あっ、ホストか!こいつは」

「そーなのー?」

「恐らく、喋りが上手くて口が達者、イケメンで容姿が金髪で派手だとその線が濃厚だ。場所は?」

「池袋~」

「自分のホームタウンでやるとは考えにくい。新宿か、渋谷をメインに探ろう。…と言いたいのだけど。ごめん雪姫さん、私はちょっと色々調べないといけないことがあるんだ」

「そうなんですね、わかりました」

「いやぁ、この前に原宿でゴスロリ服を着て踊っている場合ではなかった」

「結果的には人助けになったので良いのではないでしょうか…」

「そうだね、まぁ物分かりが良くて助かる。良い助手をもったや。代わりと言っては何だけど助っ人を呼んでおくね。それと今、似た事例ないから調べるから待ってて」


…信頼されており鼻が高い。屋処さんは最近、アイリンの行方を追っていると言っていた。きっとそれがらみのことだろう。任されたのなら助手としては頑張らないと。


───というのが今回の経緯。


「雪姫さん、眉間に皺寄ってますよ」

「え?あ、失礼いたしました」

「いいですよー、平常を装わないと」


今回の助っ人として呼ばれた山吹さんに注意してもらった。いけない、探偵であることは内密にしないと、あくまでも今の私はお客なんだ。

山吹さんはいつものメイド服ではなく私服だ。カーディガンにロングスカート、丸眼鏡に丸みのある黒髪のボブカットで内向的な文学少女に見える。正確にはイメージ付けしている。


「屋処さんはなんでこのお店だとアタリを付けたんですかね?」

「類似のケースを調べたところ、発生個所を地図にマーキングして範囲を割り出したみたいです。するとこのお店が円の中心にあったと言ってました」

「わーさすが探偵さんですね!それで僕はNO1ホストの龍宮寺レオっていう人を指名すればいいですか?」

「はい、その人です。一番ルックスと喋りが上手く金髪で頭ツンツンしてるので多分、犯人かと」

「あまり僕の好みではないですが、確かにその手の女性からのウケはよさそうですね」


山吹さんって僕っ子なんだ…?いや今は関係ない。仕事に集中しよう。


「私は今からトイレに行って変装してきます。調べている間は龍宮寺の相手をお願いします」

「分かりました~幸運を祈っときます…!」


山吹さんに会釈をして紙袋を手にトイレへ向かう。

入れ替わる様に指名された龍宮寺が席へ着いた。

「ちょり~す☆君が俺を指名してくれた子かい?今日は一緒に飲もうぜ!」

「はい~、わ、ワタシこういうところ来るの初めてで…。レオくんに会いたい一心できました!」

「ほんとかい?一途な子は好きだぜ俺☆」


後ろで山吹さんと龍宮寺の会話が聞こえる。山吹さんは接客をしているだけにか、様変わりしてレオにほれ込んだ乙女を演じ切っている。…さすが過ぎて感心してしまう。


トイレの個室では用意したバーテンの恰好へ着替える。実は胸にサラシを巻いて出来る限り平らにみせている。圧迫して若干辛いがこれも仕事なので今だけ我慢だ。

髪は長いためウイッグを付けてかつらを被る。その他、男装に見えるように手を加えた。

ここから勝負となる。

レオが犯人なら依頼人の財布にあったカード類を所持しているはずだ。

今から更衣室に行き荷物を探る。

女性トイレの入口に誰もいないのを確認してお店のラウンジへ。

ネオンが眩い。この恰好であれば誰も気に止めないはず。


「ねぇちょっと、ウイスキーのおかわりを頂戴…」

「え?あ、はい!只今お持ちします」


そうだ今の私は店員なので注文を頼まれることを失念していた…!

ふいに注文された女性のお客さんから袖を捕まれる。


「ねぇあなた…とてもかっこいいわね。新しく入ったの?一緒に飲まない?」

「いえごめんなさい、今は仕事中ですので…」


急いで振り切り後にする。更衣室に行く前に厨房へウイスキーのおかわりを伝えといた。


お店の従業員側の控室に来た。

今は全員が接客中なので更衣室には誰もいない。お店のラウンジとは違い静寂に包まれている。自分の心臓が高鳴るのがわかる。それから煙草臭いのが鼻に付く。調べてさっさと出よう。

ロッカーにはそれぞれの源氏名の札があるため迷うことはなかった。

レオのロッカーには当然ながら鍵が掛かっている。

屋処さんから教えてもらったピッキングの出番だ。


えーと確かに道具をこうして、あーして、回すと…。

カチャンと鍵の開いた音がした。この程度の鍵であれば簡単に開く。


中を見ると彼のバックがあったので開いて見てみる。

なんかごちゃごちゃしている…。あったのは黒の財布が一つ。依頼人はピンクの財布と言っていたがない。捨てたのかもしれない。

財布を開いてみてる。レシートやら小銭やら多く整理されてない。

…ない。あるのはレオの本名であろう名前のカードだ。名前はタクヤというらしい。

犯人ではないか、家に置いてあったなら調査は失敗になる。


こんな時、屋処さんならどうしただろう。

───「秩序型というのは?」

「プロファイリングにおける犯人の分類方法ではこの様な几帳面さが見られる犯行を秩序型と定義される」───

逆に無造作や乱雑さが見られるのは無秩序だと言っていた。

このカバンの中身を見るに無秩序そのものと言える。財布の中などへ几帳面に納めないのでは?

───観察するというのは基本的なことだよ和登島さん───

屋処さんの教えを思い出す。

中身を観察する…。

煙草の箱は一度潰れたのかぐしゃぐしゃだが、中身があるのか折れ曲がってはいない。

箱を空けてみるとそこにはなんと───

煙草と一緒に依頼人の女性の名前が書かれたカード類があった…!


財布があったタクヤのバック、彼の身分証と依頼人女性のカードを並べて写真を撮る。

依頼人のカードのみ回収して残りは元通りにロッカーの中へしまう。

よし、依頼完了!そう思った束の間、廊下側から足音が聞こえてきた。

まずい…!出口は一か所のために今出ようものなら誰かと鉢合わせしてしまうだろう。

どうする?!あたりを見回してもロッカーしかない。それなら…!


「あのクソババア酔っぱらって頭撫で繰り回しやがって、おかげでセットがぐちゃぐちゃじゃねーか」


恐らくお店のホストと思われる男性の悪態が更衣室に響く。

自分の心臓がさらに高潮して動悸がする音が直に聞こえる。


「息くせーんだよアイツ、まぁいい金づるなんだけど…」


わりと知りたくなかったホストの裏側を垣間見てしまった…。


男性は髪のセットを直すと更衣室から出ていった…。

わたしも龍宮寺のロッカーから這い出る。煙草臭くてもう二度と入りたくない。

今度こそお店から離脱しよう。






後日───


依頼人の被害届が受理されて、龍宮寺レオは窃盗で立件された。


「雪姫さんお疲れ様、大丈夫だった?」

「はい、屋処さんの教えや山吹さんの協力もあってなんとかこなせました」


山吹さんは仕事なのでもちろん今はいない。今度あったら直にお礼を言おう。

「雪姫さんの撮った写真は証拠そのものとしては使えなかったけど明確な裏付けにはなったよ。おかげで警察を動かすことができた。被害者も複数いたみたいだからね。」

「そうでしたか、あの人はお金が欲しかったんですかね」

「供述によると出来心らしい。自分の才能を悪い方に使ってしまったんだろう」

「自業自得ですね」

「そういや、イケメンのバーテンが出たと噂になってるらしいよ」

「え?」

「黒髪で線が細くて、そこらのホストより顔が良いらしい」

わたしかもしれない…。

「雪姫さんじゃないこれ?いいな私も男装した雪姫さん見てみたかった」

「見たいですか?」

「え、うん?まぁそれなりに」

「惚れちゃうかもしれませんよ…?」












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る