第7話 「ぴえんぱおん🥺」

雪姫視点



東京、原宿───

ファッションカルチャーの最先端、お洒落な若い女性を主な客層にしたお店が多く並ぶエリアだ。

そこへわたしと屋処さんはやってきた。

ゴスロリ服で…。


「あの…これやっぱり恥ずかしいというか、人目が気になります…」

「何を言ってるんだい和登島さん、探偵に変装は必須なんだよ」

「えぇ…でもわたし普段こんな衣装着たことないし、短いスカートも慣れてなくて」

「履いてたらそのうち慣れるさ」


屋処さんは自撮り棒に自身の携帯を括り付け、撮影しながらポーズを決めた。はたから見るとどこから見ても原宿系女子にしか見えない。

ウィッグでツインテールを再現しており、大変可愛らしい。確かにこれでは知らない人は探偵と思うことはないだろう。


遡ること三日前。

私たちは今日、とある親御さんから家出した娘を探して欲しいという依頼を受けていた。


今回は依頼人の夫婦のご自宅へお伺いをするため出先となる。

場所は閑静な住宅地。

一軒家でどこにでもよくありそうだ。


インターホンを鳴らして迎えてくれたのは、至って普通の中年なご夫婦。

「初めまして、ご連絡を受けた顧問探偵の紗禄です」

「同じく探偵(助手)の和登島です」


夫婦の2人はわたしたちを快く迎え入れてくれた。

リビングで応接することになった。綺麗に整頓されており、奥様の清掃が行き届いている。

わたしと屋処さんは同じソファーに腰掛ける。


「それで電話でおっしゃっていた人探しというのはお子さんのことですか?」

「…はい。あの子一昨日から出掛けた切り未だに戻ってこないんです」


屋処さんが尋ねるとどうやらお子さんが行方不明らしい。旦那さんは無口なのか、主に奥様が話してくれた。


「お子さんについて教えてください」


子供について聞いたところ、その子は女子高生であった。

名前は観月サキ。平均的な偏差値の都立高に通うどこにでもいそうな女の子。

素行は悪さこそしないが不登校がちでよく学校をふけていたらしい。

見せてもらった写真では大人しそうな印象の子だ。


「普段、よく足運んでいた場所とか知ってますか?」

「友達とよく原宿や渋谷に言ってたこと聞いたことはあります…」


女子高生らしいと言える。


「ちょっと部屋を見させてください」

「部屋ですか?構いませんけど…」

屋処さんが奥様に許可を得てからその子の部屋へ上がる。


取り留めて普通の部屋だ。机にベットにクローゼット、小さい本棚。


「なにか手がかりあるんですか?」

「それを今から探すのだ」


屋処さんはおもむろにゴミ箱を漁り始めた。


「あの…ちょっと何を」

「調査です、行方の手がかりを探すための」


奥様から不安に思われたのでフォローしといた。


「あった、レシートだ。場所は原宿。日付は三日前や一週間前から特定のコンビニでお菓子屋や飲み物を買ったものだ」


すかさず携帯でレシートにあったコンビニの住所を検索し始めた。

「駅前から離れてるな、足蹴り良く通っている。何か目的があったんだ」


次にクローゼットをあけ放った。

「こいつはゴスロリ服…?」

「あの子の趣味みたいで、休日はよくそれらを着て出掛けてました」

「99%の確率で原宿に通っていたとみえる」

「一体何の用だったんでしょう?」

「それを今から確かめにいこう、この衣装お借りしますね」

「いいですけど、その服を一体どうしようと…?」

「着ます…!」


屋処さんが奥様に言ったのは意外な一言だ。…え、着るんですか??







というのがここに来るまでの経緯。わたしまでゴスロリ服を着るなんて思わなかった…。


事前に聞き出した情報では高校を不登校になってから、いつもどこかへ行っていて、ある日を堺に帰ってこなかった様だ。普段から渋谷や原宿へ足を運んでいたこと、実際に自室を見させてもらいゴスロリに傾倒していたり、普段の買い物の購入履歴やレシートなどから原宿に目星を付けていた。

失踪してから三日目、警察へ失踪届も出したがまだ見つからず、探偵にも依頼を出した程度には困り果てているため早く見つけてあげることが望ましい。


「分かりました、腹を括ります。それではどこから探りますか?」

「うむ、まずは竹下通りで軽く聞き込みといこう。同じ様なゴスロリ姿の子がいたら率先してあたるように」


これまた履き慣れない厚底ブーツで闊歩する。わたしはこの様に厚底を履くと男性の平均身長を超すため、人からの視線が刺さる…。

竹下通りを巡ること約五分、第一ゴスロリギャルを発見。


「おはぽよ!あげみざわ〜ちょいと話し大丈夫そ?」

「はにゃ?なんでも言っちゃって〜」


屋処さんが私の知らない日本語を話してる…。しかし、同じ様なギャルからの好感度は良いのか食いつきがある。

わたしはギャル語というものをよく知らないが、屋処さんは使いこなして原宿現地のギャルと適切なコミュニケーションを取れている。わたしだったらこうはいかなかっただろう。


「実はー、今日オフ会する予定のフォロぴが来なくて探してるぅーっていうかぁ〜、あ、この子なんだけど」


携帯でご両親から共有してもらった写真を見せた。

「あ〜、さっちんだわ。友達なん?地下ドルやってんよ」

「そなの?あーし最近知り合っだばっかなんだよねー」


ユザネ、つまりSNSのユーザーネームを教えてもらった。拝見したところ、どうやら原宿を拠点に地下アイドルをしていたらしい。

ゴスロリ衣装をトレードマークにしたグループの所属であり、名前はブラックメイデンと言うみたい。写真に映る女の子はみんなゴスロリ衣装を着ている。

チャットの発言履歴を見るに近々ライブがあるらしい。頻繁に練習しており、つらぴ😥などの発言を残していた。


「さっちん…本命のお名前はサキでしたからあだ名でしょうか」

「だろうね、ご両親からはこのことを話してなかったので、秘密にしていたのだろうね。ライブ予定のクラブへ行ってみよう」


web上で告知されていたライブ会場へ屋処さんと向かう。ここからそう遠くない。


通行人からの視線に耐えながら移動をすると、件のクラブの看板が見えてきた。

その辺の壁にはライブ告知の張り紙がしているので間違いないだろう。

時間がまだ昼間ということもあって人気はないが地下の階段から音楽が聞こえる。


地下まで降りるとライブのリハーサル中なのかゴスロリの女の子たちがステージで踊っている。あの中に探しているサキさんはいるのかな…、えーっと携帯を取り出して写真と見比べてみる。

屋処さんは何故かステージではなく隅っこへ移っている。なぜだろうと思ったが、壁際に座り込むもう一人のゴスロリの女の子がいる。


「君がサキさんだね?ご両親が探していたよ」

「え、誰?なんでうちのこと知ってるの?」

「私は君のご両親から頼まれて探していたんだ、おや足に包帯が、怪我をしてしまったのか」

「お願いまだ言わないで!このライブはうちにとって大事なものなの!」


今すぐにでも連れ戻されるのかと思ったのか、錯乱してしまったので彼女を宥めて私たちが探偵であること、皆が安否を心配していたことを告げて説明した。


「警察じゃなくて探偵なの?」

「いかにも、別に補導したり、無理に連れ戻さないから安心して」

「ライブが心残りの様ですね、見届けたいのですか?」


落ち着きを取り戻したのか話を聞いてくれる様になった。


「リーダーが引退するからみんなで出来る最後のライブなのに、脚を捻挫しちゃって…。踊るのは無理でも見届けたいけど、うちが抜けた穴を誰か宛がわないと」

「それは残念ですね…」


わたしには一緒に同情してあげることしか出来ない…。


「あ、そうだ。私が踊ればいいんじゃない?」

「え?!」屋処さんが踊るの??!

え、え?探偵が踊るの?それは探偵の仕事なの!?


「ライブは今日の夜なんだけど…」

「踊りの振付を録画したビデオある?」


屋処さんはサキさんから共有してもらったビデオで振付を確認を行う。

わたしでは一度で覚えきることはできない。

しかし、屋処さんは今見た内容の振付をわたしの目の前で再現し始めた。一度も間違えることなく。


「すぅ~~ごいー!これなら代打できるよ紗禄ちゃん!」

サキさんからの太鼓判付きだ。


「よくさっき見ただけで覚えられましたね屋処さん…」

「ん?あぁこれは記憶の宮殿だよ」

「宮殿??」はてなんだろう?

「分かりやすく言うと記憶術、和登島さんは頑張って覚えてね」

「え、え…?」わたしも踊るの?


夜まで時間がないが必死に練習した。

なんで今日はゴスロリ服を着て踊るはめになってしまったんだろう…。




準備というほどの準備もなく夜がやってきてしまった。

もうこうなればぶっつけば本番しかあるまい!


「次はゴスロリ服が特徴的なブラックメイデンの登場!」

司会に促されて舞台へ立つ。この姿で人前に立つのは余計に緊張する。

横目で屋処さんを見てみるが、いつもと変わりない。肝が据わっている。


「曲名はぴえんぱおん🥺」


病んだ社会につらぽよぴえん🥺止まらない増税にぱおん🥺

歯止めの聞かない少子高齢化のふざけた国家にっぽんぽん!


PON☆PON☆ニッポン!ぽ~~~~~ん🥺


現実逃避にインターネッツ!救いはうちの最推し!ダーリン!うちの嫁!


うちらがあなたの最推しになります!お願い推して上げて貢いでオタクくん🥺


職場と自宅の往復のあなたに捧げるこの歌~、あなたに甘さを届けるよ*


メイデン!メイデン!ブラックメイデン~~~~🥺


ゴスロリ服ツインテがうちらのトレードマーク♡


あなただけのマイエンジェル~♪


希望の見通せない世の中につらぽよぴえん🥺強盗増加に治安悪化にぱおん🥺

たこつぼ型社会にぴーえん🥺タコのお刺身は旨いよ


PAN☆PAN☆ぱお~~~~~~~~ん🥺


逃避行に電子の海を泳ぐよオタクくん、あなたのメシアはすぐに傍にいるわ

一筋の光が差し込むよ☆


メイデン!メイデン!ブラックメイデン~~~~🥺


ゴスロリ服ツインテがうちらのトレードマーク♡


あなただけのマイエンジェル~♪


メイデン!メイデン!ブラックメイデン~~~~🥺


ゴスロリ服ツインテがうちらのトレードマーク♡


あなただけのマイエンジェル~♪


メイデン!メイデン!ブラックメイデン~~~~🥺


狂うように愛して、愛でてね

元気のないときはヘラって暴れたりしちゃうけど被害者ヅラなんて言わないで


チャット欄に流れるオタクくんのコメントいつも見てるよ

中にはアンチコメでブスとかキモイとか誹謗中傷もあるけど

応援してくれてる皆のコメはちゃんと見てるからね

企業案件を受けると露骨に閲覧数減るのつらぽよ~🥺


病んだ社会につらぽよぴえん🥺止まらない増税にぱおん🥺

歯止めの聞かない少子高齢化のふざけた国家にっぽんぽん!


PON☆PON☆ニッポン!ぽ~~~~~ん🥺


現実逃避にインターネッツ!救いはうちの最推し!ダーリン!うちの嫁!


うちらがあなたの最推しになります!お願い推して上げて貢いでオタクくん🥺


職場と自宅の往復のあなたに捧げるこの歌~、あなたに甘さを届けるよ*


メイデン!メイデン!ブラックメイデン~~~~🥺


ゴスロリ服ツインテがうちらのトレードマーク♡




───────

─────

────

───




正直、壇上での記憶がない。必死過ぎて自分がどう踊っていたのかわからない。

サキさんをご自宅まで送り届けたあと、事務所へ戻るのに社用車も無心で運転していた。

今日は早く寝よう。

「雪姫さんお疲れ様、今日は早く寝なよ」

「え、あ、はい…」


後日、ブラックメイデンのライブ動画がアップされていたのでコメントを見るとバックダンサーの動きがズレてると書き込みがあった。これはわたしのことだ。屋処さんの踊りは他のメンバーと遜色ない動きで馴染んでいる。


…ぴえん🥺


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る