#336 冬の醍醐味

 仕事の帰り道。はぁーと、男は息を吐いた。

 冬の寒さによって、その息は白い。この白い息が冬の醍醐味のひとつだと、男は思っていた。普段は見ることのできない息が、白くなることで目に映る。見えないものを見ることができる、という事が男の心をくすぐっていた。

 この白い息はいい。

 ふと、周囲を見渡してみる。

 人は──自分以外にいない。

 男は顔を上げると、ハッ、ハッ、ハッ、と短く息を吐いた。白い息が断続的に続く。まるで、汽車の煙突から白い煙が断続的に出ているような。

 次に、男は「はぁー」と長めに息を吐く。

 白い息が、まるで大怪獣の熱線のように放たれる。

 子供の頃、よくやっていたこと。

 冬の醍醐味のひとつだ。

 子供心を忘れない男の足取りは、とても軽かった。

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