#278 カウントダウン
男は急いでいた。
すっかり忘れていた。
よりによって今日だ。今日なのだ。男は友人たちと居酒屋で酒を飲んでいた。長編映画を見た帰りだ。いい具合によって、いい気分のまま帰り道について、そこで思い出した。瞬間、男は走り出した。
今何時だ? と腕に巻いた時計を確認する。長針は「11」を過ぎている。短針は「12」。もう時間がない。
駅前の居酒屋から家までは徒歩で30分かかる。走りだと半分くらいか? 信号はそんなに多くない。が、酒が回った体で走るのは無理が生じる。
心拍数がいつもより上がっていく。最悪口から飲んだものが全部出そうだ。
それでも走る。間に合わせなければいけない。なぜ居酒屋に行ったのか。なぜこんな時間まで友人たちと酒を飲みあったのか、自分の行いに怒りを感じる。
楽しみにしていたのに、長時間並んでようやく手に入れたのに。間に合わなければ次いつ手に入れられるかわからない。
家に到着。靴を脱ぎ捨てて、急いで冷蔵庫を開ける。
そこには──消費期限が切れ色褪せた特別性のケーキがあった。
時計を見る。
時刻は0時を過ぎている。日付が1日経った。
特殊な材料を使っているケーキは、とっくに消費期限切れ。もう食べられない。
男は間に合わなかった。
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