#277 子どもの思い出

 夜、ひとり晩酌をしていると、子どもの頃のことを思い出した。あれは、小学校低学年の時か。

 父親はよくひとりで晩酌をしていた。大の酒好きだった。むしろ飲まない日を見たことがない。たはいえ、嗜む程度なので、悪酔いしてこちらに害が及ぶということはなかった。

 ただ静かにグラスを片手に飲んでいる。そんな父親だった。

 そんな父親の姿をよく真似していた。

 例えば、父親が芋焼酎を飲んでいる時は、水をそれに見立てて真似してみたり、ウイスキーを飲んでいる時は麦茶を見立ててみたり。


「確か、ビールはコーラで真似したんだっけかな?」


 夜にジュースを飲むな、と母親に叱られた覚えがある。

 そんなことをしていたからなのか、20歳を迎えた日、真っ先にお酒を飲んだ。幸い、と言えるのか、父親に似てアルコールには強い体質だった。

 ただ、大学進学時に一人暮らしを始め、そのまま就職したので父親と晩酌したことはない。


「……年末帰った時、一緒に飲もうかな」


 とびきりにいいお酒を買って行こう。

 そう決めた。

 今から年末が楽しみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る