#78 かくれんぼ

「かくれんぼしよう」


 と、目の前の少年が言う。

 俺は「いいよ」と言った。


「じゃあお兄さんが鬼ね。僕が隠れるから」


 少年と俺の二人きりのかくれんぼ。

「わかった」と頷いて、俺は目を閉じる。

「10秒数えるからな」と言って、俺は1秒ずつ数え始める。

 ゆっくりと、ゆっくりと、1秒1秒を噛み締めるように数える。少年に聞こえるように大きな声で、全体に響くように数える。

 やがて、10秒数え終えた。そして「もういーかい?」と叫ぶ。


「まーだだよ」


 まだらしい。

 心の中で数秒待ってみる。

「もう、いーかい?」と再度叫ぶ。


「まーだだよ」


 まだのようだ。

 今度は少し長く、待ってみる。

 三度目の「もういーかい?」に、


「もういいよ」


 と、返ってきた。

 よし、今度はいいみたいだ。俺は目を開けて、少年を探し始める。

 そこで「ん?」と俺は首を傾げた。改めて気づいたが、今俺がいるのはどこなのだろうか? だって、周りに何もない。真っ白な空間。そこに、俺はただ立っている。

 つまり、少年が隠れるところなんてない。それなのに、少年はどこにもいない。

 そもそも俺はなんでかくれんぼをしているんだ? 俺をかくれんぼに誘ったあの少年が一体誰だ? 

 今更ながらに疑問が湧いてくる。


「どうしたの? お兄さーん!」


 少年の声が聞こえてくる。


「僕のこと、探さないのー?」


 近くから聞こえるのに、姿が見えない。


「探さないと、進めませんよ」

「今、お兄さんは迷っている」


 少年の声が二つになった。


「自分の進むべき道を」

「答えを」


 そうだ。俺は迷っている。悩んでいる。

 自分の進むべき道を。 

 小学生の頃から勉強はできた。だから中学に行ってもそれなりにいい成績を残したし、高校もそれなりのところを受験した。

 大学も行く。

 けど、その先が見えなくなった。勉強はできる、ではなく、勉強しかできない。何かスポーツが得意というわけでもない。何かクリエイティブなことができるわけでもない。何か打ち込める研究をしているわけでもない。

 なりたいものがあるわけじゃない。

 ただ歩いていただけ。 

 ゴールがない道を歩んでいただけ。


「でも、お兄さんには僕たちがいる」

「僕たちがいるってことはお兄さんにはやりたいことがあるってことだよ」


「「だから僕たちを見つければいい。簡単でしょ」」


 少年たちは、つまり俺の「夢」と言うことなのだろうか。

 俺にやりたいことなんてないと思っていたけど、やりたいことがあったと言うことか。

 なら、探してみよう。

 探して、道の先にあるものを決めよう。

 そうだ、これはかくれんぼだ。隠れている俺の「やりたいこと」を見つけるかくれんぼ。

 さーて、鬼が見つけてやるぞ。

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