#77 絶望の朝

 朝。

 男は目の前のパソコンの前に立ち尽くしていた。


「嘘だ……嘘だ……」


 譫言のように「嘘だ」と繰り返す。

 男の目の下には深いクマがある。着ているシャツはシワがより、髪はボサボサ。先程まで仮眠をしていたのか、口の端には涎のあと。

 しかし、それら全てを上書きするほどの酷い絶望した表情。

 男は、膝から崩れ落ちた。

 パソコンの画面には、真っ白なページが表示されている。


「俺は……作ったはずだ……ちゃんと、作ったはずなんだ……なんで……」


 男は昨日の記憶を呼び起こす。

 会社から帰宅して、次の日のプレゼンの資料を作っていたはずだ……。いつも小言が多い上司をギャフンと言わせようと、気合を入れて作ったはずだ……文字を打った覚えはある。なのに、画面に映し出されている資料は真っ白……。


「ははっ、ははっ」


 男は笑った。

 もう、笑うしかなかった。



 男は仕事を休んだ。

 そのまま寝込んだ。

 男は二度と起きて来なかった。

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