#76 学校の噂

「おい、聞いたか?」

「何を?」

「あの『噂』だよ。あの『噂』」

「どの噂よ」

「最近ホットなあれだよ」


 教室に入ると、クラスのみんながそんな話をしていた。

 男子女子、様々なグループ間でやり取りされている話。僕はそれに耳を傾けながら自分の席へ向かう。チャイムがなる五分前。ギリギリとも言えるが、ま、このぐらいの時間に投稿するのが一番いい。

 席へ到着すると、カバンの中から必要なものを机の中へ入れる。


「よ、おはようさん」


 すると、僕と同じ中学から進学した多賀野谷たがのやが軽い挨拶をしながら振り返ってきた。ちょうど僕の前の席が多賀野谷の席だ。


「おはよう」

「なあ、お前も知ってるか? あの『噂』」

「どの噂だ?」

「ほらあれだよ。最近ホットなやつ」

「だからどれだ。この学校は噂が多すぎるだろ? 最近ホットと言っても、それだけで十は超えてるぞ」


 僕らが通うこの高校は、どう言うわけか噂が絶えない学校だった。それはもう大なり小なり様々。誰かと誰かの恋愛話や誰かが禁止されているアルバイトをしている。どの先生はあの先生と裏で付き合っている。

 それらは日々生まれ続け、日々生徒達の話題性をまとめて攫って行く。日々生まれる新しい噂。だから最近ホットと言われても、それがいつの時のかわからない。


「そりゃ……」案の定多賀野谷も言葉に詰まる。

「クラスのみんなも、グループごと話している噂がバラバラ。ま、日々山の数ほどの噂が生まれるんだから当然か」

「……はあ、しかし、どうしてこうも新しい噂が生まれるのかね」

「噂なんて、真偽不明の話題好きでしょ? 人間は。あれこれ想像して、あれこれ考えて、別に中身はどうだっていい。共通の話題で、その場を盛り上げることさえできれば」

「わーお、言うねえ」


 すると、そこでちょうどチャイムがなった。

 担任が教室へ入ってくる。

 朝のホームルームが始まる。

 さーて、今日はどんな『噂』を作ろうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る