#47 微動だにしない男

 一人の男がとある道に立っている。

 ビビットカラーのシャツとジャケットに身をつつみ、ニット帽をかぶっており、髪の毛を全てその中に収めている。白いマスクをつけているため、その容姿はいささか不気味だ。その姿で、さらになんとも奇妙なポーズのまま、微動だにしない。一歩間違えれば恐怖を抱くその姿に、道ゆく人々は自然と視線を奪われていく。

 全く微動だにしない。男かポーズをしてから、一体どれほどの時間が経過したのだろうか。少なくとも、夕方の時間帯から夜の帰宅時間が終わるまで、男は全く動いていない。

 その姿に魅入られた人々が、彼の足元のケースにお金を投げ入れていく。きっと彼はストリートパフォーマーなのだろうと、誰しもが思った。

 やがて、人気ひとけがなくなったとき、男の姿はゆっくりと消えていった。

 代わりにやってくる別の男。 

 着物を着た男だ。


「へ〜、幽霊を使って金儲けだなんて、考えるね〜」


 そう言って着物男は後ろを振り返る。

 そこには、着物男の手によって伸びている風貌の悪い青年が数名転がっていた。


「さて、こいつらにはきつめのお仕置きしといたから、もう成仏しなさい。もう君は自由だ。霊にまでなって、何かに縛られるもんじゃないよ」


 再び姿を現す先ほどの男。

 しかし、その姿はうっすらとしている。

 男は数日前、ここで交通事故に遭い死亡したパフォーマーだった。パフォーマーとしても無念が、男をこの地に縛りつけた。そして、それに目をつけた若い青年たちが、男を使って金儲けをしていたわけだ。

 男は、少しだけ寂しそうに笑うと、姿を消した。

 成仏したのだ。

 着物男はそれを見届けると、男の足元にあったケースを拾う。

「あ」と後ろからか細い声が聞こえてきた。


「悪いけど、これは僕がもらうね。安心して、このお金はちゃーんと寄付するから。で、君たちは霊を悪用しないようにもっとお仕置きだから。古美菜、頼んだよ」

「はーい」


 すっと、ポニーテールの少女が現れる。

 先ほどまで誰もいなかった、何もなかったところからの出現に、青年たちは顔を青くする。


「あ、私も幽霊ですから。同じ幽霊として、彼を悪用していたことは許せません。なので、きつめの呪いかけちゃいますからね」


 ウィンク付きでお茶目に決める少女。

 青年たちの夜はこれからだ。

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