#27 トリックを解く探偵

「──これがこの事件のトリックになります」


 そうしうて、私は手に持っていた扇子を閉じて語り終えた。

 私の話を聞いていた刑事さんは顎に手を当てて、「ふむ」と一言唸った。


「そうか。さすがだ、助かった。今回もよくトリックを見破ってくれたな」


 私の肩に手を置いて刑事さんは言った。その表情は晴々としている。

 私たちが今いるのは先日起きたとある事件の現場。そこで起きた殺人事件のトリックを見破ってほしいと、探偵である私に依頼が舞い込んできたのだ。


「いえ……本当はもっと力になりたいのですが……すみません。私にできるのはトリックを見破るだけで、犯人までは見つけられないので」

「ははっ、なーに、犯人まで見つけられちゃあこっちの面目が立たないってもんだ。トリックさえ見破ってくれれば、あとはこっちで犯人見つけてやるよ。使用されたものがどこで、いつ購入されたのは調べれば一発だ」

「はい」そう言ったのち、続けて「すみません」と私の口から漏れた。


 何度も「すみません」と述べる私に刑事さんは再度肩を叩いてくれた。「元気だせ、気にすんな」と言われた気がした。

 そう、私は探偵を生業とし、そして数多くの事件の解決に協力している。この刑事さんとも何度か面識がある。最初は「探偵だぁ?」とみくびられていたものの、数多くの難解な事件を解決へと結びつけていくうちに、次第に信頼を寄せてくれるようになった。

 今回も、そんな信頼のもと私を頼ってきてくれた。


「ですが、いつも思うのです。私が犯人まで突き止めることができれば、刑事さんの力にもっとなれるのではないかと」

「嬉しいこと言ってくれるじゃあねえか」


 そう、私は事件の解決に協力しているだけ。探偵として、「事件を解決」していないのだ。私にわかるのはトリックだけ。犯人までは突き止めることができない。

 故に、私を「トリックだけ解ける探偵」を揶揄する人物がいることも確かだ。

 しかし、それは仕方ないのだ。

 私は、私が協力する事件のトリックしか解けない。犯人は見つけられない。


「大丈夫だ、そこまでしなくても、ちゃんと探偵さんを信頼してるよ」

「……ありがとうございます」

「安心しなさいな。犯人は必ず見つけてやるよ」


 そう言って、刑事さんは去っていく。

 その背中に向けて、もう一度「すみません」と伝える。

 彼の背中が見えなくなってから、私は一本の電話をかけた。

 数コールの後、電話がつながった。


「私だ。探偵ごっこは終わった。あとは頼んだぞ」

『はいはーい、それじゃあ今度はこいつを犯人にしときますか』

「トリックの関係上、犯人は男性にしてくれ。それ以外はなんでも構わない」

『了解でーす。しっかし、なかなかいい商売ですね。自作自演でトリックを仕掛け、こっちでリストアップした中から犯人を決める。それだけで稼げるんですから』

「ああ。だが、そろそろ街を移したほうがいいだろ。今信頼関係にある刑事は勘がいい。私たちの仕事にも気づくかもしれない」

『それはまずいっすね。んじゃあ、次はその人を殺しちゃうます?』

「そうだな。信頼関係を気づいた刑事が死に、そのショックから町を去る。筋書きとしてはいい。では、次はそれにする。トリック、犯人のリスト、頼んだぞ」

『はーい』


 電話は切れた。

 端末をポケットにしまい、現場を去る。



 私は探偵を生業にしている。

 トリックは解くが犯人は見つけない。

 犯人は助手が勝手に作ってくれるのだから。

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