【連載中止】光翼ヴァーデ ~異世界でロボット発掘しちゃったけど、どうやって運用すればいいですか?~

天龍びし

第1話・前編 早すぎた埋葬 新たな人生

 西暦2022年冬。

 僕、真登伊 怜まとい さとるは、そのとき高校二年の男であった。


 外国人であったらしいが、物心つく前に死んだ母、父親を名乗る人物からの仕送りがあるだけで、一人暮らし。


 学校では禁止されているバイトは秘密裏にやっている。


 高校生の一人暮らしなど、ギリギリ生活できるレベルかと一般的には思われるだろうが、僕の部屋には大量のガンプラやコトブキヤのシュープリスも置いてある。少なくとも僕は生活に苦労していない。


 いつもこの時間なら学校にいるのが常だが、今日から年明けまで、いわゆる冬休みであるので、僕はゲーミングチェアの背もたれにかけたジャージを着てコンビニへ向かった。


 ジャージで出歩くには寒く、しかしそこらのコンビニに行くのに着替えるのも面倒である。

 僕は歩みを早め、その右手にはなろう系小説を映したスマホを持っている。


 異世界転生して、銃の知識で無双する的な話。


 銃も好きだしロボットも好きな僕だが、そう思うと、この世界は僕の理想ではないかもしれない。


 ファンタジーも好きだ。だがこの世界はファンタジーとは程遠い。


 街はGTAのようにカオスではないし、ロボットはあるだろうが宇宙船もモビルスーツもない。


 僕は早くも、生きる目的を見失いかけている。将来何がしたいとか、そういうのは全くわからない。


 それが正常なのだろうか。父か母がいれば、こうはならなかったのだろうか。


 普通に生活したくても、周囲からは高みを目指せと求められる。そうしなければ水準での生活はできないらしいのだ。知らんけど。


「生きやすい世界って、どんなだろうなぁ……」


 コンビニにたどり着くためには、必ず横断歩道を渡る必要がある。

 信号は青。点滅もしてないし、渡っても問題ないだろう。

 そう思って、スマホを見ながら横断歩道を歩きだす。

 すると。


「おい。なんだアレ」

 

 聞こえた声に、スマホから目を離す。

 周囲では、通行人が皆一様にスマホを空へ向けて写真や動画を撮っているようである。

 その視線につられて、僕も空を見上げる。


 そこでは、大気の向こう宇宙空間で無数の光線が飛び交っており、時折オレンジ色の閃光も瞬く。

 僕も、カメラを起動して空に向ける。

 だが、その瞬間であった。


 ピンク色の光の柱が落ちてきて、目の前のコンビニを跡形もなく消し去ったのは。


 高熱が突風に乗って襲い掛かり、僕はそれに突き飛ばされてその場に倒れこむ。


 はっきり認識していた。爆風をもろに食らって手足がちぎれる人。飛び散った粒子で家が溶ける様。爆風で飛んできた、焼け焦げた車を。


 しかし僕の足はとっさに立ち上がることを許さず、ただその焦げた車が自分のところに落ちてくるのを見ているしかなかった。



 まったくの暗闇。目を開けているはずなのに、何も見えない。見ようと必死になっても叶わない。


 体の感覚は薄く、集中しなければもう二度と目覚めない。そんな気がして、暗闇を覗こうと必死になった。


 遠くから誰かの声が聞こえる気がする。


 僕は、その声の方向を探し、ただそちらへ行こうとだけ考えた。


 体の感覚が分からず、前に進んでいるのかも分からない。


 だが、行かねばと考えることを止めることは恐ろしい。


 声の主に近づこうとすればするほど、じんわり体の感覚が戻り始める。


 いや、熱を帯び始めたといえばよいだろうか。今はそれだけが体感できる。


 そして、突然体が沈み始めた。


 体の感覚が戻り始めている。

 沈む速度が、いやこれは落下と言っていい。いわゆるジェットコースターに乗っているときのような、内臓が浮き上がるような嫌悪感が全身を襲う。


 そうして、次第に薄暗い光に包まれた。その光には、しかし確かにぬくもりがあった。


 再び感じたぬくもりは、まばゆい光によってもたらされた。


 まだ目を開くことはかなわず……。いや待て、体が地面から離れた。


 頭から背中、尻にかけて何かが触れている感覚がある。抱きかかえられている?


 周りから何語とも分からない話声が聞こえる。


 英語ではない。ヨーロッパ圏のいずれとも違うようで、その会話の内容に関しては何も察することができない。


 高校では、スムーズに大学進学するためにそれなりの成績を修めていたが、彼らの言葉がわかるほど高尚な学力は有していない。


 いや、そもそもこれはどういう状況なのだ。目が開かない。


 そうすると急激に意識が遠のいていき、眠るように考えるのをやめた。


 次に目覚めたとき、僕は自分の状態について、ついに知ることとなる。


 身支度に使う、大人の身長ほどの高さの鏡。


 そこで、自分の姿を見た。

 大体、自分の視点が低いこと。周囲のヨーロピアンな部屋の内装。自分の漏らす声がまるで赤子のようなこと。

 そして、鏡に映る赤子の姿。


あうあぁ うぅああうあぁ…… 異世界転生してますね


 え。つまりどういうことだ。

 夢?


 異世界転生したのだと認識しているはずなのに、頭の理解が追い付かない。


 誰か説明してくれよ! と叫びたいが、今は「あ」と「う」しか言えないので……

 

 いや、そういうことではなく。一度落ち着かねば。


 何がどうだからこうなると順序立てて考えていると、再び睡魔のようなものが襲ってきて、重たい瞼に抵抗できなくなる。


(赤子の脳みそでは、こんなことで限界か……!)


 その後、僕ははっきり目覚めることはできず、この体の成長の過程を夢のようにぼんやり認識することしかできなかった。


 それはまるで、体が高校生までの知識を持った真登伊 怜の人格を押さえ込んでいる…… と言うか、リミッターを掛けているかのようで……。


 聡明な魔法使いであるらしい母、エレオノーラ・ヴェルナーと。

 卓越した剣技を持つ父、アルノスト・ヴェルナー。


 そして、その二人を両親に持つ僕、『ユリウス・ヴェルナー』。


 時が経ち、僕が七歳になったころ。

 僕はヴェルナー家の秀才ともてはやされていた。


 元高校二年生の人格が七歳の体でしゃべっているのだから、そうもなろう。


 だが、それはどうでもいい。この異世界で七年生きて気づいたことが一つあり、それは一日に知る情報量が極端に少ないということ。

 つまり、ネットがないので。という話。


 そのため、将来的に迅速な情報収集のためのネットワークを構築する必要を感じる。


 ヴェルナー家は西の大国「レオネシア王国」という国にあり、七歳になった今、僕は王国の学院である「レアリス」に入学した。


 初等~中等部までは基礎的な部分を勉強し、高等部になると、魔法科、剣術科、またはその両方を選択して、かつ専門的に学ぶことになる。


 無論、学院で学べることはそれ以外にもあるが、魔法・剣術科以外の学科は校舎が違うのでよく知らない。


 学校で学んだことだが、この世界には魔法が存在する。


 が、ほとんどの原理は解明されておらず、回路のような式をなんでもいいから物に彫り込んで、その溝を特定の物質で埋めた上で魔力?を流すと魔法が発現する。


 とはいえ、戦争で一線を行く技術として用いられることが常で、日常生活でも魔法式をそれなりに見る。

 


 僕が九歳になったころ、きな臭い話が王国中で話題になった。

 王国からすれば辺境の話だが、とある小国同士で戦争になったそうだ。


 レオネシアを含むこれらの国は、大陸の端っこ。大きな半島にある。


 東側が大陸中央となるが、そこへ赴くには危険な巨大樹の森を抜け、数々の山脈を越えた後、ようやく本土と半島を隔てるエレアニアの大壁にたどり着くらしいのだが、いま各国は、そのエレアニアに至るために躍起になっていた時期である。


 技術競争のトラブルが巡り巡って戦争に発展したのだろうか? 仔細は知らないが、少なくともこの二か国をどの国も支援していないらしい。


 要はさっさと終わってほしいという意思表示だろうか。


 様々な要因が渦巻いて食料品などの物価が高騰し、王国兵ともめる難民の姿も見たことがある。


 戦争は早期に終結する。識者曰く、そういうことらしいが、結果的に戦争終結までに五年もかかった。


 どうも、「新兵器」とやらが戦場の形態を破壊し、双方が同じ兵器を用いて戦った結果、新兵器のためのドクトリンが存在しない戦争は長期化。物資が尽きたため終戦という流れになったらしい。


 そのことを詳細に聞いたのは中等部最後の冬。

 語ったのは戦争に参加したという傭兵。


 『機械人形』


 双方が繰り出した新兵器。

 古代文明の遺物であるというそれはすさまじい威力を持ち、魔法師団の総攻撃などは微塵も通用しなかったらしいのだ。


 機械人形と聞いて、ラピュタのロボット兵を想像していた。


 だがそれを実際に目の当たりにするのは高等部に進級してからのことだった。


 高等部は魔法と剣術、その両方を専攻したいと考えていた。

 しかし、そのためには難易度の高い試験をクリアする必要がある。


 つまり受験だ。


 しかしこの世界の学校を退屈に感じたことはない。

 魔法や剣術の話をされるので退屈もクソもない。


 そのため受験勉強に抵抗はなく、感覚的には好きなゲームのやり込みをするようなものだ。

 結果。受験勉強の甲斐あって無事、専攻を受けられた。


 

 そして現在。


 十六になった翌日。僕は朝目覚めた瞬間から、これまで曖昧だった前世の記憶を鮮明に思い出した。


 脳が十全に使えるようになったので、ようやくリミッターが外れたということだろうか。


 だが、前世のことを忘れると、まるであの世界の方が夢になってしまうような気がして、僕はすぐさま用意した白紙の本に覚えている限りのことを書き始めた。


 それは自分のことだけではなく、街の風景や電車のダイヤ、果ては部屋に出没したゴキブリの逃走経路まで。


 覚えていることは文字通りなんでも書き記した。

 それもこの世界の言語ではなく、あくまで日本語で。


 そして、新年度一発目の授業の今日。僕はあることを思いついた。


 それは、こっちの世界の固有名詞などを、脳内で日本語ないし英語等に翻訳することだ。

 これも前世のことを忘れまいとする試みである。


 そういえば。王国は山の麓に城を置き、そこから下の方へ扇状に城下街を展開している。


 その都合上、街のいたるところに階段があり、老人たちの足腰は強靭だ。


 が、荷車に坂を登らせるわけにもいかず、扇のど真ん中にある市場は街の入り口と同じ高度までくり抜かれており、よく商人たちの馬車が坂の途中にあるトンネルへ消えていくところが見れる。


 街並みそのものは、前世に例えればどうだろう。


 古いドイツ…… とでもいえばよいだろうか。だがゴシック様式的な部分も存在し、一概にこれはそれであると例えられない。


 建築技術に関しては、魔法が存在する上にモノづくりの達人たるドワーフ族も存在するため、かなり上質な城および城下街が完成している。


「これを作った代の王様は相当頭がキレるんだろうな。街を要塞として使えるようにデザインされてる」


 学院に向かうためには、坂を上がるしかない。


 市場の構造を知った時、じゃあ学院に搬入される物資はどうするのかと考えたことがあるが、どうやら街中の倉庫という倉庫は国の入り口と同じ高度に建設されており、大抵はそこから昇降機を用いて運び込みをするらしい。


 そうして、やや呼吸が荒くなる程度の坂を上がって学院に到着する。

 つい中等部の教室と間違えそうになって進路を修正し、高等部の教室へたどり着く。


 途中、廊下に設置されている鏡に気づいて、身だしなみの最終チェックをする。


 制服の着方は問題ない。

 灰色の髪は首元まで伸びたものを後ろでまとめている。目は若干のツリ目気味で、薄暗い紫の色をしている。気になるのは虹彩に赤い輪のようなものが見えることだろうか。


 輪っかが埋まっていると言うか、単にそこだけ赤いだけだろうが、この外見的特徴は母によく似ている。


 父親の部分は、多分この骨格に出ている。というのも、十六と言えば高校一年生程度の年齢だろうが、前世に比べてだいぶ肩幅が広い。


 前世なら確実にモデルができるであろう見た目だ。百点。

 これなら女子にモテるぞと、ニコニコで教室に向かうのだった。

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