第27話ギルド長
「なるほど、新しい冒険者ギルドの設立ですか」
この中じゃ一番賢そうなガラが、ふむふむと考え込むようにして頷く。
「それでベリトさんは、彼方さんにギルド長をやってほしいと言ってきたわけなんですね」
「そうなんだよ。でも僕はあんまりやる気がなくて。メリットもないし、ギルドの運営なんてめんどくさそうだし」
言ってて、思わずため息を吐く。人の頼みを断れない性格の僕としては、これからベリトに「やりたくない」と言うのがちょっとばかし憂鬱なのだ。
それでベリトが怒るってことはないだろうけど、あんまり人の頼みを断るのは気分が良くない。そもそも、なんでベリトは僕にギルド長になってほしいなんて急に言ってきたんだよ。
多分だけど、強いからとか適当な理由で決めただろ。ベリトとは出会って間もないが、彼はあんまり先のことを考えないで行動している節がある。
思えばベリトとの出会いは、あのゴブリンロードが住処にしていた洞窟だ。常識的に考えて、あんな異質な洞窟の奥まで進むだろうか? しかも彼らはクエストを受けたわけではなく、たまたま見つけたから入ったという感じだろうし……。
まともな脳みそをしていれば、あの一本道を奥まで進みきるという判断はしないはず。ベリトがリーダーなことから考えて、多分彼が強行したんだと思うけど。
しかも出会って早々PvPを仕掛けてくるし、思い返せば本当に行き当たりばったりな人だな。好奇心旺盛で、でも人類が存続するために考えることができる。僕のベリトに対する印象はこんな感じだ。
1人ベリトについて考えていると、何にも考えてなさそうなガーランドが話しかけてきた。
「まあでも彼方の兄貴は強いですし、ギルド長ぐらいやってやればいいじゃないですか。面倒ごとは全部他のやつに任せて、彼方の兄貴はただ椅子にふんぞり返ってればいいんですよ」
なんとも適当で無責任なことを口走るガーランドに呆れてしまうと、同じことを思ったのか、ガラも呆れ気味に声を発する。
「兄貴ぃ~。ギルド長って結構大切な役割ですし、あんまり適当に決めたらまずいんじゃ……」
「うるせえぞガラ! 兄貴より強い奴はいねえんだから、誰も文句は言わねえだろ!」
ガーランドにうるさいとうるさい声で叱責されるガラに同情してしまう。ほんと、なんでこの人はこんな奴を兄貴と呼んで慕ってるんだ? 頭は悪くなさそうなんだし、もうちょっと慕う人間を選べばいいのに。まあ彼らの交友関係に口を挟むつもりはないし、興味もないから別にいいけど。
でもとりあえず、ギルド長になるのだけはごめんだ。
「文句を言われる言われないは関係ないよ。僕にはギルドを運営する能力もないし、責任感もないしね」
もし新しく冒険者ギルドを作り、その運営がうまくいったのなら、多分この世界の中心となるギルドとなるだろう。
クエストの管理。強い冒険者の育成。最前線の攻略。パッと思いつくだけでもかなり重要な仕事をすることになると思う。そんなギルドの主人がただ椅子に座ってるだけなんて、許されることではない。
しっかりと責任感があり、なおかつ有能な人材でなければ冒険者ギルドの
そもそもこの冒険者ギルドを新しく設立するという案はベリトのものなのだから、普通に彼がギルド長になるべきだ。
そうだ、そうだよ。さっきからずっとどうやって断ろうか考えてたけど、冷静になって考えてみればベリトにやらせればいいんだ。
やらせるというか、彼が立案した話なのだから、ベリトがやるのが道理だろう。そう思うと一気に気分が晴れる。
先ほどフレンド交換をしといてよかった。僕はメニューウィンドウを起動すると、フレンド一覧からベリトを選択し、メッセージを飛ばす。
飛ばしてから10秒ほど経つとピコンと着信音がして、飛ばされてきたメッセージを確認する。
『やあ彼方くん。話したいことってさっきのギルドの件かな? 僕たちはまだ先ほどの酒場にいるから、すぐに来てくれると嬉しいな』
素早い返信に感謝して、早速マップを開き転移しようとするが、その前にこの人たちはどうするべきだろうと考える。
置いて行ってもいいけど、これからもし今後の運営方針やその他のことで意見を出し合うのなら、高レベルな彼らも重要な参考人として良好な意見を出してくれるかもしれない。
もし話し合いをするのなら、人数が多くて悪いことはないだろうし、どうせなら連れて行くか。
「ねえ、今からベリトたちのところに行くんだけど、もしよければガーランドたちも来てくれない?」
僕が呼びかけると、ガーランドは嬉しそうにしながら。
「もちろん行きますよ! な、お前たち」
いい返事をくれる。だけど誘った直後にこんなことを思うのは申し訳ないが、ガーランドだけはいたら話し合いの邪魔になるんじゃないか?
なんかどうでもいいところで口を挟んできそうだし、素行も言動も最悪だから仲違いするかもしれない。本当はガーランド以外の2人にきて欲しかったけど、ここでガーランド以外をハブることも出来ないし、やっぱり声を掛けたのはミスったかな……。
己の発言に後悔の感情を抱きつつ、僕たちは先ほどの酒場に戻りベリトたちの対面に座る。
「やあ彼方くん、待ってたよ」
ニッコリと優しげな笑みで迎えてくれるベリトに会釈すると、先ほど僕の中で固まった結論を述べる。
僕にギルドの運営は出来ないこと。責任感のあるベリトが適任なのではないかということ。この二つのことを彼に伝えると、ベリトの二つ隣の席で話を聞いていた僧侶職であろうマーシャという女性が口を挟む。
「だから言ったじゃないベリト。冒険者ギルドなんて大切な仕事を出会ったばかりの他人に任せるなんてどうかしてるって。これはあんたがやるべき仕事よ」
怒り気味にマーシャが口を挟むと、ベリトは苦笑いで返す。
「あはは。確かに僕も、彼方くんが強いって安易な理由で責任を押し付けようとしてたね、ごめん」
軽く頭を下げて謝罪してくるベリトに、頭を上げさせる。
「僕は怒ってないですよ。ただその人も言ってる通り、冒険者ギルドのギルド長はベリトさんがやるべきです。人類のことを考え、最善の策を模索しようとするベリトさん以外に務まる人はいませんよ」
お世辞でもなんでもない素直な気持ちを話すと、ベリトは照れ臭そうにしながら後頭部を掻く。
「そうかい? レベル5の彼方くんにそこまで言われたら、やるしかないか。まあ言い出しっぺの僕がやるのが筋ってものだし、考えれば当然か」
あははと陽気に笑うベリト。やっぱりかなり大雑把というか適当な性格だな。でも、そこがいいところでもあるんだろう。現に人徳はかなりあるようだし、ベリトみたいな人が上に立てば、組織に不満が生まれることも少ないはず。
ようやく冒険者ギルドのギルド長が決まると、タイミングよく扉の鈴がなり、奥から先ほど呼び出した愛花ちゃんが姿を現した。
「よし! それじゃあメンバーは揃ったみたいだし、早速ギルドの運営方針について話し合おうか」
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