第17話 罠
「兄貴、洞窟に
「あ? まあ先に進めばおあつらえ向きのいい場所があんだろ」
青年と少女の後方では、ガーランドとガラがヒソヒソ声でどうやって彼らを嵌めるかの作戦を立てていた。
いや、そもそも作戦ですらなく、かなり行き当たりばったりの行動なのだが、ガーランドはなんとかなると考えているらしい。
だが子分たちは洞窟に一歩、また一歩と足を踏み入れて行くたびに、不安を募らせていく。
「やっぱり引き返しましょうよ。なんだか奥の方から気味の悪い声が響いてきますし、雰囲気もおかしいですよ」
何度もガーランドを説得しようとするガラだが、そんな子分の言い分などには聞く耳を持たないガーランドは、ガラを情けない奴と思い落胆する。
「情けねえ奴だな。あいつらが戦闘に入ったら逃げりゃあいいんだよ。2人しかいねえし、共闘せずに逃げちまえば死んでくれるだろうよ」
ニヒっと笑みを浮かべると、ガーランドはその時を今か今かと待ち続けた。しかし、洞窟に入ってからかなりの時間が経つというのに、一向にモンスターと出くわさないことにガーランドは違和感を覚える。
それは子分たちも同様のようで、ブルブルと体を震わせながら。
「あ、兄貴ぃ。さっきからモンスターと全然遭遇しないですけど、変じゃありません?」
ガーランドの思っていた疑問を口にした。確かにおかしい。ずーっと一本道だし、奥の方から笑い声が聞こえてくるし、明らかに普通のダンジョンとは異質だ。
洞窟内に響く気味の悪い笑い声。長い一本道。全く姿を現さないモンスターたち。
この場にいる全員が違和感を覚えると、肩を震わせる。あの図太い性格であろうガーランドさえも、己の発言を撤回しようか考えるほどに……。
どうする……。今ならまだ引き返せるし、引き返すか?
前に進むたびに、足が重くなっていくのをガーランドは感じる。自ら死地に向かっているような気がしてならない。
だが、無駄にプライドの高いガーランドは、己の発言を撤回して洞窟を出て行くという選択肢が取れずにいた。
ここでもし、目の前にいる気に食わない青年たちが引き返そうと提案してくれれば、ガーランドもそれに乗っかったかもしれない。
だが目の前にいるガーランドが嵌めようとしている青年は、一歩も引かずにズカズカと洞窟の奥を進んでいるのだ。こんな状況じゃ、尚更引くことなどできない。
そうして長いこと薄暗い一本道を歩き続けていると、明るい大広間のような場所に到着した。
誰もいない、ただただ円形に広い空間。奥には大きな洞穴が一つあるのみ。なんだこの空間は? ここにいる全員が額に汗を流したその
来た道は塞がれ、後に戻れなくなると、奥の穴から野太い声が響いてくる。
「ようこそ愚かな冒険者どもよ。吾輩の餌となるためによくぞここまで来てくれた」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
道は塞がれ、前からは謎の声。吾輩という偉そうな一人称から、クエスト目標であるゴブリンロードではないかと推測する。
にしても、これはマズイな。ここまで来たのも、このクエストを受けたのも、最悪逃げれば大丈夫だろうと楽観視していたからだ。
でもその退路は塞がれ、レベル差が2もあるゴブリンロードを討伐するしか生きて帰る
もしかしなくても、本格的にやばいかもしれない。まさかこんな罠があるなんて……。後悔したところでもう遅い。覚悟を決めると、持っていた剣を構える。
「吾輩たちの根城に勝手に侵入した貴様らには、死という代価を払ってもらう。村の人間たちのように、ぐちゃぐちゃに殺した後に食してやるから、覚悟しろ」
ゴブリンロードが姿も見せずにそう言うと、奥の穴から配下であろうゴブリンが10匹ほど姿を現した。
全員レベルは5。勝てない相手ではない。そもそも共闘の使用がよくわからないが、もしかしてこのゴブリン全員と
だとしたら勝ち目はない。いつものバートルサークルが形成されてくれなければ、10匹にリンチされ殺されるだろう。
あれが形成されれば、他のモンスターは戦闘に干渉することが出来なくなる。1vs5を10回繰り返すだけなら、なんとかなる。
10匹いるうちの1体が前に出てくると、いつも通りサークルが形成された。一旦は良かったと安堵するが、それでも安心できない。
相手は格上。一歩ミスれば普通に死ねる相手だ。ゴブリンがキャキャと言いながら突っ込んでくるので、僕は剣で敵の持っている棍棒を弾く。
だけどお互いに力が拮抗しているのか、弾いた僕も後ろによろめいてしまう。だけどあの隙をつけば。
「早く攻撃を!」
そう指示をするが、後ろにいた男たちはブルブル震えて武器を構えていなかった。
「む、無理だ。俺たちはここで死ぬんだ」
先ほどまではあんなに自信たっぷりだったくせに、今はその面影が微塵もない。なんなんだこの男。ゴブリンのレベルがこんなに高いことなんて、行く前から分かりきっていたことだろ。
使えないと判断すると、愛花ちゃんにサポートを要請する。
「愛花ちゃん、バフ掛けて!」
僕が指示すると、愛花ちゃんはハッと我に戻りステッキを手に取ると。
「《アタックアップ/攻撃力増加》! 《ディフェンスアップ/防御力増加》」
2つのバフを掛けてくれる。これで大分戦いやすくなった。目の前にいるゴブリンに向かって走ると「閃光斬」と言いゴブリンの首を切りつける。
完全にうまく決まった。クリティカルヒット。だけどこの世界は現実じゃない。あんな速度で首を切ったと言うのに、ゴブリンの細い首からは多少の切り傷がついただけ。
体力も10分の1ほどしか削れていない。バフの効果時間的にも、長期戦は明らかにこちらが不利。
愛花ちゃん以外にもう1人僧侶がいるけど、それでもいつまでMPが持つか……。悩んでる時間はない。極力ダメージを食らわず、MPがそこをつく前に蹴りをつける。
「はあああああ!」
ゴブリンの攻撃は決して早くない。攻撃後の後隙をつくと、着実にダメージを与えていく。腕、足、腹。各部位を斬りつけていくと、ゴブリンは徐々に疲弊し、息を切らす。
明らかに動きが鈍くなっていくゴブリン。その一瞬に正気を見出すと、僕はゴブリンの足元に向かってスライディングをかまし、コケさせる。
そして起き上がる前に足で貧相な腕を押しつぶすと、HPバーが削り切れるまで弱点である頭部を斬り刻む。
「ぎゃああああ!」
獣らしい叫び声をあげながら、ゴブリンのHPはゼロになり蒸発した。だけど倒した束の間に、もう次のゴブリンがサークルを形成していた。
本気できついな。まだノーダメージではあるが、体力を大分持ってかれた。こんなのがあと9回も続いて、しかも最後にはゴブリンロードと戦わなくちゃいけないなんて、信じたくない。
でも、この状況下でも笑みを浮かべてしまう僕は、どこかおかしいのかもしれない。口元に飛んできた血液を拭うと、新しく入ってきたゴブリンに斬りかかる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます