第16話キークエスト
「キークエスト? 知らないけど」
聞き馴染みのない単語に興味を惹かれ、男の言葉に耳を傾ける。男は僕の返答を聞くとニヤリと笑い、それがなんなのか説明を初めてくれた。
「そうかそうか知らないか。実はな、昨日街から離れた場所に廃村を見つけてな。そこで
キークエストなるものを発行してる少女に出会ったんだよ」
「ふーん。それで、どうして僕に話しかけたの?」
キークエストなんていうぐらいだから、きっとクリアした時の報酬も相当のものになるだろう。なのに、どうして僕なんかにそんなクエストの話を振ってきたんだ?
男の考えが読めずに訝しむ。男は僕に疑いの目を向けられると、馴れ馴れしく近づいてきて肩を組み、誰にも聞こえないぐらいの声量で訳を説明する。
「いや実はな。このキークエストなるものは、なんでも2組以上のパーティーがいないと受けられないんだよ。そこで、腕の立つであろうオメエに声をかけたってわけ」
「そうなんだ……」
「そうだ。悪い話じゃねえだろ? な、頼むよ。一緒に受けてくれよ」
男はゴツい顔から気味の悪い笑みで頼み込んでくる。確かに話の筋は通るけど……。でも、この男が強いだけという理由で僕を選ぶか?
きっと昨日のことを恨んでいるだろうし、わざわざ嫌いな僕に頼んでまでこのクエストを受けるか?
ジーと男を見つめると、男は目を泳がせて下手くそな口笛を吹き始めた。怪しい。でも、キークエストなんて単語を出されて、無下にするわけにもいかない。
どうしようか悩んでいると、ちょうどタイミングよく愛花ちゃんが北門前に転移してきたので、事情を説明した。
「キークエストね……」
「どう? 興味を惹かれない?」
「まあ、気にはなるけど」
「でしょ」
「でも……」
愛花ちゃんも引っかかるところがあるのか、男の方に目を向け訝しむ。やっぱり彼女も怪しいと思うのか。でもキークエストが気になりすぎる。一体どんなものなんだ。きっとこの世界に深く関係する重要なクエストであることには違いないはず。
なんたってキーと名前がついてるぐらいだ。攻略に必須なアイテムか、それに準ずる何かがもらえるはずだ。
ここで逃す手はない。それに、この男たちが何をしようが、僕たちのレベルなら大丈夫だ。そもそもこの世界では、人間を殴ったりしたところでダメージを与えることができないようになっている。
戦うには正式にPvPを申し込み、そこで争う必要があるのだ。だからこの男たちは僕たちに危害を与えることができないのだ。
だから大丈夫だろう。あいつらというよりも、僕たちの力を信じると、男の話に乗ることにした。
「あんたらの話に乗るよ。それで、どこに行けばそのキークエストは受けられるんだ?」
「へへ、オメエならそう言ってくれると思ったぜ。道は案内するからついてこい」
言われるがまま男たちについていくと、確かに廃村と呼べる荒らされた村があった。
「これは酷いな」
ところどころに血痕が付着していて、何があったのか簡単に想像できる。そんな村の中心部で、1人の少女が泣いていた。
さっき男が言っていた少女とはこの子のことか。なら、クエストを受注させてくれるのはこの少女か。
男は村の様子を気に留めもせずズカズカと中心部にいる女の子の元へ歩いて行くと、偉そうにしながら話しかける。
「おいガキ。もう1組のパーティーを連れてきたぜ。これでクエストを受けられるんだろ?」
男が話しかけると、女の子は泣き止み説明を始める。
「うん、大丈夫だよ。でも、お兄ちゃんたちは推奨レベルより低いけど大丈夫?」
推奨レベルって……。いきなりのメタ発言に驚いていると、突然目の前にクエストの画面が表示される。
読んでみると、推奨レベルは6で、ゴブリンロードの討伐と書かれていた。枠組みも黄色で、左上にはキークエストの文字。
明らかに他のクエストとは異質である。絶対に攻略したい。でも、推奨レベル6か。
昨日愛花ちゃんにあんなことを言われた手前、受けにくい。このゲームは1レベル違うだけで、だいぶ難易度が変動する。
2レベルも離れてるとなると、かなりきつい戦いを強いられるだろう。それに共闘ってシステムも初めてだ。
他のパーティーと合同で戦闘を行うなんて本来はできないと思うけど、このクエストだけ特別なのか?
それほどまでに強いということか? わからないことが多いけど、今のまま行くのは危ないということだけは分かる。
でも行きたい。僕が迷い、頭を悩ませていると、愛花ちゃんの視線が痛いことに気がつく。
その視線だけで、何が言いたいのか分かってしまう。こんなもの受けるな、早く断れ。
そう言われてるのが、よーく伝わってくる。
「おいクソガキ。早く了承ボタンを押せよ」
悩んでいると男に急かされ、僕は渋々ボタンを押してしまう。やっぱりまずいかな。僕がYESの項目をタップすると、愛花ちゃんは強く睨みつけてきた。
まずい。でも、それなら愛花ちゃんがNOを選べば……と思っていたら、一向にYESを押さない愛花ちゃんに痺れを切らした男が彼女に近寄り、怒気を孕ませながら威圧的に。
「早く押せ」
とでも言うもんだから、愛花ちゃんは。
「え、あ、はい。すすすすいません」
ビビりながらクエストを了承した。そういえばこの子、結構コミュ障だったな。仲良くなっていたから忘れてたけど。
僕たちが全員クエストを受注させると、少女はくるっと後ろを振り向き「ついてきて」と言い歩き出した。
どこへ向かうのか気になりつつも素直に着いて行くこと五分ほど。村からそう離れていない場所に、洞窟があったのだ。
「この中にゴブリンロードとその配下がいるから」
少女はそう説明すると「気をつけて」と言い残し村の方へ帰って行ってしまった。見守るぐらいしてくれればいいのに、なんとも薄情なNPCだ。
愛花ちゃんはNPCがどこかに行ったことを確認すると、ひそひそ声で耳打ちしてくる。
「ねえ、今ならまだ引き返せる。だからやめよう」
グイグイと服の
「オメエらの方がレベルが高いんだから、先行してくれや」
と言い、無理やり背中を押して洞窟へ押し込んでくる。こうなったら引き返せない。洞窟に入ると奥から奇妙な笑い声なんかが聞こえてきて、鳥肌が立つ。
村を襲ったゴブリンたちか? 気味が悪い。でも、こうなったら……。
後ろを振り返ると、男たちが逃がさないとでも言いたげに出口を塞いでいるし、先に進むしかないのか。
ワクワク半分、申し訳なさ半分といった気持ちで、僕は剣を抜くと前に歩き出す。
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