第15話廃村

 時は少しさかのぼり、彼方が口の悪い冒険者を腕相撲で負かした後のこと。その口の悪い冒険者ことガーランドは、強く握られ痛む手首を抑え、近くにあった花壇を蹴り飛ばす。


「クソ! なんなんだあいつ!」


 怒りに任せて物に当たるガーランドだが、街の内部にある固有のオブジェクトを破壊することはできず、ガン! と大きく虚しい音のみが周囲に響く。

 

 そんな怒りを露わにするガーランドを、近くにいた取り巻きたちが必死に宥める。


「あ、兄貴。あんまり怒らないでくださいよ」


「そうですよ。あいつの方がレベルが高かったんですから、負けたのは仕方なかったんですよ」


 気弱な物腰で伝える細身長身のガラと、スキンヘッドに汚らしい無精髭が特徴的なザリスが必死にガーランドの怒りを収めようとするが、火に油をそそいでしまったのか、2人の言葉でより一層憤るガーランド。


「そんなの関係ねえよ。レベルが低いから負けましたなんて、なんの言い訳にもなんねえ。そもそも、なんであいつ4レベなんだよ! 早すぎんだろ」


「まあ、それは思いましたけど……」


「あっしらもこれが始まってからずっと戦い続けてきたのに、それ以上とは……」


 仲間の感心するような言葉に、またも腹を立て今度は近くの民家をぶん殴るガーランド。

 

 何かあいつに復讐するいい方法はねえか。思考するが、良案は浮かばない。なら、知恵を絞ればいい。三人寄れば文殊の知恵と言うことわざがあるように、知恵とは出し合うものだとガーランドは考える。


「おい、あの野郎に復讐するいい案はねえか?」


 威圧気味に問いかけてみるが、2人から良案が出ることはなかった。チッ使えねえ。心の中で呟くと、鬱憤を晴らすように街の外へ出かける。


 この世界は広大な草原が大半を覆っているが、その中にはダンジョンや、他にもNPCが管理する村なんかも各地に点在てんざいしているのだ。


 ガーランド一行いっこうは街周辺のモンスターでは物足りず、ここ最近は街からまあまあ離れた場所を狩場としている。


 この世界のマップは初期状態では《はじまりの街スタート》以外は全てもやで覆い尽くされたように何も見えないのだが、一度未知なる場所に足を踏み入れれば霧が晴れたようにマップが姿を表していく。


 今日はいつもと違う未開の地に歩みを進めているガーランドたち。すると、かなり歩いた場所に奇妙な物を発見する。


 それはあまり大きくなく、家や畑などが荒らされた後の廃村のような形をしていた。していた……というよりも、廃村そのものだ。初めてみるものに興味を惹かれたガーランドは、モンスターなどそっちのけで村に向かう。


 村に着くとその惨状は酷いもので、所々に血液が飛び散っており、まるで何者かに襲われたような状況だった。


 そんな村の中を散策してみると、なんとガーランドの腰あたりほどしかない小さな少女が、顔を手で押さえて泣いていたのだ。


「おい、そこのクソガキ。これはどう言う状況だ?」


 上から目線で質問するガーランドに、取り巻きのガラがお節介に。


「あの、もうちょっと優しい口調で質問しないと、怖がっちゃいますよ」


 なんて言ってくるものだから、ガーランドはムカッ腹を立て怒鳴りつける。


「うるせえよ! どうせこいつはNPCだろ。おいガキ」


 ガーランドが少女を怒鳴りつけると、少女は説明口調で喋り始めた。


「ねえ、お兄ちゃんたちはこのクエストを受けたいの? なら、もう一組パーティーが必要なんだけど」


 突然クエストやパーティーなんてメタ発言をされ、ガーランドは驚く。この世界に生きるNPCは、自分たちがNPCでないかのように振る舞うのが一般的だったからだ。


 なので、いきなりこの世界が創られたゲームであることを思わせる発言をしたことに、ガーランドは驚いたのだ。

 

 だがまあ、メタ発言をするNPCがいてもおかしくはないか。すぐに冷静になると、ガーランドは少女に質問する。


「他にもパーティーが必要って、どう言うことだよ」


 少女に尋ねると、ガーランドの前に見慣れないクエストウィンドウが表示される。黄色い枠組みで囲まれたキークエストと書かれたそれを、ガーランドはじっくり眺める。


「なになに? 推奨レベル6。キークエスト、ゴブリンロードの討伐だぁ? おいガキ、こんなもん俺らだけで十分だ」


 何も考えずに発言するガーランドだが、取り巻きは必死になって断ろうとする。


「ちょ、兄貴! 推奨レベル6って、こんなの勝てるわけないじゃないですか!」


「そうですぜ! 1レベル違うだけでもキツイのに、それが3も違うなんて」


 涙目で取りやめにするよう頼み込んでくるガラとザリスの態度で、頭を冷やす。だが、ガーランドは要らぬ悪知恵を即座に思いつくと、ニヤリと悪どい笑みを浮かべる。


「おいガキ。もう一組パーティーがいれば、このクエストを受けれるんだよな?」


「うん、二組でやらないといけないぐらい強いから」


「そうかそうか、そんなに強いのか」


 ニヤリとより一層深い笑みを浮かべるガーランドだが、そんなガーランドの思惑など知るはずもないガラとザリスは、またも考え直すように説得を試みる。だが、ガーランドは2人の肩に手を回すと、自身の考えた作戦を伝える。


「まあ落ち着けよ。このクエスト、使えると思わねえか?」


「「使える?」」


「おう。このクエストをさっきのクソガキと受けてよ、ある程度進んだところで置いていっちまおうぜ」


 我ながら名案だなと調子に乗るガーランドだが、子分たちは納得しかねるのか難しい顔をする。


「でもそれ、俺たちにもリスクありません? うまいこと俺たちだけ逃げることなんて、できるんでしょうか」


「そんなのなんとかなんだろ。いいか、明日街の北門に朝早くから待機して、奴をこのクエストに参加させるぞ。あいつが断ろうとしても、無理やり誘えばなんとかなるはずだ」


「そうですかねぇ」


 不安そうなガラをよそに、ガーランドは明日の朝を今から楽しみに待つのであった。



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 眩しい陽の光で目を覚ますと、起きてすぐにメニューウィンドウから装備の欄をタップして、いつも纏っている防具や武器を装備する。


 まだ一週間だと言うのに、もうすっかりこの格好に慣れてしまった。着替えを済ませてから水面台で顔を洗うと、愛花ちゃんにメッセージを飛ばし待ち合わせをする。


 集合場所はいつもの北門前。メッセージを飛ばしてから数秒経つと、ピコンと返信がきて、うさぎがOKの形をとっているスタンプが返された。


 なんとも可愛らしい返信に朝から胸を踊らせ、僕はすぐさま門の前に転移する。さて、今日はどこに行こうか。


 ダンジョンか、それともいつもより遠方の方に……。門に転移し愛花ちゃんの姿を探していると、後ろから肩をトンと叩かれた。


 きっと愛花ちゃんだと思い頬を緩ませるが、なんとそこには出会いたくない人間筆頭である、昨日僕と腕相撲をした態度の悪い男がいたのだ。


「よおクソガキ。話があるんだが」


 なんとも横柄な態度に朝っぱらから気分が悪くなり、上がっていた口角も下がってしまう。


「何? 昨日のこと、まだ根に持ってるの? しつこい男はモテないよ」


 煽り口調で言ってやると、男はビキビキと血管を浮き彫りにしながらも声色を変えずに話しかけてくる。


「おいガキ。キークエストって知ってるか?」





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 主人公は一人称視点。その他の人物は三人称視点で書いてるので、若干分かりづらくなっているかもしれませんがご了承ください。


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