第9話意気投合
突然のパーティー勧誘に驚く彼女だったが、数秒ほど時間を置くとたまたま近くにあった喫茶店を指差して。
「こ、ここじゃあなんですし、そこのお店にでも入りませんか?」
そんなありがたい提案をしてくれたので、僕たちは街の中心部からは少し離れた、決して綺麗とは言い切れないNPCが経営している飲食店に足を踏み入れる。
木造で出来た扉を開けると、客が入ってきたことを知らせるベルがチリリンと鳴り響き、ウェイトレスの格好をしている青髪のお姉さんが席に案内してくれる。
「ご注文がお決まりになりましたら呼び鈴を鳴らしてください」
お姉さんはテーブルの上に置いてある鈴を見ながら説明すると、扉の近くに待機し、微動だにしなくなった。
やっぱり今の一連の動きは全てプログラムされたものだったのか。本当にすごいなと感心しつつ、目の前にいる本物の女の子に改めて自己紹介をする。
「えーと、
無難な自己紹介を済ませると、彼女もあたふたとしながら己の紹介を始めてくれる。
「あ、
ペコっとぎこちなく頭を下げる彼女に対し、僕も同じぐらいの角度で頭を下げる。
初対面の印象として、彼女はあまりコミュニケーション能力が高くないことが伺える。
文頭に「あ」とか付けてしまったり、おどおどとした様子を見るに、今までの人生であまり人と会話をしてこなかったのだろう。
その点で言えば、僕も似たようなものだ。勝手に彼女を分かった気になり、勝手に共感する。
さて、次は何を話せば……。
いきなりパーティーに誘ってみたはいいものの、なんの情報もない赤の他人と組みたいとは思わないだろう。
だとしたらまずは趣味なんかの質問をして、交流を深めるのが賢い選択か。でも僕の趣味はネット配信やアニメを見るぐらいのもので、それ以外の趣味を言われたら「あはは、それな」を言うだけの肯定マシーンになってしまう。
一見いくらでも話題の広がる素晴らしい会話の切り口に見えるが、ミスれば1発でつまらないやつというレッテルを貼られ、愛想をつかされてしまう質問だ。
慎重にいこう。すぐ調子に乗ってしまうのは僕の悪い癖だ。とりあえず、せっかく喫茶店に来たんだから、何か注文でもしよう。
僕は机に置いてあるメニュー表を手に取ると、彼女に渡す。
「食べたいのありますか? 良ければ奢りますよ」
飯で好感度を稼ごうと思いカッコつけてみると、彼女はパアアと目を輝かせ。
「あ、本当ですか! じゃあこのホットケーキとバニラアイスといちごパフェを2つずつお願いします」
遠慮なくメニューに載ってるデザートを2個ずつも頼んだ。
意外とがめつい子だな……。ここは中心部から離れた喫茶店なので、メニューの値段は割と安い。今の注文を全て足しても、100ゼニーにギリ届かないぐらいの値段なのだが。
だけど今の僕にとっては、100ゼニーでも手痛い出費だ。最初にポーションを買ったり、日々の飢えをしのぐために食材を買ったりしたせいで、もう所持金が280ゼニーしかない。
ここから100ゼニー近く取られるとなると……。
でも奢ると言った手前ダサいところは見せたくない。結局僕は無料の水だけを頼むと、目の前に置かれた大量のデザートを頬張る彼女を眺めた。
「甘いの好きなんですね……」
ものすごい勢いでパンケーキやパフェを頬張る彼女に言うと。
「はい。いくら食べても太らないから、こんな世界になる前は毎日三食デザートを食べてました」
言いながら嬉しそうにデザートを平らげる。なんとなくだが、少しは彼女の好感度が稼げた気がする。
なら、奢ったかいもあったと言うものだ。彼女がデザートを全て食べ終え、食器を店員のNPCが下げると、先ほどはためらった質問を投げかけてみる。
「あの、柏さんって趣味とかありますか?」
お見合い初対面の男みたいな質問を投げかけると、彼女はもじもじとしながらも。
「あ、アニメとか。あとはゲームもかじる程度ですけど……」
不安そうにしながらも、僕と同じような趣味を喋り始めた。よかった。これなら話を広げることができる。
「気が合いますね。僕も好きですよ、アニメ」
彼女と同じ趣味であることを告白すると、柏さんは嬉しそうに話を振ってきてくれた。
僕はあまり、人と話すのが得意ではない。それなのに彼女との会話は盛り上がり、気がつけば2時間ほど話し込んでしまった。
2人とも口調は敬語からタメ口に代わり、下の名前で呼び合うほどには親密になり、話もひと段落した時のことだった。彼女は唐突にメニューウィンドウを起動させると、僕にフレンドIDを訪ねてきた。
なので素直にIDを教えてフレンドになると、僕の目の前には『柏愛花さんからパーティーの招待が届いています』と言うメッセージが飛んできて、僕は目の前にいる彼女を見つめる。
「パーティー。組んでくれるの?」
「うん。これからよろしく」
熱い握手を交わすと、メッセージウィンドウの下に表示されているYESのボタンをタップして、正式に彼女とパーティーを組む。
こうして僕の、本当の冒険がようやく始まった。
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