第9話
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「と、いうわけで、お城の周りには、な、何もなかったよ……」
夕刻の時間帯、領主邸は
高級料理が漂わせる空気を鼻で楽しみながら、わたしは領主の娘・フィオーネに本日の結果を報告していた。
「そうでしたか……。勇者さまがご無事で何よりですわ」
フィオーネは
どうやら彼女は、わたしの力を見くびっているらしいね。わたしってば、どこからどうみても子どもらしいから、しかたないっちゃしかたないんだけど。どうせなら、実力を見せてわからせてあげたくもなる。
といっても、リリウェルたちのことを隠し通せるのならば、今はそれでいい。ボロが出る前におさらばしたいね。マリアも帰りが遅くて心配してるだろうし。
「わたしなら、魔物だろーが強盗だろーが、瞬殺できるから心配いらないよ。ああ、フィオーネさんも、個人的な依頼があればどんどん言ってよね。わたし、なんだってできるし!」
人見知りのわたしも勇者生活一ヶ月ほど
「頼もしいですわね……。では、お暇なときにはお庭の手入れでもお願いしようかしら」
庭の手入れ!? 勇者のわたしに、何をさせようっていうんだ。子どものお手伝いじゃないんだからさ。庭いじりなら、むしろマリアの領分だ。マリアと一緒になら、やってあげてもいいかもだけど。マリアが隣にいるんじゃ、仕事が手につかなくなりそう。
わたしは溜息をこらえる。もっともっと、魔物退治の成果をあげないことには、勇者としての実力を認めてもらえなさそうだよね。リリウェルたちだって、捕まえるわけにはいかないからなあ。
となると、魔族の国とやらに行って、両国の架け橋になれば、わたしはさらに英雄として見てもらえるかもしれないね。頑張らないと。
「あはは……庭の手入れは、また今度で……。というわけで、今日は帰るね」
「では、本日の報酬ですが……」
フィオーネは、まるで今日のお
ただお城に行って、しかも何の成果も得られなかったというのに、お小遣い程度ならまだしも、大金を受け取れるわけがない。
わたしは慌てて両手を振って、後ずさった。
「いや、お金は結果が出てからでいいよ!」
「勇者さまは、たしか若くしてご結婚をなさっているとか。生活の足しにでもしてくださるといいですわ」
なんていい人なんだ!
結婚祝いというならば、受け取ってあげたくもなるけれど。やっぱり、引け目を感じちゃうよね。
「それこそ、庭の手入れの後にでもいただくよ……。しばらくは調査を続けるから、よろしくね」
「あっ、勇者さま!?」
わたしは逃げるように、フィオーネの館を飛び出した。
なんだかわたし、尻尾巻いてばっかりだな。勇者なのに、情けないよ。早く帰ってマリアに
******
「ただいま、マリア。今日は仕事が大変で遅くなっちゃったよ……」
わたしは、労働に疲れた中年のようなげっそりとした声で自宅の扉を開けた。
肉体的な
すると、リビングのほうから、ドタドタとけたたましい足音が鳴り響いてきた。マリア、わたしのことを相当待ちわびていたらしい。普段よりも幾分か、慌てて走っているようだ。それもそうか。いつもならば遅くとも昼下がりには帰っているのに、今日に限って言えば
「あなたっ、おかえりなさい! 帰りが遅くって心配したんですよ……。どこも
マリアは、わたしを視界に収めるや否や、
くすぐったいし、えっちな気分になっちゃうほどには、念入りに
「もー、マリア、心配性すぎ。わたしは勇者さまだからね、怪我なんてしないよ。マリアのほうこそ、ずっと一人で平気だった?」
マリアの気が済むまで身体を
「ふふっ、エステルのほうこそ、心配性ですよね。私は……エステルと八時間も離れていて、寂しくて寂しくてしかたなかったですよ……」
マリアってば、時間を数えながらわたしを待ち続けていたらしい。愛が感じられるよね。わたし、やっぱりマリアが好きだ。顔とか、おっぱいとか、それ抜きにしても、マリアの大きな愛が、やっぱり好きなんだなあ。
「うん、ごめんね。今日は色々あって。マリアの寂しさ、いっぱい埋めてあげるから、許して?」
言って、わたしはマリアにキスをした。マリアはわたしよりも、背が高い。だから、わたしはいつも背伸びしてキスを贈る。マリアはその際、毎回
長い長い口づけ。
キスの終わりを告げたのは、わたしのお腹が鳴らしたはしたない音だった。
わたしは照れ笑いしながら、マリアの唇から離れる。わたしたちのリップには、まるで、いつでも行き来ができる橋がかけられているかのように、唾液が伝っていた。
「エステル、たくさんお仕事してきたんですよね? ふふ。安心してください、エステルの大好きなシチュー、できていますからね」
「ほんと!? 領主さんのお家でいい匂い
「まぁまぁ、エステルったら。いつも嬉しいこと言ってくれるんですから///」
マリアは
本来ならば、ご飯にするかシャワーにするか、はたまたマリアにするか聞かれるのがふーふ生活の定番なはずだけど。わたしたちに関しては、マリアをいただくことは確定しているので、聞くまでもないのだ。お風呂だって、入らないでえっちすることも多い。マリアは汗も舐めてくれるからね。いいことずくめだ。
わたしはリビングのテーブル周りに着席して、マリアが夕飯のお皿を並べてくれるのを
食事の時間が始まって、わたしはマリアと隣り合ってシチューを口に運んでいた。向かい合って食べるときもあるけれど、基本、並んで食べることばかり。だって、肩が触れ合っているのも幸せだし、口元についた食べ残りを
それで、いつものようにイチャイチャした雰囲気が流れ……。
話題は、今日の仕事についてに向かっていった。
「それでね……お城の地下に魔物がいたんだよ」
「まぁ……。エステル、本当にお怪我なかったんです?」
マリアは、魔物と聞くやいなや即座にわたしの太ももを撫で
「マリアって、えっちだよね……」
「? いきなり、何を言い出すんですか。エステルったら、もうベッドに行きたいのかしら」
まだ料理は残っているのに、ってぼやきつつも、否定的ではないのだから、マリアのほうが絶対にえっちである。
わたしは彼女を
「触り方がえっちだったの。ってゆーか、怪我どころか、戦いもなかったよ。だって、地下にいたの、女の子型の魔物だったし」
「女の子の?」
すっと細められた
マリア、女の子、ってワードを聞いただけで、わたしが浮気していないか見定めているのかもしれない。鼻も動いているし。匂いでも嗅ぎ分けているのだろうか。
「なっ、何もなかったって。マリア、何を疑っているんだよ」
「はっ。いえ、すみません。魔物で女の子、ってなると、悪い誘惑でもされたのではないかと不安になってしまって……」
マリアは無意識下での行動だったのか、正気に戻ったかのごとく、
しかし。マリアの
あと一歩のところで、えっちになってしまった、とは言えるわけがないよね。
顔に出さないようにしないと……。
わたしはマリアのモノマネみたいに、咳払いをするはめになった。
「それでさ、その魔物がすごくってね。人間とほとんど変わらないんだよ!」
「あらあら、そうだったんですね。エステルは魔物さんとお友達にでもなってきたのです?」
わたしが今日の出来事を身振り手振りで具体的に伝えると、マリアは
「まあ、たしかに仲良くはなったね。それでね、魔族の国、ってところがあるんだって。そこだとね、女の子同士の結婚が普通でね、しゃかいほしょー? もしっかりしているんだってさ!」
「あらあら、エステルったら。そんなに興奮しちゃって、可愛いんですから」
笑みを崩さないマリアは、今にも頭を撫でてきそうだ。食事中なので、スプーンを置いてまでして撫でてくることはなかったけれど。
しかし、だ。マリア、わたしの話、まるで絵本の内容でも聞かされているみたいな反応である。
ま、しかたないか。だって、おとぎ話だと思われても不思議じゃないしなあ。
「それでね。魔族の国を見学してみないかって誘われたの。勇者のわたしならば、歓迎してくれるっていうから。でもでも、すごい遠い場所にあるらしくって、マリアも旅行がてら一緒に行ってみるのはどうかな、って思って」
わたしは
「エステルと旅行♪ いいですね、私なら、いつでもご一緒しますよ♡」
くっ、マリア、事の重大さ、わかってるのか? 彼女は、両手を合わせて嬉しげにはにかんでいる。旅行という単語しか聞き取れていないんじゃないのかな? わたし、不安でたまらないよ……。
「あのね、マリア。わたしが誘っているのは、魔族の国だよ? もしかしたら、危険もあるかもしれないからさ。マリア、怖くないの? それとも、嘘だと思ってる?」
溜息混じりに聞いてみると、マリアは瞳の優しさを
「エステルは、勇者さまですから。私たちの身に危ないことなんて、何もないですよね?」
そうか。マリアに恐れというものがないのは、わたしの強さを心の底から信頼しているからなんだ。ああ、マリア、好きだ!
ま、信頼っていっても、女の子との浮気に関しては、けっこう疑り深いけどね。それもこれも、酒場に通っていたせいだろうけれど。
「ま、まあ、そうだけどね。マリアのことは絶対に守るから、そこは安心していいよ。マリアに触っていいのは、わたしだけなんだから」
「うふふ、エステルったら、小さい頃からそればっかりですね。一生、守ってくださいね、あなた♡」
「うん、任せてよ!」
結局は、イチャイチャな方向に誘導されていってしまうのだ。わたしたちは食事中にもかかわらず、ちゅーをしてしまっていた。口移ししている気分になる。
「それでさ。明日、その魔族の子に会いに行ってみる? 出発の日時とか決めたいし。あ、でも、気をつけてよね。身体触ってくるかもしれないし」
「あら、それは構いませんけれど……。どうして、身体を触ってくるって……。あ、エステル、もしかして色々触られたんですか?」
マリアは
「さ、触られてないよ! ちゃんと拒否したの! 偉いでしょ」
「エステル、また嘘ついてます?」
マリアは、まるで裁判官にでもなったかのような、
わたしは背筋に
けど! けど! わたしだって、悪いことをしたわけではない。ただ、ちょっと、リリとえっちしそうになっちゃったなあ、って罪悪感があるだけだ。
「嘘ついてない! 触られようとしたけど、きちんと拒否したの! 偉いでしょ!? 相手の子は、いきなり脱ぎだしてきて大変だったんだから!」
だから、わたしは真っ直ぐに気持ちをぶつけた。最初は断ろうとしていたのは事実だし、無理矢理
「まあ、そうだったんですね。エステル、可愛いですから……迫られちゃうのも無理はないですよね。でも、いけない魔族の子ですね、その子ったら」
マリア、表情は穏やかに戻ったけれど、不安げな吐息をついている。
明日、リリと会わせて平気だろうか? マリアは温厚だから、さすがに取っ組み合いとかはしないだろうけど。手を出すマリアなんて見たことはないからね。見たくもないし。マリアは優しいからこそ、マリアなんだ。
「うーん、まあ悪い子ではないと思うけどね……。結局は、えっちなことにはならなかったし」
「じゃあ、明日は魔族さんとお話できるんですね。エステルの可愛さについて、語れるかもしれませんね」
よかった、やっぱりマリアは優しいや。彼女は、すでに明日のことを楽しみにしているのか、上機嫌に食事の残りに取り掛かっていた。
マリアならば、リリとは仲良くなれそうだよね。仲良くなりすぎても困っちゃうけど。相手はえっちだし。やっぱり、わたしが常にマリアを保護してあげないといけなさそうだ。
「後ね、危険ではないんだけど、ハーピーっていう魔物も一緒にいたよ。全然攻撃的じゃないけれど、驚かないようにね」
「あらあら、明日は貴重な体験がいっぱいできそうですね」
マリアは何を聞いても
明日の予定を決め終えたわたしたちは、以後、何も
そして、えっちで疲れた二人は、快眠を
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