その9 かちこみしました

 ドーーン!

 鬼ヶ島の砦の扉が開け放たれました。中からは数えるのもいやになるほどの鬼!鬼!鬼!見渡す限り鬼です。鬼以外前が見えません。

「(鬼)もうやられてるぜ」

「(鬼)この野郎!人間のくせにぃ!」

「(鬼)誰も生きて帰さねえぞぉ!」

 鬼たちの士気はヒートアップ。その勢いは誰にも止められません。

「(桃太郎)さてと、パーティの始まりだ」

「(リン)じゃあ、みなさんこれを」

 リンは重そうな荷物の中から短機関銃やら拳銃やら自動小銃やら、とにかくいろいろ取り出して仲間たちに配りました。

「(リン)とりあえず、道をあけますね」

 リンは手のひらサイズの物体からピンを引き、鬼たちに向かって放り投げました。

 ヒュ―――ン…………バァァン

 さらに、同じものをいくつも放り投げました。

 ヒュ―――ン…………バァァン

 ヒュ―――ン…………ドォォン

 ヒュ―――ン…………バァァン

 着弾点では、鬼の肉片がたくさんばらまかれていました。でも、まだ生きてる鬼もたくさんいます。

「(桃太郎)さて、行くか」

 桃太郎は両手の短機関銃を鬼に向かって発射しながら特攻をしかけます。それを追うように宗佑も走り出します。

 しかし、鬼も黙ってはいません。リンの手榴弾から逃れ、桃太郎の短機関銃からも逃れた鬼たちは桃太郎と宗佑に接近戦を仕掛けます。

 鬼の棍棒が桃太郎に迫りました。

 しかし、桃太郎はそれを難なくひらりと避けると、両手の短機関銃を放り投げました。そして、いまだ誰も抜いたのを見たことがない腰の刀を抜きました。

 ジュバッ

 鬼の首が落ちました。さらに鬼は攻めますが、桃太郎や宗佑にその攻撃は当たらず、かわりにどんどん斬られていきます。強いですね。桃太郎さん。

 しかし、さすがに数が多いです。まだ門まで辿りつけません。なので、桃太郎と宗佑は鬼の大群から大きく軌道をそらし、砦を囲むように立ちはだかる高い塀に向かいました。その時、桃太郎は手でサインをしてリンにメッセージを送ります。リンは親指を立てて了解の合図を返します。

「いくぞ!」

「はい!」

 桃太郎はバレーのレシーブを打つように手を組み、そこに宗佑が走りこんでいきます。そして、桃太郎はその手に宗佑の足を乗せると、高く放り上げました。続いて桃太郎は自力で高くジャンプし、指先を塀に引っ掛け、そのままよじ登って塀を越え、宗佑と共に砦の侵入に成功しました。そこで、桃太郎は懐から手榴弾のようなものを取り出し、門前に群がる鬼に向かって二つ放り投げました。

 それと同時に、

「源八朗さん、これを!」

 リンはどこから取り出したのか、大きな鉄製の楯を源八朗に手渡しました。すぐに自分の分の楯も出し、まるで門から身を守るように構えました。

「モモはなんて言ったんだ?」

「防御体勢です」

「防御?」

 源八朗は不審気に聞きました。そのときです。

 地面に着いた二つの物体。それが宙に跳ね上がりました。そして、何かいやな予感のするキュィィィンという音をたてたかと思ったら、

パァァァン、ヒュンヒュンヒュン―――

 無数の鋭い五寸釘のような針が三百六十度全放射。それが周りにいた鬼の目や喉、腕や胸に突き刺さり、バタリと倒れるもの、奇声を上げて喚くもの、それぞれの反応を見せました。

「さすがわたしが作った炸裂弾です」

 自慢げなリンに、源八朗は少々青ざめました。何しろ、自分たちの周りにもその針が何本も刺さっており、ズボンの裾を貫通したものまでありました。身を守るための楯にも、数本の針が半分以上刺さっています。この楯、厚さが三センチ以上もあるのにね。

 ここでリンが一言言いました。

「焼き入れしてなかったらわたしたち穴だらけでしたね(笑顔)」

 屈託のない、無垢な笑みを向ける十歳に満たないこの少女に、三十を越えた男はどこか恐怖を覚えたのはこのときです。

 それはともかく、鬼たちは楯に隠れていたオヤジと少女に気づいたようです。砦の中にはやっぱりいっぱい鬼がいるでしょうから、少なくともここにいる鬼はリンと源八朗の二人で片付けなければならないようです。

「うおぉぉぉぉ!!」

 鬼が雄たけびと共に迫ります。リンは荷物をゴソゴソ。源八朗もなにやらすごいものを出そうとしています。

「いくぞこらぁぁぁ!」

 一匹の鬼が飛び出しました。しかし、その体は一瞬で縦に両断されました。

 見ると、源八朗は身の丈を大きく上回る巨大な剣を持っています。厚さも相当あるようで、斬られた鬼もまるで潰されたかのような格好にさえ見えます。

「我が斬馬刀を恐れぬなら、かかってこぉぉい!」

 源八朗が鬼に負けない剣幕で叫びました。このとき、リンは初めてただの変態じゃなかったんだ、と思いました。

「このやろぉぉぉ!」

 鬼が雪崩のように迫ってきます。しかし、その鬼たちは、自分たちの射程に飛び込む前に、横に薙ぎ払われた巨大な斬馬刀によって上半身と下半身が分かれてしまいました。

 鬼はわずかに怯みました。そりゃあ、さすがに怯むでしょうね。

 しかし、その鬼たちの視界に小柄な少女が移った瞬間、鬼たちの気力は再上昇しました。そりゃそうでしょうね。一番弱そうに見えますから。

 鬼が今度はリンに迫ります。しかし、リンは別に怯えた様子など見せません。冷静に荷物から何か短い棒のようなものを取り出すと、鬼たちに向かって放り投げました。

 ピカァァァァー

 眩い光が周囲を包みます。閃光弾ですね。

 鬼たちは一瞬視界を奪われます。そして、その聴覚に砂を蹴る音と聞きなれない音が飛び込みます。

 パラララララララ―――

 どうやら短機関銃のようです。絶え間なく発射された鉛球が鬼たちの体にめり込み、生命活動を次々と絶っていきます。

 次第に鬼たちも目が慣れ、リンの姿を探そうとしています。もう銃声も聞こえません。

「あのガキ、いったいどこへ……ぐっ!」

 くぐもった声の後、一匹の鬼が倒れました。見ると、その鬼の喉はぱっくりと裂け、そこから噴水のように血が湧き出しています。

「キリー!くそうっ」

 鬼は躍起になって少女の姿を探しますが、なにぶん小さいので見つけづらいのです。

「うぉっ」「ぐぇっ」「がぅっ」 ドサっ バタっ ドスン

 次々に倒れていく鬼たち。

 そのうち、一匹の鬼がリンの姿を捉えました。

「このガキャァァァ!」

 鬼は手を伸ばしてリンの襟を掴もうとしました。が、その時、少女から何かがヒョイと手渡され、なんとなく鬼はそれをキャッチしました。

「源八朗さん!」

「おう!」

 鬼たちがリンに気を取られている隙に、源八朗は大きな砲身の、ざらに言うバズーカを肩に乗せて構えています。そして、鬼の塊からリンが出てきたのを見計らって、バズーカは火を噴きました。異常なまでに大きな弾です。それが鬼たちの真上を放物線を描いて通過しようとしたその時、弾は破裂しました。そして、その弾からはいやにねっとりとした液体が出てきて、鬼の体に纏わりつきました。

 リンは懐からジッポを取り出して火をつけました。それと同時に、一匹の鬼が呟きました。

「こりゃあ、油?」

 その単語とリンの手元を見ていた別の鬼が、血相を変えて叫びました。

「に、逃げろぉぉぉ!」

 しかし、時すでに遅し。リンの投げたジッポは鬼たちに当たり、その火が油のべっとりついた鬼の体に引火しました。

「うぁぁぁぁぁぁ!!!」

 燃え盛る鬼。しかし、被害はさらに広がりました。押し寄せる鬼たちに、あの何かをリンから受け取った鬼は押されました。その衝撃で、思わずその受け取ったものに力が入りました。そして、パァァン、という破裂音と共に、新たな炎が生まれました。

 外からはライターの火で、内側からは火炎瓶の火で、鬼たちは炎の塊と化しました。

 鬼たちはあまりの熱さに海に飛び込もうとしています。しかし、それさえ叶いませんでした。

 ボン、ヒュルルル――――バッ

 源八朗の構えたバズーカから、今度は大きなネットが飛び出し、燃え盛る鬼たちを捕獲して砂浜に留めました。鬼たちは必死にネットを破ろうとしますが、何しろワイヤーでできているため引きちぎることができません。その間も、ネットの中からは悪魔の呻きのような鬼の悲痛な悲鳴や叫びが続き、しばらくすると何の物音もしなくなりました。

「さて、この場は片付きましたね」

「そうだな。それにしても、こんなかわいい女子おなごをよってたかって殺そうとするとは、やはり文字どおりこいつらは血も涙もない鬼だな」

「ほんと、この鬼たちには良心のかけらもないんですかね」

 言いたい放題言ってるこの二人ですが、血も涙も良心もある人間は普通油かけて火をつけ、なおかつその動きを封じてじわじわ焼死させるなんてことしませんし、もはやこいつらのしていることのほうが鬼のようです。

 そんなこと微塵も感じていない二人は、桃太郎と宗佑に合流するため、正面の門から砦の中に入っていきました。

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