その8 いざ、鬼ヶ島へ

 ここは鬼ヶ島第二支部。ちょうど正午の交代時間で、みんなばたばたしています。

「それにしても、暇だなあ」

「まったくだ」

 見張りの鬼二匹は大きなあくびをしながらゆったりと海を眺めています。

「そういやよ、あの村に行った連中、やられたってのはマジなのか?」

「まさか。俺たちが人間ごときに負けるわけねえだろ」

「でも、もう三十人は戻ってきてねえんだぜ」

「ふん。どうせどっかで別の獲物でも見つけたんだろ。それより、……うん?」

「どうした?」

 一匹の鬼が海に浮かぶ何かを発見しました。それは徐々にこちらに近づいてきます。

「船、だな」

「あいつらが戻ってきたのか?」

「いや、…誰も乗ってねえぞ」

 船は浜辺に到着しました。一匹の鬼が船に近づきます。

「おい、こりゃあ…」

 見ると、そこにはまだ年端もいかない少女が船の上で気を失っていました。着衣は波に当てられてかずぶ濡れで、一見して遭難者に見えました。

「おいおい、なんで人間がこんなところに…」

 鬼が少女に近づき、身を屈めたそのときでした。

 ドスッ  「うぉっ」  バタン

 突然鬼が倒れました。その鬼の胸には、心臓を貫く一本のナイフが深々と刺さっていました。慌ててもう一匹の鬼が駆け寄ります。

「なんだてめぇはぁ!」

 その声は船から上体を起こした少女に向けられ、その少女に向かって鬼は棍棒を振り下ろしました。

 船は木っ端に陣に弾け飛びましたが、そこに少女の姿はありません。

「ど、どこへ消えた…?」

 パシュッ、パシュッ

 乾いた音が二つ、静かに耳に届きました。同時に、鬼の頭部には二つの穴が開き、その場にどさりと倒れました。

 それとほぼ同時に、海中から三つの人影が飛び出しました。

「上出来だ。リン」

「はいですぅ」

 そう会話すのは、両手にサイレンサーをつけた拳銃を握るリンと、真っ黒なウエットスーツに身を包む桃太郎。その後ろには同じくウエットスーツを着た大きな荷物を持った源八朗と宗佑です。

 三人はすぐにその真っ黒スーツを脱ぎ捨てました。その下には、出発のとき着ていた着物やら袴ではなく、緑を基調とした黒や茶の入った上着にズボンです。

「いやー、それにしてもこのぴっちりしたやつを脱げてやっとほっとしたぞ。あの締め付けにもうおれは気が変になってしまいそうで…」

「それはともかく、桃太郎さん。この迷彩服という着物はなんなのですか?」

「それはこのような作業の際にかならず着なければならない服だ。言わば、切腹のときの白装束みたいなもんだ」

「あんまりいいたとえじゃないな」

「それより、わたしの服をくださ~い。さっきからびちゃびちゃで……」

 リンは全身水浸しな格好を訴えました。それを見て、

「ぬ、濡れ濡れじゃあ~!」

 ゴン!

 桃太郎は自分の刀の鞘で源八朗の頭をひっぱたくと、防水バックから同じような迷彩服を渡しました。早速リンはびしょ濡れの着物を脱いで迷彩服を着込みますが、

「リ、リンちゃんの鎖骨が、こ、腰が、太ももがぁぁぁ!」

 ドスッ

 桃太郎は源八朗の鳩尾に鞘を勢いよく突きました。

「よし、作戦の第二段階開始だ」

「でも、ただ正面から突っ込むってだけなんですよね~?」

「ところで、そこでうずくまってる彼はどうするんですか?」

「ほっとけ」

「う~~~……」

「あのぅ、大丈夫ですかぁ?」

 リンは源八朗の背中をさすってあげました。

「ふっかぁぁぁつっ!」

 源八朗はダメージを回復した。

「これまで僕は背中をさするのに何の意味があるのかと疑ってきましたが、まさかほんとに効果があるとは、驚きです」

「念のために言っておくが、あれはさすったからよくなったんじゃなくて、リンに触れられたという行為が元気にしたんだからな」

「よぉぉぉし!突撃だぁぁぁ!」

と、そのときです。

「外に誰かいるぞぉ!敵襲だぁ!」

 砦内部からは確かにそう言った声が聞こえ、その後から「うおぉぉぉ!」という覇気が雪崩のごとく押し寄せてくるのがわかりました。

「あんなに大声を張り上げるからですよ」

「今更そんなこと言われてもな。なってしまったものは仕方あるまい」

「まったく。源八朗さんは役立たずです」

「も、もっと言ってくれぇ!汚い言葉で罵ってくれぇ!」

 体をくねくねさせながら悶える変態オヤジを無視して、桃太郎と宗佑は刀を構え、リンは重そうな荷物を背負って両手に銃を握ります。

「ところで、僕はまだ桃太郎さんの実力、知らないんですよね」

「そういえば、最初の方に出てきただけで、あとはそこの変態オヤジをどついたくらいですよね」

「もっと、もっとぉ~んっ」

「まあ見てな。俺の手でこの島を地獄絵図に変えてやる」

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