その7 鬼とたたかってみました
桃太郎一行は早速鬼退治の旅を始めました。
「それで、まずはどこへ向かうんですか?」
「そうだな。ますは鬼が度々現れるっていう村に行って見ようと思う」
「ここから遠いのか?」
「だいたい歩いて三日ってところだな」
「遠いですぅ~」
「だろうと思っていい物を用意した」
そこに現れたのは、三頭の馬でした。
「どうしたんですか?この馬」
「買った」
「相変わらずの経済力だな、モモ」
「でも、なんで四人なのに三頭なんですかぁ~」
「乗れないだろ、お前」
「そ、そんなことないですよぅ~」
リンは馬に駆け寄り、う~ん、う~ん、と唸りながらがんばって馬によじ登ろうとしていますが、いくらやっても源八朗が萌えるばかりで、全然乗れません。
というわけで、リンは桃太郎が後ろに乗せ、三頭の馬は颯爽と山道を抜けて、街道を突き進みました。その間、源八朗は桃太郎が羨ましくてしょうがありませんでした。
とある村。ここに今日も鬼がやってきました。体長二メートルを超える巨体の鬼が十匹ほど、村中を闊歩し、その手に物つ巨大な棘付き棍棒を振り回し、人々を無惨な肉塊へと変えていきます。
「いや~、放してぇ~!」
「いいねえいいねえ」
鬼は二十歳前後の女性の腕をつかんで持ち上げると、泣き叫ぶ姿を見てそれを楽しんでいます。
「いやぁ~」
「もうちょっと悲鳴を聞いていたいんだけど、お頭の命令だからなあ」
鬼は女性を高く放り上げました。そして、棍棒を野球のバットのようにスイングし、女性の体を野球ボールのように弾き飛ばします。
女性は民家の壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなりました。
「ひゅー、さーいこうだぜぃ!」
このように、次々と惨殺されていく村人達。今日はこれで十人が殺されました。鬼は殺戮を楽しんだ後、帰っていきました。
その翌日、桃太郎一行はこの村に到着しました。村は家屋が無惨に破壊され、外れにはいくつもの墓標が立っています。みんな鬼にやられたのだとわかりました。
村の人から話を聞くと、鬼は三日おきにやってきて、一匹につき一人を殺しているそうです。桃太郎がその鬼達を退治すると申し出たら、村長のおじいさんは何度も手を握ってお願いしますと頭を下げました。ここまできたらやるしかありません。
「で、どうするんだ?」
「まずは罠を用意する。こちらの損害は最小限に押さえなければならないからな」
「なるほど。で、具体的にはどうするんです?」
「この村は海に面した地形だ。そして、鬼ヶ島第二支部はこの先にある」
「なるほど~。……って、第二支部ってなんですかぁ!?」
「言わなかったか?鬼ヶ島は全部で三つの支部を持って、さらにそれを統括する本部が」
「聞いてないですよぉ~」
「俺も聞いてないぞ」
「僕も初耳ですね」
桃太郎は少し考えたあと、言いました。
「具体的なトラップだが…」
「話そらしたな」
「まあ聞け。この先の海から鬼が渡ってくる。そこから村に入るところで大まかな数を殲滅したい」
「それで、僕らはなにをすれば?」
「まずは…」
桃太郎は仲間たちに罠の説明をしました。そして、その用意をすぐに始め、瞬く間に鬼の来る日になりました。
海を渡る二隻の船が村に近づいてきました。鬼です。
「さー、今日も殺すぞー!」
「うおっしゃぁー!」
鬼はやる気満々です。そして、鬼は浜辺に到着すると、我先にと村に駆け始めました。
と、その時です。
ボーン!ドーン!
大きな爆発音がしました。見ると、浜辺の土が大きく抉られ、そこに数匹の鬼のバラバラになった手足が散乱しています。
「な、なんじゃこりゃぁ!?」
鬼が一歩後退ったとき、カチッという音が聞こえ、驚いて飛び上がると同時に、鬼の脚が吹き飛びました。
ドーン! 「うぁぁぁ!!」
ボーン! 「ぎゃぁぁぁ!!」
ボゥゥン! 「ぁぁぁぁぁ!!」
舞い上がる砂と鬼の体。そこから流れる鮮血によって砂浜は異形な姿へと変わっていきます。
それでも、三匹の鬼はなんとか村にたどり着きました。しかし……
「ファイヤーです~!」
幼稚な声と同時、淡い閃光が一匹の鬼を包みました。そして、その鬼は跡形もなく消え去りました。
「(宗佑)すごい威力ですね」
「(桃太郎)ああ、予想以上の出来だ」
「(リン)当たり前です。わたしが作ったんですから」
「(源八朗)さすがリンちゃんの作品じゃあ」
「(鬼)くそー!こうなりゃヤケだぁ!」
「(宗佑)来ますよ」
「(リン)実はこの『超高熱射砲“陽炎改”』は一度発射すると冷却とエネルギーチャージサイクルの関係で二十秒は撃てないんです」
「(桃太郎)そうか。もうちょっと改良の必要があるな」
「(源八朗)もう二十秒経ったんじゃないのか?」
「(リン)じゃあ撃ちま~す」
シャー~~
「(鬼)うあぁ、兄貴ぃ!てめえらよくもぉ!」
「(リン)さすがに間に合わないんでお願いします」
「(宗佑)じゃあ、行ってきますね」
「(桃太郎)殺すなよ。あいつからは鬼ヶ島第二支部の情報を聞き出すから」
「(宗佑)心得ました」
「(鬼)この貧弱な人間がぁぁ!」
ヒュンっ
「(鬼)うあぁぁぁ!う、腕がぁぁぁ!」
「(宗佑)これでいいですかね」
「(桃太郎)上出来だ」
「(宗佑)それにしても、いい切れ味ですよね。この“蒼穹”は」
「(源八朗)当たり前だ。こいつは俺の師匠が残した最高傑作を俺の手で完成させたものだからな」
「(桃太郎)やっぱり俺の人選に狂いはなかったな。さてと、じゃあ、こいつから色々聞き出しますか」
「(鬼)一思いに殺せぇ!命乞いなんてしねぇぞぉ!」
「(桃太郎)鬼ヶ島第二支部の警備状況について教えてもらうぞ」
「(鬼)誰がてめえらなんかに教えるかぁ!」
「(宗佑)意外と強情ですね」
「(桃太郎)安心しろ。こういうときのために色々勉強しておいた」
「(リン)なんですかぁ?ええと、『初心者でも安心 わかりやすい拷問 これであいつもゲロっちゃう♪(上)』、って……」
「(源八朗)ずいぶんえげつないもの持ってるな」
「(桃太郎)さあ、知ってること全部しゃべってもらおうか」
「(鬼)誰がお前なんかに…!な、やめろ!そこはぁ!あふんっ、おうっ!ぎゃぁぁ!あおぅん!きょあぅぇぇ!…………」
「(宗佑)子供は見てはいけません」
宗佑はリンの両目を手で覆いました。
「(リン)え?なにしてるんですかぁ?なんで変な声とありえないような音が出てるんですかぁ?」
「(源八朗)お、おれもリンちゃんにあんなことされたら……ぬおぉぉぉぉぉ!!」
「(リン)な、なんか隣で変なオーラが出てる気が…」
「(宗佑)あ、終わったみたいですね」
見ると、リンと宗助の前方には体中の穴という穴から体液が染み出してヒクヒクしている鬼と、色々とメモしている桃太郎。横に目を向けると、火照った体でゴロゴロ転がりながら何かを口ずさんでビクビクしている気色悪いオヤジが一人。
「とりあえずあいつからの情報によれば…」
桃太郎は仲間たちに鬼ヶ島のことを説明し始めました。
「……とまあ、こんな具合らしい」
「意外とずさんですね」
「その分楽でいいじゃねえか」
「だが、念には念を入れておく必要がある。比較的ずさんなだけで戦力的にはあっちの方が有利と言える」
そうして、桃太郎は宗佑と鬼ヶ島上陸作戦の思案を。リンは各種武装の改良や整備。源八朗はリンに萌えながら武器の製造を。それぞれ行いました。
その間、鬼の襲来が二回ありましたが、もはや戦力を小出ししてくる鬼に勝ち目はなく、巨大な肉塊が増えるばかりでした。
そして、桃太郎たちは準備を終えました。
「(桃太郎)よし、じゃあ行くか」
「(リン)準備完了です」
「(源八朗)武器弾薬も数そろったしな」
「(宗佑)それに、そろそろあちらもしびれを切らすころでしょうしね」
「(リン)そういえば、まだわたし、作戦聞いてないんですけど」
「(源八朗)俺もだ」
「(桃太郎)ああ、そういやそうだったな」
桃太郎は手短に今回の作戦について説明しました。
「(リン)…あの、ほんとにそれわたしがやるんですかぁ~?」
「(源八朗)そうだ。リンちゃんには危険すぎる!」
「(リン)それなら、わたしの新発明を使った方が…」
「(宗佑)また何か新しい武器ですか?」
「(リン)はい。この『超超高高熱射砲“消しちゃうんです”』を使えば、鬼ヶ島なんかここから跡形もなく消し去ることが可能ですぅ」
桃太郎はしばらく考えました。
「(桃太郎)却下」
「(リン)え~!?なんでですかぁ?」
「(桃太郎)おもしろくない」
「(リン)そ、そんなことでぇ!?」
「(桃太郎)敵の姿を確認しないまま殲滅してしまっては面白みがないからな」
「(宗佑)それもそうですね」
「(リン)同調しないでください~」
「(源八朗)リンちゃん。どんな時でも俺は君の味方だぜ。どんなときでも、俺はリンちゃんを…………うおぉぉぉぉぉ!!」
「(リン)もうわけわかんないですぅ!」
「(桃太郎)心配するな。あの一ヶ月の訓練でお前はかなりの進歩を遂げている。新撰組なら七番隊の隊長くらいの実力だ」
「(源八朗)新撰組…?」
「(桃太郎)ああ、そういやまだ江戸初期だったな。あとがんばって二百年ちょい長生きできれば見られるぞ」
「(宗佑)相当な努力が必要ですね」
「(源八朗)いやー、まったくだ」
「(リン)わたし、がんばりますっ!」
このとき、近くにいた村の娘は何か言おうと桃太郎たちに近づこうとしましたが、あえて何も言わずにその場を通り過ぎました。やはり誰かつっこみ役がいないと話に収集つきませんね。よい子のみんなは気をつけよう!
「(桃太郎)さて、作戦開始時刻まであと三十分だ。準備はもうできている。あとは……」
桃太郎一行は、そのすぐ後にこの村を出発し、以前鬼が乗ってきた船を使って鬼ヶ島第二支部を目指しました。
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