その5 さんにん目の仲間ができました

 桃太郎一行はせめてあと一人くらい仲間がほしいよな、ということで、もう一人くらい仲間を探すために町を闊歩していました。

「どんな人がいいですかねぇ?」

「そうだな。ここまで来たら、やっぱ魔導師がほしいな」

「なんのことですかぁ?」

「つまり、今風に言えば妖術使い、ですかね」

「もしくは銃なんか扱えるやつがいれば便利かな」

 などと話していると、ちょうど鍛冶屋の前にさしかかりました。

「よし、ここにしよう」

 桃太郎はガタガタと戸を開けました。中には巨大な体躯の男が一人、熱い鉄に向き合って唸っています。

「なんの用だ?」

 男の図太い声が部屋に響きました。

「ここは何を扱ってんだい?」

「刀から鉄砲まで、鉄ならなんでもまかせとけ」

「いいねえ。ところで、あんた強いか?」

 男の目がギラリと光りました。口の周りを覆っている髭が余計に迫力を増しています。

「強いかだって?俺はあの大合戦の最前線を生き抜いた男だぜ」

「なら都合がいい。俺たち、これから鬼退治に行くんだ。仲間になってくれ」

「鬼退治だぁ?」

「ああ。強い仲間を探してたんだ」

「鬼なんてほっとけ」

「みんな鬼にひどい目に遭ってんだろ?」

「もう何年かすれば徳川の軍勢が再編成される。鬼はあいつらに任せておけばいい」

「でも、俺たちならすぐに退治できる」

「俺はなぁ、もう戦わねえって決めたんだ。俺はもうあんな虚しい戦いはしたくねえ。だから、今はこうして前線から身を引いて鍛冶屋をやっている」

「そうか。どうしてもだめか?」

「俺はテコでも動かねえぞ」

「そうか、じゃあしょうがない」

 桃太郎はあきらめて帰ろうとしました。

「どうやら駄目みたいですね」

 笑みを崩さない青年の声。

「でも、この後はどうするんですかぁ?」

 幼い少女のあどけない声。……を聞いたとき、鍛冶屋の男がピクリと反応しました。

 男はそうっと顔を向けると、まだ幼い少女に視線を向けました。リンはその視線にびっくりして思わず桃太郎の影に隠れました。

「どうした?」

「おいお前。そ、その子もお前の仲間か?」

「ああ」

「その子も、い、一緒に行くのか?」

「あ、ああ」

 男の声が上ずりはじめました。

「よし、お前らの仲間になってやる」

「ええ!?いいのか?」

「ああ。男に二言はねえ」

「さっきテコでも動かねえとか言ってたじゃねえか」

「そんなこと言ったか?」

「虚しい戦いはしたくないんじゃなかったのかよ!?」

「何を言う?あんな凶暴な鬼は退治せねばなるまい」

 桃太郎は理解に苦しみました。それを宗佑はすぐに解決してくれます。

「いいですか、桃太郎さん。つまり、彼はこういうことです」

 宗佑はリンを見えないように自分の後ろに隠しました。

 男の顔はかなり怖いです。

「しかし、こうしれば」

 宗佑はリンを男に見えるように前に立たせました。

 男の顔がほんのり朱に染まり、表情が緩くなり、心なしか呼吸が荒くなったように感じます。

「おい、これはまさか……」

「はい。つまり彼は今風に言えばロリコンなわけです」

「今風なのか、それ……」

 さらに男を観察すると、男の手が、指が小刻みにプルプル震えています。目が血走っています。興奮状態です。

「お、お嬢ちゃん、お名前は?」

 少女の体がビクンと震えました。怯えています。当然ですが。

「リ、リンですぅ~…」

「リンちゃんかぁ、かぁわいい名前だねぇ。歳は?」

「こ、九つですぅ…」

 男は大きく身を振るいだしました。

「やっぱり女子おなごはこれくらいがいちばんじゃあ!」

 とうとう涙まで流して叫びだしました。本格的に重症です。

「…………よし、仲間ゲット」

「え~!?わたしは嫌ですぅ~。怖いですぅ~。死んじゃいますぅ~」

「大丈夫ですよ(笑)」

「大丈夫じゃないですぅ~」

「めんこいのう!めんこいのう!」

「やばいですよぅ~」

 そんなリンを無視して、桃太郎は鍛冶屋に手を差し出します。

「桃太郎だ。とろしく」

「おれぁ、源八朗だ。よろしくたのむぜ」

「宗佑です」

「よろしくな、兄ちゃん」

「リ、リンですぅ」

「俺のことはお兄ちゃんって呼んでくれ」

「い、いやですぅ~」

 なんだかおかしい流れになってきましたが、とりあえず新しい仲間をゲットしました。


 鍛冶屋の源八朗が仲間になった。

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